2013年11月10日 (日)

バランによるロス

<カテゴリ:アンテナチューナー>

MMANAのシュミレーションによる給電部のインピーダンスや共振周波数が、アンテナアナライザで測定した給電部のインピーダンスや共振周波数と、かなり差がありましたが、MMANAの癖やアンテナの周囲の影響だろうと、諦めていました。 しかし、最近、3.5MHzの効率の改善を行うべく、トランスだけの整合回路を実験したところ、使われているバランが、期待している状態になっていない事に気付きました。

今まで使用していたバランは、コアのギャップに紙を挟み、コアの磁気飽和を防止するようにしたクランプコアを使っていました。 そして、ハイバンドでノイズカット能力が確認できるなど、それなりに機能していました。平衡線をコアに巻いたフロートバランの場合、片側のラインだけを見ると、大きなインダクタンスにより不平衡電流を阻止しますが、バランの中を流れる平衡電流に対しては、インダクタンスは往復でキャンセルされ、実質ゼロになるのが理想です。 しかし、実際はこの平衡電流に対しても、インダクタンスを有し、実測で0.56uHくらいになっていました。      給電線に0.56uHのインダクタンスが存在しても、ローディングコイルが挿入されたのと同じ効果ですから、MTUを使う整合システムでは、これを含めて整合させますので、問題になる事は、ほとんどありません。 

しかし、3.5MHzで、バランのインダクタンスを加味したシュミレーション結果は、共振周波数もインピーダンスも全く一致しないのに、バラン無しの時の共振周波数のMMANAシュミレーション結果と実測結果はかなり一致している事が判りました。    原因は平衡線間の静電容量かも知れないと、この容量を測ってみました。Balan2_3

すると、58PFの容量が検出されました。そして、左上の回路のごとく、バランとアンテナとの間に、この58PFを挿入して、MMANAでシュミレーションすると、一致とはいかないまでも、かなり近い共振周波数を得る事ができました。 なお、インピーダンスはMMANAに注釈がある通り、シュミレーション値よりかなり高い実測値でした。 また、この静電容量有り無しによるゲイン差から、静電容量がある方が約16%もロスしている事が判りました。 

線間容量が増えた原因は、バランスを重視する為、平衡するワイヤーを互いによじった事が一番影響しているようです。

バランの線間容量が増えると、低い周波数での影響は小さいですが、高い周波数になると、これが、Qの低いローパス型のアンテナチューナーを形成し、みかけのインピーダンスを小さくしてしまいます。インピーダンスが小さくなると、これに整合するように調整されたアンテナチューナーのロスが増え、バランによるロス以上にアンテナチューナーのロスが増えてしまいます。また、バランの自己共振周波数を下げてしまいますので、共振周波数より高い周波数では、バランの効果は期待できません。今までのバランの共振周波数は約28MHzでしたので、28MHzの調整がシュミレーション通りにいかない原因にもなっていました。

通常のバランでは、ワイヤーを互いによじった方が良いと解説されていますが、純抵抗になった共振状態のアンテナに使う場合、広帯域性を確保するために必要でも、今回のような同調フィーダーを使用したアンテナチューナーに使う時は、弊害が大きいようです。

実際に困るのは、ロスが増加する事以上にシュミレーションと実際の共振周波数やインピーダンスが大幅にずれてしまい、調整の方向性を時々見失う事です。

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線間容量を減らすには、線どうしをよじらないことと、線間の距離を大きくする必要から、絶縁材の厚い電線を使いますので、クランプコアには巻く事が出来ず、フェライトバーに巻くことにしました。    フェライトバーは入手の都合で100mmの長さのものにし、電線はUHF用メガネフィーダーの外皮を裂いて、中の芯線を取り出し、利用しました。

このバランの往復線路上のインダクタンスは約0.9uHで、クランプコアよりバランスは悪くなっていますが、線間容量は約28.5PFまで改善しました。これを3.5MHzで使った時のロスは8%くらいですので、クランプコアより8%は改善できた事になります。 このバランの自己共振周波数は31MHz付近になりましたので、とりあえず、10mバンドまでは使えるでしょう。

3.5MHzで8%くらいのロスなら、28MHzではもっと大きいのでは?とMMANAとTLWでシュミレーションしてみました。所が、以外と影響は少ない結果がでました。

Balanloss10m 「チューナー出力」で示す数値は100%の入力に対してチューナーから出力される割合です。92%とある場合、100W入力した時、チューナー出力は92Wしかなく、8Wロスしたという意味になります。

「バラン無しを100%とした時」の数値はチューナー出力にゲインの差を加味した数値です。

ロスの値はチューナーに使われているコイルのQで大きく変わります。私のチューナーで使われているコイルのQは100くらいですから、バランの有り無しで約6%くらいしか変わりません。 実際にバラン有り無しで、28MHzをワッチすると、Sの差はほとんどありませんが、ノイズはSふたつほど、バラン無しの方が多くなります。

同調フィーダーにバランを使ったとき、共振周波数が大きくずれたり、パワーがロスしているような気配を感じたら、一度バランの線間容量を疑ってみる価値はありそうです。

先輩諸氏が、フェライトバーに平行線を巻いて、バランを作成していますが、磁気飽和だけの問題ではなく、線間容量の増大という問題も同時に解決する手段でもあるんですね。 今回は、メガネフィーダーの芯線を取り出して、巻線しましたが、色々とアドバイスをして頂いたOMから、メガネフィーダーの黒色の外被ごと巻き込んで好結果を得たという話を伺った事を思い出しました。

この問題の提起となった、トランスにより整合させた3.5MHz用アンテナは、どういう訳か、パイマッチのMTUより受信時のSが落ちてしまいました。 その後の調査で、アンテナ整合回路によって、アンテナの打ち上げ角が変わるという問題である事が判りました。 

 

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2013年10月21日 (月)

アンテナシステム立て替え

 <カテゴリ:マルチバンドアンテナシステム>

T26_hason四国沖の太平洋を北東に進む台風26号を甘くみていました。夜中の3時ごろ、アンテナが折れて倒れてしまいました。10段つなぎの下から2段目の部分で折れており、アンテナは3階のベランダから逆さまにぶら下がっていましたので、明るくなるのを待って、早々に壊れたアンテナを撤去しました。

アンテナがなければ何もできませんので、立て替える事にしましたが、構造は従来通りとし、スカイドアの横幅を小さくし、見てくれを少しだけ改善することにしました。ポールは10m EXTRAというドイツ製のポールをインターネットで見つけて、その日の内に注文。

 

Sk1310s_2ポールが届くまでの間に、MMANAでシュミレーションです。 横幅を3mから2.6mに縮小した代わりに、従来のループ長を変えない為に、ループの高さを5.4mから5.9mに変更しました。 各バンドの特性を確認すると、14MHzと28MHzで0.2dBくらいゲインがダウンし、21MHzでは逆に0.2dBくらいゲインがアップします。インピーダンスの変化もわずかで、MTUで調整範囲と見込まれます。

次の日、ポールが届いて、プラスアルファの長さを得る為に、余っている釣竿を継ぎ足しますと、なんと12.8mにもなってしまいました。 従来のポールは釣竿を継ぎ足しても11mでしたので、これでは長すぎます。 継ぎ足す釣竿の段数を減らし、ポールの高さは11.5mに留めることにしました。これで、7MHzの垂直ダイポールは上部エレメントのみ50cm長くなったオフセット給電になりますが、MTUのカバー範囲ですので、これもOKとします。

横幅を縮小した為、見た目は、スリムになりました。 また、6mのヘンテナの給電部分が垂れ下がって、アンテナを上げ下げする度に、共振周波数がずれるという問題がありましたので、今回、グラスファイバーの支柱を追加して安定させました。 

ポールの直径が一回り大きくなり、ステーを固定するマストベアリングが、マストの根本から挿入できない事をアンテナが完成してから気づき、アンテナを分解して、マストの先端からマストベアリングを挿入するという、面倒事もありましたが、また、元の位置に立てる事ができました。 色が黒からグレーになった関係で、少し目立ちます。

前回のアンテナは1年半の寿命でしたが、今回はせめて3年はもたせたいですね。

Mtu131207

ベランダに置かれたMTUも若干増加しました。右側の列の上から2番目に有った、3.7MHz用MTUを3.8MHz用に変更し、3番目のMTUは3.5MHzの臨時逆V用のT型MTUに変更しました。  また、一番下に7MHzの臨時逆V用チューナーが追加されました。 

左側の一番下には、3.5MHz用整合回路が追加されました。 この3.5MHz用整合回路は、ローディングコイルとインピーダンス変換用トランスで構成され、チューナーとは呼びませんが、パイ型チューナーより広帯域ですので、最近の国内交信はもっぱらこの整合器を使っています。  ただ、この整合器を使うと、パイマッチのMTUより受信のSが低くなる傾向があり、原因を調査中です。
 

160m用アンテナ追加に続く

 

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2013年10月 6日 (日)

