<カテゴリ:TS-930>
長い時間放置していたTS-930に久しぶりに電源を入れると受信感度が大幅に低下している場合があります。過去の修理事例をまとめて紹介します。
1.アンテナなし時のノイズも受信信号も非常に小さい。Sメーターもほとんど振れない。
電解コンデンサが劣化し、各回路が正常に動作していないもの。 通電を3時間くらい続けると自然に治ってきます。20年以上通電しなかったら、この症状がまず発生します。
2.アンテナを接続していない時のノイズは正常のようだけど、受信感度が悪い。Sメーターの振れも正常時の半分以下。
メカニカルスイッチの接点接触不良。
アンテナ端子から入力された信号はふたつのメカニカルSWを通った後、BPF回路に接続されます。ひとつは受信用アンテナの切り替えSW。もうひとつはトランスバーターなどを接続したとき、アンテナ系の切り替えの為に設けられたSWです。いずれもスライドSWですが、このSWの接触不良が結構多く発生していました。SWの端子をピンセットなどでショートすると、受信感度が大幅に改善しますので、すぐに判断できます。SWをカチカチと何度も切り替えると良くなる事もありますが、完全ではありません。接点復活剤を注入して何度かSWを切り替えると直ります。 このようにして修理して3年以上経過していますが、問題の再発はありません。
接点復活剤として、最近、あるOMさんから紹介していただいたスプレーを紹介します。 左の「KURE」印のスプレーです。 従来品よりベトツキが無く、他の部品への悪影響もかなり少ないようです。 基板の清掃にも使えると言うことから、64QFPのマイコンをはぎ取り、フラックスだらけの基板に吹きかけて、布でふき取るとフラックスを含めて除去でき、簡単に基板がきれいになります。 新しいマイコンをハンダ付けする時など、重宝しております。 サイズも2種類あり、価格もリーズナブルです。 多分、近くのホームセンターで手に入る事でしょう。
(2015年9月追記)
BPF回路のスイッチングダイオードの劣化。
各BPFをバンドSWにより切り替えますが、この切り替えはBPFの入力と出力に設けられたダイオードスイッチで行っています。このダイオードが劣化すると、感度ダウンやイメージ妨害排除能力のダウンが起こります。感度のダウンは聞いていたら判りますが、イメージ妨害排除能力のダウンは、単純に聞いていても判りません。受信感度をチェックしようと思い立ったときは、このスイッチングダイオードのチェックをお勧めします。私のチェックでは4台の修理品のうち2台に劣化したダイオードが有りました。海外の修理情報では、かなり頻繁に発生しているみたいです。
感度がダウンしている場合、全バンドだったり、特定のバンドだったりします。感度が足りないと思われるときは、RFプリアンプ入力に、アンテナ信号を直接加えてみると判ります。左の写真に示すようにアンテナ入力線のコネクターとRFプリアンプの入力線のコネクターを基板から抜き取り、このふたつをお互いに接続すると、受信感度が大幅に改善する場合、ダイオードが劣化している可能性があります。 ただし、このテストの場合、BPFを通りませんのでダイオードが正常でも感度が少し良くなります。ほんとうに原因がダイオードであるかは、ダイオードをチェックしなければ判りません。
電源OFF状態で、すべてのダイオードの導通テストをします。BPFの周囲にあるダイオード全てを当たれば安心です。順方向の抵抗分が大きくなっている場合、そのバンドで感度小が発生します。逆方向の抵抗分が小さくなっていたり、ショートしている場合、イメージ妨害排除能力が著しく低下していると思われます。対象となるダイオードはD15からD35までです。
ダイオードの不良を発見したら、交換することになりますが、正規のダイオードは多分入手できないでしょうから、代替品としてロームの1SS133をお勧めします。このダイオードは名前はショットキーダイオードですが、VFが一般のシリコンダイオードとほぼ同じ0.6Vくらです。ロームのデータシートでは汎用品で高周波用とは書いてありませんが、構造がショットキーダイオードであることから、実際の接合容量値は0.8PFくらいしかありません。 値段も安いですから、大量に買い込んで色々なところで使用しています。日立の1S2076Aか東芝の1S1555Vかで市場が2分されていた時代にロームが殴りこみをかけてきたダイオードですねェ。
(参考:表面実装の場合1SS400がお勧め。)
ダイオードのチェックや交換が終わりましたら、次は全局発の周波数を正確に合わせなおします。 周波数の詳細はサービスマニュアルに記載されています。日本語のサービスマニュアルはWEB上で見つける事はできませんでした。英語版なら見つける事ができます。
「Welcome to the Kenwood Hybrid File page of N6WK」で検索すると、色々な資料をダウンロードできるページを見つけられるでしょう。
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2014年5月追記
メイン機として使用中のTS930Sの受信感度がかなり低下しているようで、先日のWPXコンテストでも、SメーターがS9以上振れるのは野呂山山頂からの信号のみで、全てのDX局がS7以下でした。サイクル24も下り坂だからと諦めていましたが、どうもリグの故障みたいです。サブ機のTS850SでS5で聞こえる信号が930ではS1以下です。
ダイオードが壊れたのかとチェックすると、案の定、D22の逆方向インピーダンスが300Ωくらいしかありません。D22は14-18MHz用のダイオードですから、21メガ受信時、イメージ妨害排除能力はかなりダウンしていた模様ですが、これを1SS133に交換した後も、受信感度は、Sひとつくらいは改善したものの、TS850Sにはまだ及びません。 BPFとIF回路のトランスの同調ポイントがずれている可能性もありましたので、サービスマニュアルを頼りにこれらのコイルを再調整することにしました。
SSGが有りませんので、14MHz付近の周波数にセットしたアンテナアナライザーと急きょこの為に手作りしたATTをアンテナ端子との間に入れ、かつ930のATTを30dBに設定すると、SメーターがS7くらい振れています。この状態で、IFトランスのT3,T4,T5,L125,L126,L127のコアを回してSメーターが最大に振れるように調整した結果、SメーターはS9+10dBくらいまで振れるようになりました。
次に、周波数を29MHz付近にして、Sメーター最大になるようL43を調整。周波数を21MHz付近にしてL45を調整、最後に周波数を25MHz付近にしてL44を調整しSメーターが最大に振れるようにしました。この状態でSメーターはS9+20dBまで振れるようになりました。 BPF回路の調整はスィープジュネレーターを使い、バンド全体がフラットになるように調整するのが正しいやり方ですが、私の場合、21MHz、24MHz、28MHzの各ハムバンドで感度最高になれば、ハムバンド以外はどうでも良いので、スィープジュネレーターが無くても問題ありません。
なお、プリント基板に印刷されているシルクプリントの間違いが結構あります。D32とD33は逆ですね。
この再調整で、比較したTS850Sより感度は良くなりました。 結局、オリジナル状態より30dBくらい感度ダウンが起きていたようです。
今回、コメットのアンテナアナライザーCAA-500をSSG代わりに使いましたが、周波数はかなり安定しており、通電後30分以上たつと、受信時のビート音の変化は感じられなくなりました。受信機の調整は、この周波数安定度と、いかにして弱い振幅一定の信号を作るかにかかっております。 CAA-500のアンテナコネクター部分の出力レベルは全バンドでほぼ一定で約-2dBmくらいです。 これとATTがあればSSGの代用ができます。このTS-930Sは受信感度の劣化が定期的におこりますので、-20dBから-90dBくらいを連続可変できるATTを作ってしまいました。ジャンク箱の中にあった部品だけで作りましたので、ATTの絶対値は判りませんせんが、受信機能の調整道具としては、28MHz帯まで十分実用になります。
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