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2012年7月11日 (水)

プリセット式MTU 3

<カテゴリ:マルチバンドアンテナシステム>

14MHz以上のハイバンドのMTUが完成したので、次は、10MHz以下の対応です。ハイバンドのMTUを検討している最中に「TLW」という名のアンテナチューナーのシュミレーターを使い始めました。ARRL発行のCD-ROM版アンテナハンドブックの中にあります。(うまくいかないアンテナチューナーを見かねた、1エリアのOMさんがわざわざ送ってくださった物です。) このシュミレーターソフトの利点はバリコンにかかる電圧とチューナーのロスが一発で判ることです。特に耐圧問題で悩んでいる時は重宝します。

3.5MHz用のMTUのコイルをシュミレーターソフトで計算したら、当然、直径18mmのボビンでは不足です。直径34mmに変更して、このサイズをベースにMTUを並べたときの寸法を決めます。

Img_3086_2Img_3108_2

MTUは3.5,  3.7, 3.8, 7.0, 7.1, 10.1の6個並べる予定ですので、アルミアングルのスリット位置を決めていきます。 まず3.5MHz用を作成し、テストすることにしました。出力50Wくらいで、ものの見事にバリコンが絶縁破壊。いままでのシュミレーションでヤバイと思っていましたが的中です。T型では無理と、このバンドはπタイプに変更決定。バリコンの容量を増やす為、3枚しかない羽を5枚にしたポリバリコンに、45年くらい前に確保していた50V耐圧のセラミックコンデンサをパラ付けして調整完了。シュミレーションでは数百ボルトの電圧になりますが50V耐圧のセラミックコンデンサは良く耐えます。最近のセラミックコンデンサは耐圧オーバーしたら正直に絶縁破壊しますが、昭和40年代のセラミックコンデンサは50Vと書いてあっても1000Vくらいの耐力がありました。やみくもに使っている訳ではありません。決して真似しませんように。

Img_3111 7MHz用も惰性でπタイプで製作。10MHz用はTタイプです。 7MHzで出力を上げていくと、SWRが少しづつ悪化していき、100Wにするとほぼ無限大に。こういう変化をするのは、大抵フェライトコアが関係するのですが、案の定、バランとして使っていたフェライトコアがあっちっちで、一部のワイヤーのビニール絶縁が溶けています。どうも、雑に作ったバランが7MHz付近で共振したみたいです。バランを廃止する検討を以前やったことがありましたが、バランを廃止したとたん、24や28メガでノイズが増えるという現象があり、一応バランはそれなりに役立っているため、廃止は出来ません。シャックの中にあるMTUで使っているバランはすでに2年使って問題なしですので、これと交換しました。

クランプコアに巻いた、このバランは、浮遊容量が大きく、ローバンドでロスを増加させていましたので、フェライトバータイプに変更しました。詳細は、バランによるロスを参照下さい。

Img_3103_2 すると、バランに含まれるインダクタンス成分が変ったことによりハイバンドの全バンドを再調整する必要が生じました。調整はMTUですからすぐに完了し、念の為と、送信テストすると、18MHzでスパーク発生。ポリバリコンのPPシートに穴が開き、絶縁破壊していました。バランを交換したことにより、MTU位置での電圧値が変り、5KV以上の電圧がかかった模様です。せっかく落ち着いていた絶縁破壊のトラブルがまた再燃してきました。

TLWとMMANAを駆使して同調フィーダーの最適長を割り出すと、現在のMTUの並びが悪い事がわかりました。従来は9台のMTUを上から周波数の高い順に並べていました。特に深い理由などなく、周波数が高いから上、くらいの認識です。また、アンテナ、MTU、同軸ケーブルの配置も集中定数的な考えで、MTU BOXの中の取り付け状態によりMTUの位置が40cmも違うという事も無視されていました。かって、同調フィーダーを10cm間隔で切断して調整するような作業も意味をなさないような構造です。

Mtusetuzoku1 ここは分布定数的な考えで、同調フィーダーの長さがシビアに効く周波数の高いバンドのMTUを一番アンテナに近いところに置き、MTUの配置による誤差を最小とし、かつ信号の流れも分布定数の考えを取り入れ、すっきりさせました。この結果、バリコンにかかる電圧がほぼシュミレーション通りとなり、シュミレーションで得られた同調フィーダーの長さでフルパワー運用が可能になりました。