160m用短縮Whip(ホイップ)アンテナ 2

<カテゴリ:アンテナ>

ペットボトルが内側へ凹み、線間ショートが発生して使えなくなった短縮ホイップアンテナを再度作り直す事にしました。  今回のペットボトルは、特売していたキリンレモン用にしましたが、中身を飲み干して、ボトルのボディ強度をチェックすると、三ツ矢サイダーより弱い感じ。 

160mwp1_2 導線は、線間ショートが発生しにくい、1.5φのマグネットワイヤー(PEW線)を1Kg手配して、これを、ゆるみが出ない程度に軽く巻く事にしました。全巻き数は112ターンとし、下側から10ターンの所にタップを作っておきます。

160mwp3160mwp2 
これに上部エレメントとして、2mの1.25SQの銅線をつなぎますが、調整が簡単にできる様に、ミノムシクリップ付とし、クリップの移動で+/-20KHzくらいの可変が出来るようにしました。

このコイルを6.3mの釣竿にくくりつけて、竿を持ち上げると、結構竿がしなります。前回はアルミ線で、重さ200gでしたので、さほど感じませんでしたが、今回は600gと、かなり重くなってしまいました。 風のある日は要注意です。

下側のエレメントのクリップで、タップの部分をつかんでおき、アンテナアナライザーをつなぎ、1.910MHzで50Ωのインピーダンスになるようにコイルの巻き数と、上部エレメントをカット&トライします。  コイルの上端から30cmのヒゲを出し、これを長さ152cmまでカットした上部エレメントのクリップでつかみ、共振周波数を微調整します。 

この状態で。下側のエレメントをタップからコイルの端部へ移すと1.817MHzに同調するようにタップから下側のコイルの巻き数を調整しました。

調整完了した時点で、1.9MHz時のコイルの巻き数は99.7ターン。1.8MHz用に巻き足した部分は9.4ターンとなり、この状態でのSWRは1.910MHzで1.0、 1.817MHzで1.1くらいに収まっています。いずれの場合でもSWR1.5の幅は+/-2.5KHz程度でかなり狭いです。

 160mwp4_2アンテナアナライザーで調整完了したので、実際の送信機で確認してみました。 10W出力では、OKなのですが、出力を40Wまで上げると、SWRが2くらいまで跳ね上がります。 出力を20Wくらいまで下げると、SWRは次第に下がり、10Wのときと同等まで変化します。

このような変化は温度に関係します。しかも、パワーを上げたら、SWRが悪化し、下げれば良くなるというのは、どこかでパワーロスしている証拠です。 しかし、アンテナを倒し、コイルを握っても温度差は感じられません。 良く見ると、上部エレメントの先端部分より上の約10cmくらいの長さの釣竿が燃えてしまい短くなっていました。 ワイヤーの塩ビ被覆のこげ具合から、スパークが起こったと思われます。  対策案もすぐには出てこないので、とりあえず、ワイヤーの先端から5cmくらいのところで折り曲げ、先端と釣竿の間に隙間を確保しました。 この状態で再度送信テストを行うと、60W連続送信では、SWRが変化しなくなりました。

夜になるのを待って、まず受信性能の比較。 ちょうど7エリアの局がCQを出していましたので、7MHz用垂直ダイポールと比較しました。 垂直ダイポールではS7でしたが、この短縮ホイップではS9です。前回のアルミ線では、これほどの差は無かったような気がします。 他のエリアの局を聞き比べても、Sひとつ以上の差がある事は確かです。 先端が、シャックより低い位置にある短縮ホイップが、7MHz垂直ダイポール+NT-636の組み合わせより、良い事だけははっきりしました。

CQ局を呼んだり、CQを出したりして、 すでに3局とQSOでき、喜んでいると、通りがかりのドライバーが、わざわざ車を止めて、短縮ホイップを見ているという話が飛び込んできました。 まさか?と思い、CQを出しながら、窓を開け、アンテナを見ると、キーイングに同期してアンテナの先端に紫色の光が見え、時々火花が散っていました。 コロナ放電です。  出力が60Wくらいでは起こりませんが、100Wにすると発生します。 SWRは1.5以下ですが、フラフラしています。 昼間は、明るくて見えませんでしたが、40Wの出力で、この現象がより激しく起こっていたのでしょう。

160hpcorona2 

JA1AEA鈴木OM著「キュービカル・クワッド」の中に出てくる、キトーの4エレ八木が火花を散らすシーンを思い出してしまいました。 ここは、標高230m。 コイルのQが上がったのか? アースが良すぎるのか? とにかく、火花は散りますが、交信はできます。 さあ、どうしようか?    対策が必要です。

とりあえず、その晩は出力を絞って、交信する事にしました。  交信できたのは全部で7局。コロナ放電以外は、好結果でした。

160hpcorona3次の日の朝、この垂直ホイップを撤収し、まず、コロナ放電対策です。上部エレメントの先端に丸型端子をカシメ、先端に丸みを持たせました。市販のホイップアンテナの先端には飾りを兼ねて、キャップが付けられていますが、あれも、コロナ放電対策ですね。

このコロナ放電対策は有効に機能し、100WのCW送信でもSWRは安定しています。  やっと、フルパワーで運用出来るようになりました。

また、上部エレメントをミノムシクリップでくわえて長さを調整できるようにしていましたが、釣竿を立てたり、倒したりしている内に、外れる事が多く、ワイヤークリップタイプに変更しました。 ワイヤークリップのビスをプラスチックのノブ付に変えましたので、簡単にワイヤーの長さの変更が可能になりました。 この部分を1cmスライドさせると、周波数は約5KHz変わります。

160mhp10_2160mhp11_2 

暗くなってから、再度コロナ放電を確認しましたが、OKのようです。 この日の晩に交信できた局は8エリアから6エリアまで全9局。途中、従来の7MHz用垂直ダイポールに切り替えたりして比較しましたが、受信時の信号強度差がそのまま送信でも現れているようでした。 

後日、実際のアンテナとMMANAのシュミレーション状態を比較してみました。 残念ながら、一致しているとは言えませんでした。多分、コイルのインダクタンスとQがシュミレーションより大きいのではないかと思われます。また、ポールの高さを8m品に変えると、共振周波数やインピーダンスがずれますが、シュミレーション値との差が大きくなる事もわかりました。 多分、地上高が高くなった分、地面の影響より周囲の影響を強く受けるようになったと思われます。 MMANAでのシュミレーションはあくまでも、傾向を知る程度にしておくべきでしょう。


このアンテナの性能を確認するために、2013年のCQ WWコンテストに参加してみました。受信はモスクワ、北京、北米などがS9くらいで聞こえますが、応答しても、QRZすら返ってきませんでした。+20dBで入感していた、ソウルとサハリンと交信でき一応ポイントは計上できましたが、このホイップアンテナは1600Kmくらいが限界かも知れません。ちなみに、このバンドでCQを出しているJA局は、のきなみ+20~+40dBで入感していました。

送信能力を上げるには、QROするか、アンテナの効率アップしか方法はありません。QROは街の真ん中ですのであきらめ、効率アップが期待できるロングワイヤーアンテナを検討する事にします。

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2013年9月28日 (土)

160m用短縮Whip(ホイップ)アンテナ 1

<カテゴリ:アンテナ>

160mバンドで、S9のCQに応答しても、全く無視される事が多い、7MHz用垂直ダイポール+T型アンテナチューナーより、少しは応答率が上がるかも知れないという、移動用の超短縮型Whip(ホイップ)アンテナを実験しました。

160hoip6原型は、CQ誌で紹介されたり、インターネット上でも製作例が多い、大型コイルを使った全長6.3mのホイップアンテナです。 なぜ、アースが重要になるWhipを選んだかと言うと、家の敷地の隣に約40m四方の調整池があり、その周りを金網の塀でしっかり取り囲んでいます。この金網の接地抵抗を以前ブリッジ法で測った事があり、正確では有りませんが、40Ω以下でした。 直流抵抗が40Ωでも全長130mの金網は大地に対して、大きな静電容量が期待できます。 この金網をアースとして使えば、FBなアンテナが出来そうですが、北側や西側には土手が有り、東側には我が家があり、唯一、南側だけが開けているという立地条件で、適当なアンテナの構想が無く利用していませんでした。

今回、移動用160mアンテナを実験するに際し、この金網をアースとして使えるかを含め実験する事にしました。

実験するのは、全長6.3mの釣竿に、ペットボトルに巻いたコイルを吊り下げた超短縮型ホイップアンテナです。  竿の先端は、7MHz用垂直ダイポールの給電点より低いというこのアンテナを、MMANAでシュミレーションし、そこそこの特性が得られましたので、実際に製作にかかりました。

コイルの導線は園芸用に安く売られているコーティングされた1.5φのアルミ線を使います。 また、ボビンは定番の三ツ矢サイダー用ペットボトルとしました。

160hoip1160hoip2 

コイルは、シュミレーションでは100ターンで検討しましたが、後でほどいて調整できるように巻けるだけ巻いた結果、117ターンになりました。

160hoip3

160hoip9_2このアンテナの特性はMMANAでのシュミレーションで以下のような要領で調整してゆけば良い事が判りました。

・ コイルのインダクタンスと上部エレメントの長さを調整し、希望の周波数に共振させますが、最初は、仮に巻いたコイルのままで、1.25SQのKIV線で2mくらいの長さのワイヤーを取り付け、希望周波数近くになるよう、少しづつカットします。この仮のコイルのままで、周波数を合わせ込むと、カットし過ぎになりますので、要領が判るまで、上部エレメントは何回か作り替える覚悟が必要です。

・ 小さいインダクタンスと長いワイヤーでも、大きいインダクタンスと短いワイヤーでも同じ共振周波数を得る事が出来ますが、上部エレメントを長くすると、共振時のインピーダンスが下がってきます。 共振状態でのインピーダンスをアンテナアナライザーでチェックする事により、コイルとワイヤーをどうすれば良いかすぐに判断が出来ます。 シュミレーション状態より多くの巻き数で作ってある場合、インピーダンスは50Ωより高めに出ますので、せっせと、コイルをほどく事になります。

・ 上部エレメントの直径を太くすると、共振周波数が下がります。コイルをほどきすぎた場合、共振時のインピーダンスをあまり変化させる事無く、周波数を下げる事ができます。 具体的には、1.25SQのワイヤーを3C2Vの芯線と外被をショートした同軸に変えると、ほどきすぎたコイルをそのまま使う事ができます。 長さと共振周波数の関係はかなりクリチカルで、ニッパで切断する場合、5mm間隔くらいで慎重に切断していきます。

・ コイルのQを上げると、インピーダンスが下がり、ゲインはアップします。高いQのコイルを使用できる場合、上部エレメントを短くして、コイルのインダクタンスを上げれば、整合できます。 もっと高さのあるポールを使える場合、下部エレメントを長くするだけで、ゲインは上がります。 しかし、よりゲインを上げたければ、コイルの位置を下の方へ下げ、最大ゲインにした状態で、20~30Ωになったインピーダンスに整合するトランスを使った方が良いみたいです。

・ コイルから下のエレメントはかなりブロードで、下側のエレメントを変更して、特性を調整するような事は無理です。 たるんだ、ワイヤーを地面に這わせてもあまり変化しませんでした。

・ コイルのインダクタンスを微調整する為に、良く使われる、アルミのショートリングを近づけると、共振周波数の変化以上にインピーダンスの変化が大きく、調整不能になりますので、コイルは面倒でも、ほどいたり、巻き足す方法でカットアンドトライします。

 初日は、SWR 1.0で、とりあえず1.817MHzに同調しておりましたので、次の日、1.910MHzに同調するよう、タップを設け、タップを切り替えながら、ふたつの周波数が使えるように、完成度を上げる事にしました。

ところが、いざ、確認すると、昨日まで、1.817MHzで50Ωであったのに、共振周波数が上へずれて、かつ、インピーダンスが、200Ωくらいになっており、当然SWRも4くらいを示します。半日かけて判った原因はコイルの線間ショートでした。使っている、アルミ線は表面がコーティングされ、一応テスターで当たる限り絶縁されていますが、UEW線みたいに絶縁強度のスペックがある訳もなく、ちょっとした擦り傷で絶縁が壊れ、ショートしてしまいます。

電線をUEWかPEWに変える事を考えましたが、うまくいくかどうかも判らないアンテナに数千円のマグネットワイヤーは無理と、100円ショップで入手した9号サイズのテグスを、線と線の間に巻き込むことにしました。

 

160hoip5160hoip4 

左は手芸用品売り場で見つけた100円のテグス。9号サイズ30mと書いてありましたが、実際は38mくらいありました。 右は、そのテグスをアルミ線の隙間に巻き込んだ状態。もともと、完全な密巻きではなかったので、横幅の広がりもなく線間距離を確保できるようになりました。

このアンテナの アースは2個のミノムシクリップで金網を挟む事にし、設置や撤去がすぐにできるようにしています。 また、1.8MHzと1.9MHzの切り替えは、コイルのタップをミノムシクリップでくわえる方法です。 1.910で約55Ωくらい、1.817で約45Ωくらいのインピーダンスになりました。  コイルの巻き数は1.9のとき100Tくらい、1.8のとき110Tくらいになりましたが、最後はカット&トライしましたので、正確には数えていません。 防水は考慮してませんので、雨が降ったら、多分使用できないでしょう。

160hoip7160hoip8 

夜になるのを待って、ワッチしてみました。3エリアからのCQが聞こえます。受信能力は7MHz用垂直ダイポールより少しS/Nが良いというレベルですが、送信すると、垂直ダイポールではQRZすら返ってこないのに、この短縮ホイップでは、コールバックがあり交信成立。 この日のコンディションはあまり良く有りませんでしたが、とりあえず、CQを出してみました。さらに2局ほどとQSOできました。

飛びという面では、7MHz用垂直ダイポールよりはるかに優秀です。

気を良くしてCQを出していると、突然、SWRが無限大になりました。外に出て、アンテナ直下のSWRを確認しましたが、同じく、無限大。アナライザーで確認すると、共振周波数が2.2MHzくらいまで上昇し、インピーダンスも200Ω以上になっています。線間ショートが起こった時の症状です。

160hoip10_2翌朝、釣竿を縮めて、コイルに手が届く位置にして、SWRを確認してみると、コイルがバラバラになりかけており、コイルにちょっと触れただけで、あっちこっちで線間ショートが起こっていました。この原因は、コイルとテグスをきつく締めすぎた為、ペットボトルが内側につぶれてしまったものでした。たぶん、巻線の途中で一部凹みが出来てしまい、それが、長時間の間に耐えられなくなり全体に広がり、つぶれてしまったのでしょう。

10分足らずの交信テストでしたが、国内交信なら、7MHz用垂直ダイポール+アンテナチューナーより可能性が大きい事が判りました。

これは、作り直しの価値があります。 また、三ツ矢サイダーを買いに行く事にします。

160m用短縮Whip(ホイップ)アンテナ 2 に続く。

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2013年9月27日 (金)

コイルのQとショーティングスイッチ

<カテゴリ:アンテナチューナー>

160m用の短縮Whip(ホイップ)を検討中に判ったことです。 コイルの線間ショートが起こると、当然インダクタンスは減少する訳で、共振周波数が高い方へずれます。しかし、正常時、50Ωくらいの給電点インピーダンスが、200Ωくらいに跳ね上がりました。このインピーダンスの変化は、コイルのQに関係しているかも知れないと、別のコイルを使い、Qを実測する事にしました。

Qtest1左のコイルはメーカー製アンテナチューナーに内臓されていたステアタイト製のコイルです。

7MHzで、このコイルのQを測ってみる事にしました。

Q測定用エクセルファイルをダウンロード

まずは、①-③間のQを測り、このコイルの基本性能を把握します。

次に、①-②間のQを測ります。②と③の間は2ターン分となっていますので、この②-③間をオープンのままの時、及びショートした時のQをそれぞれ測ります。

また、コイルのショート位置が影響するか調べる為、①から電力を加え②にバリコンを接続した時と、②から電力を加え、①にバリコンを接続した時のQも比較しました。

②-③間オープンとショートでインダクタンスが変わりますので、アンテナアナライザーにて測定した共振周波数の変化から推定したインダクタンスと、このインピーダンスの変化から逆算したQ値を一緒に示します。

 Qtest4_2

 

上の表がその結果です。

このコイルの①-③間のQは7MHzで189ありました。かなり優秀なコイルと思われます。

次に、①-②間のQを②-③間をオープンにしたりショートしたり、また、コイルの向きを入れ替えたりして測定しました。コイルの向きを変えた時のQの差を確認したのは、いわゆる、コールド側でのショートと、ホット側でのショートに差が出るかを見たものですが、結果は測定誤差と考えられ、基本的には、変化無しと見てよさそうです。

Qtest3

しかし、②-③間のショートとオープンでは、明らかに差が生じており、インダクタンスもわずかに変化しますが、それ以上にQが変化し、ショートの時、逆算値以上に悪化しています。

この現象は、インダクタンスを形成する磁路の中に、ショート回路を挿入した事により生じるもので、線間ショートだけでなく、インダクタンスを可変する目的で、磁路に挿入するショートリングにも当てはまります。コイルの中に、または外側に、円筒形のアルミや銅板を挿入してインダクタンスを可変するバリアブルインダクターも同様です。

アンテナチューナーや、送信機のコイルのタップを切り替えるとき、選択しないタップどうしをショートする切り替え回路をたまに見ます。これは、オープンにした場合、タップの位置や使用周波数によって、高電圧が発生し、スパークするのを防止するのが目的ですが、当然、このようなショーティング方式のコイル切り替えもQの低下を招く事になります。

メーカー設計の場合、このQの低下を見越して、その他の回路が設計されているでしょうから、問題は有りませんが、自作のアンテナチューナーや送信機のタンク回路の場合、気にする必要がありそうです。