3.5MHzをアンテナアナライザーで調整したときとのSWR最小周波数が実際の送信状態でのSWR最小周波数とずれを生じます。

以前、この対策の為、アナライザー調整時も同軸ケーブルのGNDはMTUにつなぐ必要ありとして、そのように対応してきたのですが、3.5MHzでは20KHzくらいずれます。原因は同軸ケーブル側に設けたコモンモードフィルターの能力不足でした。フェライトコアに3D2Vを7ターン巻いたフィルターを1個から2個にしたら直りました。

7MHzはアンテナ単体でほぼ目的の周波数に共振しており、7MHzのMTUはインピーダンス整合だけの役目しかしていないのですが、このような状態で雨が降ると、リアクタンスの変化が大きく、πタイプのMTUでカバーしきれないという問題が発生しました。晴れた日に調整して置き、雨が降ったからと再調整しようとすると、コイルまで修正しなければなりません。これは非常に不便です。ここで、Tタイプにした時のバリコンにかかる電圧をTLWで調べると、共振周波数にほぼ合っていることもあり、100Wでも500Vくらいしか加わらないことが判りました。また、チューナーによるロスはπタイプが1%くらいに対してTタイプが5%くらいです。調整の不便さからこのロスの差は我慢することにして、7MHzはTタイプに戻しました。

 MTUの完成度が上がってくると、今まで、こんなもんだろうと妥協していた部分も気になるようになります。28MHzは28.05MHzと28.5MHZを中心としたふたつのMTUで構成していますが、このMTUに使われているコイルに、かなり大きな差があります。ひとつが4ターンなのに、もうひとつは6ターンです。シュミレーションしても、この付近にリアクタンスの変極点はないので、少なくともバリコンの角度は変っても、コイルは同じもので良いはず。 思考錯誤していましたら、コントロールケーブルの中のワイヤーを、指で触れると整合状態が変る事を発見。どうも、28MHzの信号がケーブルの芯線に流れ込んでいるみたいです。  その芯線は、リレーを選択する4ビットライン。このラインにはチョークコイルをいれてあるはずと、探しても見つかりません。どうやら付け忘れ。ジャンク箱にあった100uHくらいのコイルを4個追加しましたら、28MHzのふたつのMTUのコイルは、いずれも、4ターンで整合が取れるようになりました。

Feeder_2

左側の画像は、MTUに接続される同調フィーダーや、同軸ケーブル、コントロールケーブを処理した状態です。 ハイバンド用のスカイドア用同調フィーダーは当初設定より2m長くしましたので、画像のごとくジグザグ状に束ね、かつ機械的に動かないようにプラスティックの支柱に縛り付けてあります。 雨が降ったり、強風によりSWRが変化する量をかなり改善できています。

7MHz用垂直ダイポールをMTUを使い、3.5から10MHzまでカバーするようにしたアンテナシステムが出来上がりました。7と10メガのノイズは減少しました。7メガでは、Sふたつも減少しましたが、同時に信号も、Sふたつ落ちました。1000Km以上離れた局はそれほどでもありませんが、近隣の局ほどSの落ち込みが大きくなりました。JCC移動局をコールしたら以前は、一番か、かなり早い順番でピックアップしてもらえたのに、このMTUでは、なかなかピックアップしてくれません。中にはコールしてスタンバイするとCQを出していたとか。どうやら水平に張ってあった同調フィーダーからかなり輻射していた模様です。それがなくなった為、打ち上げ角が下がり、国内交信能力は大幅に落ちてしまいました。 一方、DXに対しては応答率がかなり上がり、コンテストのときなど、一番最初にピックアップしてもらえる確率が増えました。 これが本来の姿でしょうから、国内QSO対策は別途考えることにします。

10MHzは最近DXの入感と巡り合う機会が少なくなって比較しにくいですが、100エンティティをWorkedできました。

3.5MHzは逆にノイズも信号も上昇しました。その程度はS1くらいです。原因は同調フィーダーによるロスとアンテナチューナーによるロスを、合計で約6dBくらいの改善が出来ていますので、それがそのまま、受信時のSメーターの振れになっているようです。 また、帯域幅が大幅に向上しました。  同調フィーダー使用時のSWR1.3の帯域幅は、13KHzしかありませんでしたが、これが47KHzまで広がりました。
ただ、4エリアや5エリアに対して、このアンテナでは、ストレスが溜まるくらい飛んでくれませんので、国内コンテストの時は、臨時にフルサイズ逆Vを仮設しています。

プリセット式MTU 4へつづく 

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