また、インダクタンスをショートリングで可変するような可変インダクターは、インダクタンスを小さくすると、リアクタンスの減少する割合以上にQが減少すると考えられます。

なお、ATUなどでは、使用しないコイルをリレーでショート していますが、これらのコイルはトロイダルコアなどを使い、それぞれのコイルの磁路が影響しないようになっていますので、問題はありません。

 

最初に疑問を提起した、160m用短縮Whip(ホイップ)アンテナはMMANAでも、きれいにシュミレーションする事ができます。

コイルのQを100として、共振時のインピーダンスを50Ωに設計しておき、このアンテナのインピーダンスが200Ωくらいまで跳ね上がる時の、コイルのQを逆算すると、約Q=25で、実験結果と同じような数値が得られます。

160mに使われる短縮コイルが1ターンショートしただけで、Qは1/4までダウンするという事は、致命的な問題です。インダクタンスの調整の為、コイルをショートするとか、アルミ板や銅板でインダクタンスをキャンセルさせるような手段は、あまりお勧めできませんね。

その後の実験で、コイルのQが高すぎて、調整がしずらいアンテナチューナーに出くわしました。 また、100W送信時、オープン状態のコイルの端からスパークするという現象も経験しました。 Qが高ければ高いほど良いとは言えませんが。

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2013年8月17日 (土)

エレキー用パドルの製作

<カテゴリー:キーパドル>

移動運用に使う為に、軽い小型のパドルを手作りしました。

パドルを手作りしようと思い立ったら、まず、最初に、どんな材料が手にはいるか?とホームセンターや100円ショップ廻りをする事になります。まだ、図面化できていませんが、構想だけは持って、部品を物色する訳ですが、同じような事をしている様子は、良くホームセンターで見られる光景ですね。

約1週間くらいかけて、入手可能な材料と構造が固まりましたので、集めた材料を元に詳細設計を開始しました。

集めてきた材料です。

Pdlalknob_2

左のアルミ棒はキーアームに、右のプラスチックは、ライオン事務機の番号札と言われるもので5色各2枚組で売られていたものですが、パドルのツマミになります。

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左のまな板は切り出して、パドルのベースに使います。右のビスは装飾を兼ねた取り付けビスとリード線を止める為の手ネジ端子に利用します。

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接点用の小ネジ、キーアームの支点を構成する為の寸法精度の良いスリーブ、接点間隔調整用手ネジなどを集めました。これ以外に、固定用の汎用ビスやコイルスプリングなどを確保して、具体的な設計製図をJW-CADを使って行います。

私の工具は、卓上ボール盤と卓上丸鋸だけですから、精度はあまり期待できません。寸法が重要な部分は既成パーツで間に合わせるのが一番です。

また、アルミ材に開ける穴の垂直度はかなり重要になりますので、ボール盤用のバイスとマスキーブロックと言われる、マグネット式のアダプターを使いました。

JW-CADで作成した組み立て図です。

Pdl1
Pdl2_2パドルとして一番重要な可動支点は、キーアームが軽いタッチで左右に回転し、かつ、上下方向にはガタが無く、シーソー運動も無いという構造を実現する為、タッピングビス2本で上下より支え、ビスの締め具合で調整するという構造にしました。

実際に作ると、左右の回転も上下のガタも、当初の構想通り出来るのですが、アームが水平になりません。

最初、支点になる穴は貫通穴としましたが、アルミ材に対して垂直度が出なく、裏表で穴位置が異なります。この為、アーム先端で3mm以上の段差が出てしまいました。アームが2本平行していますので、この2本分がそろわない事もあって、余計に目立つという事になります。2回目の加工品は、支点の穴を貫通させず、裏表それぞれ同じ位置に個別に穴をあけたところ、アーム先端で1mmくらいの段差になりましたので、一応、これで我慢する事にしました。

Pdlup1Img_0892s


キーアームの接点部分には1.6mmのビスをねじ込みました。(左上) また、この接点間隔を調整する為、手ネジを用意し、振動で間隔が変わらないようにスプリングで荷重をかけました。  アームのストッパー部分は消音の意味もあり、3mmのビスに赤色のビニールテープを巻きつけ、ストップ位置はテープの巻きつけ回数で調整しました。

接点を常にオープン状態に保持する為、つまみの固定ビスの部分にコイルスプリングを入れてあります。(右上)

コイルスプリングの強さはキー操作時のフィーリングに影響するので、最初、長めのスプリングを入れておき、実際にキーイングしながら、最適になるようスプリングを切り詰めていきました。

Img_0281


Img_0877s組み立て完了後の裏側です。

キーアームの支点となる2本のビスは裏側からもその高さが調整できるようにプラスチックベースをくりぬいてあります。

予定通り軽くなるように作りましたので、実際に使う時は、クッション材と両面テープを用意し、適当な台の上に張り付けて使用します。

クッションのサイズが前後で異なってしまったのは失敗でした。 2台目を作る時は、改良することにしますが、この1号機はこのままです。

下の画像は、完成したパドルをQRPトランシーバーのTOPパネルに張り付けた状態。

実際の移動運用時、このようにして交信しています。  エレキー回路はC-MOS ICによる自作回路で、このトランシーバーの中に内臓しています。 また、PICマイコンによるエレキー回路自作例は、トランシーバー内臓ではありませんが、エレキー回路の自作(PIC12F675) に有ります。

Pdlrig

2017年9月

Padolmk2

また移動運用を再開しましたが、パドルの底に付けた両面テープは粘着力がほとんどなくなり、キーイングの操作ミスが多発するようになりました。 やむなく左手でキーを押さえて右手でキーイングするという状態でした。 

そこで、ホームセンターで見つけた建築材用の大型角型ワッシャを重しとして追加しました。 ただし、そのままではテーブルの上で滑りますので、底にスポンジを張り付けてあります。

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2013年7月13日 (土)

430MHz用垂直ダイポールアンテナ

<カテゴリ:アンテナ>

6m & Downコンテストに毎年参加していますが、過去430MHzバンドはON AIRした事はなく、6mと2mのみにON AIRしていました。理由は430のリグは有りますが、アンテナが無いので諦めていた訳です。

このコンテストが始まる当日の朝、なんとか簡単なものでも出来ないものかと、物置を物色すると、昔、衛星通信用のクロス八木に使ったNとBNCコネクターが加工された同軸ケーブルが見つかりました。ケーブルはごつい8D2Vタイプでしたので、これに2mくらいの3D2Vを継ぎ足してケーブルを確保。 一番簡単なアンテナはダイポールということで、MMANAでシュミレーションしながら、実現可能なアンテナサイズを検討することにしました。

最初は単純な1/2λの長さで最適寸法を求めましたが、少しゲインがあるかも知れないという、片方の長さが5/8λになるダイポールとマッチング用スタブの付いたものを検討しましたら、ゲインが10dBiを超えるものができる事がわかりました。

430vdp1_2 430vdp2_2

全体の長さを5/4λにしておき、スタブを22cmのオープンタイプとすると、スタブのほぼ中央から給電したとき、SWRが1.1以下に収まりそうです。MMANAでシュミレーションした通りの寸法でアンテナを組み立ててみました。

430vdp4_3 材料は、物置に有り余っているグラスファイバー釣竿の未使用ロッドです。細くて使いにくいとかの理由でかなり残っていましたので、これに直径1.2mmの銅線を添わせ、ビニールテープで固定します。ビニールテープは高周波特性が悪くロスが出るといいますが、それは高周波絶縁に使った時の話。空中に持ち上げたら、絶縁は空気がになう事になりますので、無関係になります。ただし、雨が降ると、ビニールテープも絶縁の一部をになうので良くないみたいですが。

430cdp3 MMANAのシュミレーションで得られた寸法通り作成した上で、スタブの部分は後で同軸ケーブルのハンダつけ箇所を移動させる必要から、かなりの部分にハンダメッキを施し、修正が簡単にできるようにしておきます。

プラスチックのまな板から切り出したクロスマウントを2個作成し、ロックタイでくくりつけると簡単にアンテナができあがりました。これを長さ3mの釣竿の先にくくりつけベランダに立てました。アンテナはかろうじて屋根から顔を出している状態です。

さっそく、アンテナアナライザーをつなぎ、調整です。ところが、なんと433MHzでSWR1.0付近になっていました。周波数を可変すると430MHzから436MHz付近までSWR1.3以下。

過去いくつもアンテナを作ってきましたが、シュミレーション通りの寸法で一発でOKになった事は一度もなく、今回は、もうラッキーという以前に驚いてしまいました。 実際の送信機と外付けSWR計でみてもSWRは1.0です。たまにはこういう事もあるのですね。

こうやって、朝8時過ぎくらいから始めたにわかアンテナ作りは約3時間で完了。

コンテストは夜9時からですから、誰か電波を出しているだろうかとワッチしますが、全く信号なし。最近はこのバンドは誰も出ていないみたい。次の日、日曜日、やっと3局とQSOでき、ナンバー交換も終わりました。 何も聞こえないのはアンテナの性ではと心配しましたが、一安心です。 一番遠い局は、5W出力で約100Km離れた坂出市でしたので、一応ちゃんと電波は飛んでいるようです。

当地はコンテスト時以外、ほとんどON AIRする局がなく、このアンテナもコンテスト終了と同時に物置へ。

430MHzのハンディ機を持って、ベランダからQSOを楽しみたい時など、使える簡単アンテナです。かなりいいかげんに作ってもすぐに使えます。

430ではなく7MHz用垂直ダイポール関連情報はこちらにあります。

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2013年6月 6日 (木)

トロイダルコイルとチューナーの内部ロス

<カテゴリ:アンテナチューナー>

カテゴリ KEM-TRX7-LITE のQRP CW トランシーバー 2で紹介の通り、QRP CWトランシーバーの中にL型アンテナチューナーを内蔵させ、移動先で架設した釣竿アンテナに簡単に整合できるため、重宝していました。 このQRPトランシーバーを、HOMEの7メガ垂直ダイポールで運用した時と、移動先の釣竿アンテナで運用した時の飛びの感覚に、大きな差があり、これはアンテナの差なのだろうと、諦めていました。 しかし、HOMEで使う時は、内臓のチューナーはスルー状態ですが、移動運用の時には内臓チューナーのコイルが目いっぱい使われるという差がある事に気付きました。

ロスの少ないアンテナチューナーを目指して、コイルのQを測る治具と、結果を自動計算するエクセルファイルを作ったついでに、このQRPトランシーバーに内臓しているコイルのQを測って見る事にしました。

Kemantc0_4 Kemantc1_3

左がQRPトランシバー内臓のコイル。右はメーカー製アンテナチューナーに内臓されていたコイル。

トランシーバーからコイルを取り出し、測定治具につなぐと、測定用に用意したTS-930の周波数カバー範囲を超えてしまい、-3dBになる周波数が測れません。治具がおかしいのではと、メーカー製チューナーに内臓されていたステアタイトボビンのコイルを測定してみると、ちゃんと200くらいのQが得られます。送信機の代わりに、アンテナアナライザーをつなぎ、周波数を広範囲に可変してみたところ、Qは約2くらいという結果が得られました。アナライザーの出力が小さいので、誤差が大きいですが、何度測りなおしても、Q=3以下しかない事は確かです。 コアの色が青色でしたので、てっきり10MHzくらいまで使えるカーボニルコアと思ったのですが、違ったようです。

短縮型の釣竿アンテナで、思っていた以上に電波が飛ばないのは、どうも、このトロイダルコアに巻いたコイルのQが原因みたいです。 TLWと言うアンテナチューナーシュミレーターはQの設定を自由に変えられますので、いままでの状態でのチューナー内ロスを計算させてみました。すると、Q=15以上でないと計算できない、とコメントがでて、計算できません。アンテナチューナーに使われるコイルのQが3以下なんてことは、想定外なんですね。

TLWの紹介資料 tlw.pdfをダウンロード

移動で良く使う釣竿アンテナのインピーダンスはMMANAのシュミレーションで11.36-J91.41Ωとなっていましたので、TLWでQ=15で計算してみると、内部損失が41.8%と表示されました。実際のQは3以下ですから、推定すると、90%以上がロスしている事になります。

QRPの5Wで送信したのに、実はQRPPの0.5Wでしたという笑い話です。そして、アンテナチューナーを内蔵させてから、0.5W出力で一度も交信できていないという事も判りました。

Kemantc3 ここまで判ると、もう、このトロイダルコアタイプのコイルなど使えません。空芯コイルに作り替えることにしました。何回か試作してQ=114のコイルが出来上がりましたので、これにタップを設けて、ビルトインさせました。このコイルの場合、釣竿アンテナの時のロスは8.6%となりますが、電池のヘタリなどを考えると誤差内になりました。

写真の空芯コイルは直径0.6mmのUEW線を直径25mmのPPシートで作ったボビンに26回巻いたもので、10個のタップを出してあります。最大インダクタンスは約15uHです。ボビンや巻線がばらけないように、セロテープで固めました。

また、移動用アンテナの形態がほぼ固定され、インピーダンスに必ずプラスのリアクタンスが含まれるようにしましたので、チューナーの回路も一部変更し、使いやすくしました。 バリコンを回した時のSWR計の動きが、かなりクリチカルになりましたので、Qが向上した事が実感できます。

Kemanttuner1

外付けチューナーならQ=200のコイルも使用できるでしょうが、それに変更してもロスの改善は5%以下ですから、持ち運びがすっきりするビルトインタイプに軍配は上がります。

この改良型チューナーをテストする為に近くの「仁賀ダム LA20」の駐車場に移動してCQを出してみました。南北に400mくらいの山があり、かなり狭いくぼ地ですが、結構沢山の局からコールをいただきました。トロイダルコイルの状態で同じ場所に2回も移動し、交信局数0であったときより大幅改善です。

一般的にアンテナチューナーに使われるコイルのQは100以上あり、そのうえで、ロスが多いの少ないのと論じているわけですから、Q=3以下など論外でした。トロイダルコアを使ったコイルを採用する時は、真っ先にコイルのQを確認する事から始めることをお勧めします。

Q測定治具の回路図と自動計算式の付いたエクセルファイルを用意しましたので、気になる方はダウンロードして試してください。 なお、7メガでQ=60くらい以下を測定しようとすると、ハムバンドを超える周波数可変が必要です。最近のハムバンド以外は送信禁止のトランシーバーでは、測定できません。 逆に言えば、最近のトランシーバーで、測定できないようなコイルは使ったらダメという事でしょう。

Q測定用エクセルファイルをダウンロード

RF電圧計やオシロが使える場合、送信機の出力は測定できる範囲で小さくした方が誤差が少なくなります。 倍電圧整流回路の場合、送信機の出力を大きくした方が誤差は少なくなります。 コイルや送信機、オシロなどの位置を変えるだけで測定値が変わります。この測定回路の場合、一番大きな数値が実際のQに近いと考えられます。


アンテナチューナーのコイル切り替え時、ショーティングタイプのコイルはQの低下が起こる事が判りましたので、このQRP用アンテナチューナーもオープンタイプに変更しました。変更は簡単で、コイルの一方のワイヤーをニッパでカットするだけです。 この変更の後、599 FBのレポートが多くなりました。

以下に変更後のチューナー回路図を示します。

Kemanttuner2 

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2013年5月30日 (木)

π型チューナーの内部ロス改善

<カテゴリ:アンテナチューナー>

プリセットチューナーに使われているチューナーの中で、唯一80mバンド用のみπ型アンテナチューナーを使っています。 チューナーの中で、一番ロスが少ないのは、L型チューナーですが、コイルの可変が大変なので、π型で我慢している状態です。   この状態で少しでもロスを小さくするため、π型の一方のコンデンサ容量を、調整できる範囲で小さくし、L型に近づけることにしました。 雨が降ると、共振周波数が低い方へずれますので、最低この補正が可能な可変範囲は確保しなければなりません。

Mtuloss2  

プリセット式MTUの最初の検討時、T型で実験し、絶縁破壊で採用しませんでしたが、この時のチューナー内部ロスはシュミレーションで73.0%程度であったと思われます。 π型に変更した今までの状態はC2が100PFくらいでしたので、67.5%くらいの内部ロスになっていた模様です。

今回、このC2を調整可能なぎりぎりまで小さくしました。結果、内部ロスが54.1%くらいまで改善したようです。このチューナーをLタイプに変更した場合、C2の値は10PF程度になります。この10PFはストレー容量で、配線図上では、C2は存在しません。この状態でも内部ロスは52.7%くらいですから、C2が25PF(ストレー容量との合計容量)の時と1.4%の差しかありませんので、ほぼLタイプ同等のロスに収まったと思われます。

Img_0621s Img_0625s

左上の画像はC2の容量を減らし、インダクタンスを大きくした改造MTUです。 左側の黄色のポリバリコンはC2に相当し、ローターの羽を2枚として、最大70PFくらいにしました。右側の赤色のポリバリコンはC1に相当しますが、ローターは羽を7枚として、最大250PFくらいを確保し、不足分は固定コンデンサをパラつけしました。この状態のMTUを右上の画像の一番上の部分に実装しました。上から3番目のMTUは改造前のものですから、左側のポリバリコンの厚みが違うことと、コイルの巻き数が違う事がわかります。

ロス改善を行ったとは言え、その差はわずか13%くらいですから、Sメーターに差が出る訳もなく、ただ、気分だけの問題ですね。今回のコイルのQは100でシュミレーションしましたが、ほぼ現物と合っていると思われます。仮に、このQを200まで上げたとしても、ロスが6%くらいしか改善しませんし、それでも約半分のパワーがロスしてしまいます。 80mバンドで成果の上がらない原因は50%短縮のアンテナそのものなのでしょう。

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2013年5月15日 (水)

エレキー回路の追加

<カテゴリ:KEM-TRX7-LITE>

このQRPキットのPICマイコンの中には、CW用のエレキーソフトが内臓され、縦振電鍵用とエレキーパドル用とに切り替えられるようになっています。ただし、エレキー用を選択したときのキーイングスピードの調整は、とてもQSO中に変更できるようなアクションになっていません。 そのため、今までは外付けのエレーキーユニットを使用していました。

移動運用するには、このQRPトランシーバーとハイモンドのシングルレバーパドル、エレキーユニット、乾電池、アンテナワイヤー、アンテナポール用の6.3m釣竿など、かなりの荷物でした。これらの荷物を少しでも減らそうと、まず、ハイモンドのパドルを自作の軽いパドルに変更しました。この自作パドルの詳細は、エレキー用パドルの製作を参照してください。 

Onkey

次に、外付けのエレキーユニットをビルトインにすることにしました。

メイン機がTS-930Sであることから、最近のモデルには当然内臓されているエレキー回路がありません。よって、外付けの回路を使っています。 この回路はサーキットハウスがキットで発売していたもので、CK-100AというN9BQタイプのC-MOS ICによる回路です。現在はマイコンタイプが一般的ですが、006Pタイプのアルカリ電池につなぎっぱなしで2年半も使用できるという、超ロングライフな消費電流の為、QRPトランシーバーに内臓するエレキー回路もこの回路をそのままコピーして使おうと考えました。

ジャンク箱をひっくり返すと、この回路に使うC-MOS ICが出てきました。HitachiブランドでHD14001のような品番です。30年くらい前のICです。これを、ユニバーサル基板に並べて、CRはチップタイプで作りました。基板の表側にはICだけしかみえませんが、1608タイプのCRは、裏側の2.5mmピッチのランドに結構うまく乗ります。 オリジナルの回路はモニター用のサイドトーン発振器もついていますが、KEMのトランシーバー側にその機能がありますので、エレーキー基板には実装しません。

Elekypwb

配線が完了して、いざ、実働テスト。 残念ながら動きません。まず、クロックジュネレーターが動作しません。 速度調整用可変抵抗を可変すると、時々発振はするけど、まともな波形ではありません。 発振回路に使う0.1uFのコンデンサは1608のセラミックでしたので、これをCK-100Aと同じようにマイラータイプに変更したら、一応発振は継続するようになりましたが、周波数の可変がうまくいきません。 電源ラインには、ごく当たり前に、47uFの電解コンデンサと0.1uFのセラミックコンデンサを挿入してありました。しかし、オリジナルの回路では、電源ラインに電解コンデンサは使用していませんので、これを廃止しましたら、連続して、きれいに発振するようになりました。 それでもまだキーイングする出力は出ません。

配線図の写し間違いが無いか再三にわたりチェックしましたが、間違いはありません。しかし、おかしな部分に気付きました。ICの各端子をオシロで当たっていくと、H/Lの動作をしていますが、9Vと7Vくらいの間を変動している端子があります。C-MOS ICの出力どうしが、つながっているようです。 少なくともキットで組み立てた回路は正しく動作していますので、CK-100Aに付属の回路図が間違っているのでしょう。 出力どうしがつながっている箇所はすぐに判りましたが、正しい接続方法は判りません。 現物の基板を何度も裏表をひっくり返しながら、やっと正しい配線方法を見つけました。 正しい配線に修正すると、正常に動作するようになりました。

基板単体でOKとなりましたので、これをQRPトランシーバーに組み込みました。しかし、今度は、クロック発振が起動しません。基板単体のとき電解コンデンサを廃止したら正常になりましたが、トランシーバーの電源ラインには電解コンデンサがいっぱい入っています。どうも、この4001によるクロック発振器は電源のインピーダンスが低いと起動しないようです。ためしに、エレーキー回路の電源ラインに直列に抵抗を入れてみました。15Ωの抵抗で発振が起動しました。さらに抵抗を大きくしていくと1KΩでも発振起動します。いくらの抵抗が最適か探りましたが良く判らず、とりあえず、電圧降下が0.1V以内に収まる47Ωとしました。

トランシーバーに組み込んで、電源SWをONにすると、ONした直後に送信状態になります。電源投入のタイミングにより、短点、または長点が発生しているものでした。電源ONするたびに、勝手に送信状態になる訳ですから、これは対策が必要です。 今までの外付け回路は電池に接続したままでしたので、この現象は2年半に1回起こるだけですから、問題になりませんでした。

対策としては、電源ON直後はキーイング出力にミューティングをかけることにしました。トランジスタ1石追加です。これで、エレキーのスピードを最低にしても電源ONで勝手に送信になる事はありません。

トランシーバーのキーイング回路をON/OFFする出力回路は、トランジスタ2石のダーリントン接続になっていますが、このベース抵抗とコレクタ抵抗の値が、通常より逆になっています。 この逆の状態でも、私が使用しているリグすべてキーイング操作は可能ですが、回路的におかしいので、定数を入れ替えました。通常はベース抵抗よりコレクタ抵抗が小さく、わずかなベース電流で大きなコレクタ電流を制御します。現在のままなら、ダーリントン接続は不要です。

5年使用したGHDキーのパドルの接点がチャタリングを起こすようになり、このチャタリングによるノイズがキークリックとして耳障りになってきましたので、ダッシュとドットの端子に3.3KΩ(R9,10)を追加しました。たったこれだけでノイズは皆無になりました。

修正済み配線図をダウンロード

配線図の中にR8 360Kというのがありますが、これはチップタイプの330Kが手持ちになかった為の代用です。AXIタイプの330Kで動作確認し、OKでしたが、実装時、サイズが大きくなりますので、あえてチップ抵抗にしました。

Img_0842t  QRPトランシーバーは12V仕様ですから、このエレキーも12Vラインへ直接つないでいます。 電池の電圧が下がるとスピードはダウンしますが、12Vから、いきなり6Vに変更して、スピードが落ちたと気付く程度の差しかありません。通常の電池交換時(約8Vくらい)までなら、スピードの変化は気が付かないかも知れません。

エレキー回路内蔵のトランシーバーが出来上がりました。最初、5Wの出力時、アンテナ回路からこのC-MOS回路へのRF回り込みを気にしましたが、写真のように実装しても誤動作はありません。

トランシーバーの改造が完了しましたので、手作りパドルを入れるケースを100円ショップで調達し、いつでも移動にでかけられるよう準備万端整いました。

Img_0573

サイドトーン回路追加に続く。

マイコン開発の勉強をする為に、このエレキーと全く同一機能のエレキーをPICマイコンで作りました。

詳細はエレキー回路の自作(PIC12F675)を参照して下さい。

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2013年5月12日 (日)

TS-930 ノイズブランカー動作せず

<カテゴリ:TS-930>

修理して使い始めてすでに4年経過していますが、最近、ノイズブランカーSWをON/OFFしてもノイズに変化が無い事に気づきました。

サブ機のTS-850では、ちゃんとノイズに差がでますので、ノイズブランカーで低減できるノイズは存在しているようです。サービスマニュアルを頼りに修理する事にしました。

SWをON/OFFしても全く変化が無いことから、フロントパネル裏のSW基板を疑いましたが、おかしな部分はありません。サービスマニュアルにある、ノイズブランカーの動作原理の説明を読みながら、オシロスコープで各トランジスターのDC電圧とノイズ波形をチェックしていきますが、ここでも、おかしいと思われる症状はみつかりません。ただし、マニュアルでは70dBのゲインがあると書かれているノイズアンプの出力波形がいやに綺麗です。70dBも増幅した後の波形は、例え入力が無くても、それなりのノイズがあるものなのですが、それが見えません。たぶんゲインが70dB無いのでしょう。一番最初に疑ったのは、ふたつの同調回路です。経時変化で同調がずれている可能性があります。

930nb1 ノイズアンプの出力になるD51のカソードにオシロのプローグを接続し、波形を見てみると、この日一番ノイズの大きかった24MHzを受信しても1Vpp以下です。そこで、同調コイルL80とL81を回して見る事にしました。D51のノイズ出力レベルが最大となるように、ふたつのコアを交互に調整しました。

調整完了した結果、D51のノイズレベルは2Vppまで上昇しました。

NB1もNB2も動作するようになりました。原因は単純に同調回路の同調ずれで、ゲインが8dBくらいダウンしたため、ノイズをブランクする、しきいち電圧までノイズレベルが達していなかったと言うものでした。

930nb2

ノイズブランカーの効きが悪いとか、効かなくなった場合、NB1をONして、NB LEVELを最大にした状態で、Sメーターがノイズで振れるバンドを選び、Sメーターの振れが最少になるよう、L80とL81を回してみて下さい。この方法ならオシロは必要ありません。

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2013年4月26日 (金)

CAA-500による同軸ケーブルの切り出し

<カテゴリ:アンテナアナライザー>

アンテナアナライザーのもうひとつの機能として、1/2λの整数倍の同軸ケーブルを切り出す利用法があります。メーカーの違うアナライザーを2機種お持ちの方から、1本の同軸ケーブルを、430MHz付近で、0Ωを指す周波数をそれぞれ測定したら、機種によって周波数が違うという相談がありましたので、この記事の公開となりました。

同軸ケーブルは短縮率という係数があり、自由空間での波長(物理長)と同軸ケーブルのような伝送線路による波長(電気長)は異なります。一般に物理長より電気長は短くなり、この短くなる程度を短縮率と言い、良く使われる5D2Vなどは、約0.67くらいの数値を示します。

アンテナをスタックで使用したいとき、複数のアンテナに最適に給電する為に、1/2λの整数倍の長さの同軸ケーブルが必要となり、長さを正確にカットする為に、アンテナアナライザーが活用される訳です。

仮に435MHzで2λの長さの同軸ケーブルが欲しい場合、まず、計算で概略のケーブル長を求めます。

435MHzの1波長の物理長は約68.9655cmです。これに公表されている短縮率0.67をかけると、約46.21cmが1波長の電気長となり、欲しいケーブルの長さは2波長ですから、これの2倍の約92.41cmが目標とする長さです。しかし、0.67とい短縮率は公称値で実際のところは、判りません。また一番重要な部分ですが、同軸ケーブルのどこからどこまでを2波長の長さにするか?という問題は、実際に切ろうとしている、本人しかその定義は知らないという事です。

これを簡単に実現する為には、上記で求めた92.41cmより少し長めに同軸を切断しておき、一方の端をショートし、もう一方の端にコネクターを付けて、アンテナアナライザーに接続し、インピーダンスメーターが0Ωを指す周波数を探します。少し、長めに切断してありますから、435MHzより、低い周波数で0Ωをさすはずです。この時、実際の同軸ケーブルの長さを測ると、その同軸ケーブルの短縮率が計算できます。

この状態で、周波数を435MHzにしておき、インピーダンスが0Ωになるまで、同軸ケーブルをすこしづつ、切り刻んでいけば、簡単に2λの同軸ケーブルが手にはいる訳です。

ここで、良く陥る問題点があります。同軸ケーブルの長さの定義はカットする人が自ら決めるものですが、アンテナアナライザーにも都合があります。

Caa500brige

CAA-500を例に取ると、435MHz用のNアンテナコネクターの先端からインピーダンスを計測するためのセンサーとなるブリッジ回路までの距離は実測で26.6mmありました。この26.6mmを含めた状態でアンテナアナライザーは0Ωの周波数を表示することになります。

たかが26.6mmと思うでしょうが、435MHzにおいては、約5.8%、周波数で、約25MHz分に相当します。これは、無視できる長さではありません。

実際に同軸を切断する場合、このアナライザー内部にある同軸線路長を切断したい同軸ケーブルに足してやらなければなりません。いくら足すかは、自ら定義した同軸ケーブルの長さ基準によります。早く言えば、Nコネクターの先端を起点にして、2λが欲しいのか?それともNコネクターのセンターを起点とした2λが欲しいのか? あるいは、その他の位置にするのか? ということです。足す長さは、決して一律に26.6mmではないということですね。

また、実際のやり方としては、435MHzで切断した後に、補正値を足すという作業は非常に困難ですので、補正したい寸法分だけ周波数を下げてカットすることになります。仮に補正値が26.6mmなら、26.6mmが周波数でどれだけ影響するかを、求めた短縮率を使って逆算します。(この短縮率の計算時も26.6mmの存在を含める必要があります。) かりに短縮率が0.67ちょうどであった場合、414.715MHzで0Ωを求めたらよいという計算結果が出てきます。

アンテナアナライザーで簡単に同軸の切り出しができるような印象がありますが、UHF帯で切り出したい場合、計算式を熟知していないと、不可能であるという事ですね。

アナライザーの構造により、センサー位置はそれぞれ異なります。他のメーカーのアナライザーでも同じことですので、435MHz当たりで同軸の切り出しを行いたいときは一度分解して正確に寸法を測って置くことをお勧めします。また、この距離をキャンセルする回路がついたモデルもあるようですので、良く中身を確かめる必要がありそうです。なお、キャンセルは、ある1点の周波数だけが可能であり、435MHzちょうどでキャンセルできるように調整してあるようです。従い他の周波数では、正しい長さは得られないでしょう。ただし、このキャンセル回路がついたアナライザーの取説に、この事は一切書かれていませんでした。推測するに、寸法の起点となる位置は付属のダミー抵抗の抵抗の位置なのでしょうが、金属ケースに収納されたダミー抵抗の位置は不明のままです。

なお、145MHzでは、Mコネクター端子を使い、切り出しを行う事になりますが、同じように、コネクター先端からセンサーの位置までは26.6mmです。その場合、26.6mm補正された周波数は約142.27MHzとなりますが、補正するかしないかは、切断する人の主観次第でしょう。

今までの話しはアナライザー側だけでしたが、切断してショート状態にしてある、もう片方の処理はどうするのか? そのままアンテナに直付けするか? それともコネクター加工してからつなぐか? コネクター加工するならコネクターの長さはいくらか? 435MHzで、同軸ケーブルの切り出しをする場合、取説のように簡単には出来ませんね。 ただ、同軸ケーブルを正確に切断しても、それは使い道が有りません。 必要なのは、2か所に給電した時の位相差ですから、一方の同軸ケーブルの長さがゼロであると定義するからこのような結果になってしまうのです。 実際のケーブル切断は、このブリッジまでの距離など気にせずに、例えば、1本の同軸を1.5波長で切断し、もう1本の同軸を1波長で切断すれば、多分両方のコネクタ加工に必要な長さは同じでしょうから、2本の同軸ケーブルの位相差は1/2λをキープしている事になります。 この時重要なのは、2本の同軸ケーブルを作成する時、アンテナアナライザーを変更しない事です。

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2013年4月 3日 (水)

SWR計と高調波

<カテゴリ:SWR計>

SWR計は送信電力の一部を整流して直流に変換し、その直流で電流計を振らせ、電力の大小を表示させますが、この整流回路は「高調波発生器」でもあります。通常、このメーターに使われる電流は非常に小さい為、高調波の発生があっても、それは無視できるレベルのものであり、色々なSWR計の記事でもほとんど触れた事はありませんでした。

しかし、今回、SWR計の回路設計の中で、ふと、この高調波発生器が気になりだし、高調波レベルを調べてみました。すると、感度の悪いメーターを無理に振らせると、送信機の技術基準をオーバーする高調波を発生させる可能性がある事が判りました。

以下、SWRメーターのDC電流と発生する高調波の実験記です。

下の回路が実験回路です。 トロイダルトランスを使ったCM結合器で、メーターを接続すれば、すぐに進行波電力と反射電力を直読できるように調整してあります。
この状態で、反射電力側は無負荷状態にしておき、進行波電力側には電流計と、この電流を可変できる可変抵抗を付けました。



Swrhmc2_2


上記、回路の左側ANT端子には50Ωのダミー抵抗を接続し、右側のTX端子から、10Wの信号を加えます。 50Ωのダミー抵抗の両端から20dB以上のATTを経由してスペアナに接続し、第2高調波のレベルを測ります。 周波数は14MHzと50MHzとしました。

Swrharmonic2


DC電流がゼロ、すなわち、送信機自体が発生する第2高調波レベルは、14MHzで-72dB、50MHzで-62dBでした。この送信機でメーターに流れるDC電流を次第に増加させていくと次の表のような結果が得られました。

Swrhmdt2
R14は1N60にシリーズに入った抵抗です。通常のCM結合器では0Ωに設定されています。14MHzの時は、ベースの高調波も少ない事もあり、2mA取り出しても-60dB以下でしたが、50MHzでは250μA取り出したとき、ちょうど-60dBとなりました。

この状態でR14を500Ωまで大きくすると、14MHzでは、大きな効果は見られませんでしたが、50MHzでは-60dBになるDC電流は500μAまで向上しました。

このトロイダルコアを使ったCM結合器の場合、周波数が高いほど高調波の発生頻度が高くなるようです。 また、その高調波は整流回路のコンデンサに充電するときのピーク電流に関係しているようです。

50MHzに於いて、出力10W時のアンテナへ送り込まれる高調波レベルの限度を-60dBとすると、実験で使った送信機の場合、R14が0Ωのとき、流せる電流は250μAがMAXとなります。送信出力とDC電流の関係は比例関係にあり、出力の電流が2倍になれば、DC電流も2倍までOKとなります。出力を40Wまで上げると、DC電流も500μAまでOKとなると言うことです。 

逆に言えば、フルスケール100μAのメーターを使った場合、R14が0Ωでも、1.6Wのパワーでフルスケールになるように定数設定してもOK。R14が500Ωの場合、0.4Wのパワーで測定できるように定数を選んでもOKと言うことになります。

また、今回、トロイダルトランスは16Tで実験しましたが、これを8Tに変えても結果は同じでした。発生する高調波レベルは、トランスの分流比に関係なく、送信出力とDC電流の条件だけで成立するということです。

このCM結合器は2mで使用すると、パワー表示が20%くらいダウンするのですが、145MHzで、R14を0Ωとして、同じようにテストしてみました。
送信機自身の第2高調波レベルが-65dBあり、このレベルが1dB悪化するレベル(-64dB)になるときのDC電流は5mAでした。

高調波の発生は28MHzとか50MHz付近が一番大きいようです。

SWR計を自作する場合、使用する電流計の感度はなるべく高いものを使用する必要があるようです。特に、50MHz用の場合、200μA以上の感度の悪いメーターは避けることと、ダイオードに直列に数百Ωの抵抗をいれるべきでしょう。

また、QRP用のSWR計で、アナログメーターを直接振らせようとするときは、メーター感度には十分注意が必要です。ブリッジ回路を用いた、アンテナアナライザーと同じ原理でSWRを測定する回路なら、通常の送信時には、この整流回路が切り離されますので、最も安全な方法でしょう。

ブリッジ回路による実際の製作例はトロイダルコイルによるアンテナチューナーの内部ロスを参照下さい。

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2013年1月28日 (月)

YAESU G-800DXAの修理

<カテゴリ:ローテーター>

YAESUのローテーターのコントローラーの修理を頼まれました。 私のFT-450が誘導雷により壊れた同じ日に、落雷の直撃を受けたタワーに設置してあったローテーターとのこと。

電源を入れてもヒューズが飛び全く動作しない状態ですので、雷により、電源を含めた、かなり電力の高い範囲が損傷しているようです。

ローテーターの場合、回路図があれば、なんとかなるのですが、幸い今回は、八重洲無線から正規ルートで回路図を入手できており、回路図とテスターだけで、対応できました。

壊れていたのは、

  • Q1(2SC5198)が全端子ショート。
  • Q1025(2SC2812)全端子オープン。
  • D1031,1032(1SR154-400)ショート。
  • C1049(0.01uF)リーク。・・・ローテーターのポテンションメーターのセンター端子に接続されたコンデンサ。

2SC5198 は秋月に有りましたので、秋月で販売していた2SC3325(2SC2812の代用)と一緒に購入。 1SR154-400は手持ちの1N4002で代用。 C1049も手持ちの1608タイプのチップコンデンサに交換。

G800dxa_0_2


以上で修理完了です。

G800dxa_1
このコントローラーの設計は良くできています。   制御回路と動力回路が完全に分離された基板に乗っていて、電源系統もそれぞれ独立しています。雷の直撃を受けても、制御回路は、ローテーター内臓のポテンションメーターからの入力部分にあるセラッミクコンデンサがリーク(実際はショートに近い)しているだけで、その他の回路は、無傷で残っているのは偶然ではなさそうです。

ローテーターの修理をする為に、配線図が欲しい場合、YAESUのUSAホームページから取説をダウンロードすると、最後のページに付いています。解像度が悪いので、目を凝らしても、よく見えませんが、正規ルートで入手した配線図も、同じように良く見えませんでした。

下記のサービスマニュアルの中に基板部分だけですが、きれいな配線図があります。     全体図はUSAホームページからダウンロードした配線図を参照して下さい。

G-800DXA, G-1000DXAのサービスマニュアルのダウンロード。

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2013年1月23日 (水)

3.5MHz ALC動作異常(RFフィードバック)

<カテゴリ:マルチバンドアンテナシステム>

TS-850Sをメインで使っていた時、3.5MHzで、ALCがかかり過ぎ、フルパワーが出ないという問題がありました。TS-930Sの修理が完了して、運用していると、TS-930Sでも少しその傾向があります。 2モデルとも似たような問題があるのなら、これはトランシーバーが原因ではなく、アンテナ系に原因がありそうです。

大進無線から買った、コモンモード電流計で色々なケーブルのコモンモード電流を測ってみると、大きな電流が流れているケーブルが見つかりました。プリセットMTUをコントロールする8芯ケーブルです。同軸ケーブルの10倍以上のコモンモード電流が検出されました。

すでにコネクター加工済みのケーブルですので、コネクターを外さずにチョークコイルが巻けるようにFT240#43というコアを手配し、対策することにしました。

80mcomon1


このアンテナシステムは、「プリセット式MTU 3」 で紹介の通り、Cの部分に厳重にチョークを挿入し、かつ、各トランシーバーからのアンテナケーブルE,Fにもコモンモードチョークが挿入され、Aの部分にもMTUのキャビネット内ですが、チョークが挿入され、全バンドうまく動作していました。  しかし、BとDの部分にはチョークは入っていない状態でした。

Img_0310
そこで、DとBの位置にチョークを追加し、コモンモード電流を1/20以下にしました。 左の写真はプリセットコントローラーに内臓されている送信機、アンテナの切り替え回路に接続されるケーブル類に追加された、トロイダルコアに巻かれたコモンモードチョークです。

DとBにコモンモードチョークを挿入したことにより、3.5MHzのプリセットMTUの整合がずれました。  コントローラーケーブルが悪さしていた影響が無くなった為でしょうから、MTUを再調整してALCテストを実施してみました。 ところが、全く改善されません。

思考錯誤の結果、Aの部分にFT240コアによるチョークをいれると、ALC動作の異常が無くなりました。 今まで挿入されていたクランプコアによるチョークでは能力不足だったようです。

80mcomon3左の写真がプリセットMTU側に挿入されたコントロールケーブル用コモンモードチョークと同軸ケーブル用コモンモードチョークです。 これで問題点が解消した理由は以下の通りです。

プリセットMTUとリグの間はケーブル長で約22mあります。  3.5MHzの場合、1/4波長の長さに近いですから、プリセットMTU側から流れ出た電流はリグ付近では電圧腹を少し過ぎたあたりでかなり高い電圧がかかっていたようです。この高電圧がトランシーバーへフィードバックしALC用のレベルピックアップ回路を誤動作させていたものでした。

また、この電圧腹の付近には火災報知器の検出器があり、時々、3.5MHzのアンテナの調整を間違うと火災報知器のベルが鳴りだす原因でもありました。

 

コモンモードチョークはMTUの近くに挿入しただけで、ALC動作異常は解消しましたが、現在は、コントローラー側を含めて、両方に挿入してあります。

6m_chorkこのマルチバンドアンテナシステムには、6m用のヘンテナも同居しており、ベランダの手すり付近でバランによる、平衡/不平衡変換とインピーダンス変換の後、そこから、約20mの同軸ケーブルでリグに接続しております。

この6m用の同軸ケーブルはシャック内では、長さに余裕があり、バランに接続するベランダ側では、ギリギリの長さになっていました。 その為、宙吊りのバランに張力がかかり、リード線の被覆が割れてしまい、中の導体があらわになっている状態でしたので、この同軸ケーブルを50cmくらいベランダ側にたぐって、張力を緩和してやりました。

数日後、コンテストに備えて、3.5MHzの試験電波を出したところ、火災報知器のベルが鳴りだしました。 翌日、詳細をチェックすると、この6m用の同軸にも3.5MHzが乗り、ちょうど火災報知器の当たりで電圧腹になった事がわかりました。わずかに、50cm移動しただけでしたが、これが致命傷になったようです。結局、この6mの同軸ケーブルにも、チョークコイルを追加する事になりました。

 

チョークを挿入してから、3.5MHzも7MHzも、近隣の局からの応答率が、さらに悪くなりました。 今まで、地上高8mに水平に展開していたコントロールケーブルや同軸ケーブルがカウンターポイズの役目をして、打ち上げ角を高くしていたと思われます。 国内コンテストの時だけは、臨時の2バンド用のフルサイズ逆Vでトライする事にします。

Comon2m_2

しかしながら、まだ、火災報知器が誤動作する要因が有りました。HFアンテナのすぐそばに2m用のJポールが立っており、このアンテナの同軸ケーブルも22mくらいあります。  たまたま、この同軸をリグから外していたところ、3.5Mhzで30W以上出すと、火災報知器が鳴り出します。同軸ケーブルのGNDをリグにつなぐと、鳴りません。  3.5メガのとき、まだ、打ち上げ角を下げられない要因があるみたいです。この2m用同軸ケーブルにも、FT240によるチョークを追加する事にしました。当初5D2Vの同軸を5ターンしか巻いていませんでしたが、火災報知器の誤動作は解消していました。 しかし、4エリアや5エリアの局の信号が結構強く入感するので、打ち上げ角はあまり改善していないようです。そこで、3D2Vの同軸に変更し12ターン品に変えました。これでしばらく様子見です。

2014年10月

このHFのスカイドアに近接したJポールはスカイドアのエレメントと干渉して、特定の方向にヌルポイントを生じさせる事が判りました。 その為、3.5MHzの打ち上げ角への影響を確認する前に、Jポールのアンテナごと撤去されてしまいました。

 

 

アンテナシステム立て替え へ続く


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