2013年4月26日 (金)

CAA-500による同軸ケーブルの切り出し

<カテゴリ:アンテナアナライザー>

アンテナアナライザーのもうひとつの機能として、1/2λの整数倍の同軸ケーブルを切り出す利用法があります。メーカーの違うアナライザーを2機種お持ちの方から、1本の同軸ケーブルを、430MHz付近で、0Ωを指す周波数をそれぞれ測定したら、機種によって周波数が違うという相談がありましたので、この記事の公開となりました。

同軸ケーブルは短縮率という係数があり、自由空間での波長(物理長)と同軸ケーブルのような伝送線路による波長(電気長)は異なります。一般に物理長より電気長は短くなり、この短くなる程度を短縮率と言い、良く使われる5D2Vなどは、約0.67くらいの数値を示します。

アンテナをスタックで使用したいとき、複数のアンテナに最適に給電する為に、1/2λの整数倍の長さの同軸ケーブルが必要となり、長さを正確にカットする為に、アンテナアナライザーが活用される訳です。

仮に435MHzで2λの長さの同軸ケーブルが欲しい場合、まず、計算で概略のケーブル長を求めます。

435MHzの1波長の物理長は約68.9655cmです。これに公表されている短縮率0.67をかけると、約46.21cmが1波長の電気長となり、欲しいケーブルの長さは2波長ですから、これの2倍の約92.41cmが目標とする長さです。しかし、0.67とい短縮率は公称値で実際のところは、判りません。また一番重要な部分ですが、同軸ケーブルのどこからどこまでを2波長の長さにするか?という問題は、実際に切ろうとしている、本人しかその定義は知らないという事です。

これを簡単に実現する為には、上記で求めた92.41cmより少し長めに同軸を切断しておき、一方の端をショートし、もう一方の端にコネクターを付けて、アンテナアナライザーに接続し、インピーダンスメーターが0Ωを指す周波数を探します。少し、長めに切断してありますから、435MHzより、低い周波数で0Ωをさすはずです。この時、実際の同軸ケーブルの長さを測ると、その同軸ケーブルの短縮率が計算できます。

この状態で、周波数を435MHzにしておき、インピーダンスが0Ωになるまで、同軸ケーブルをすこしづつ、切り刻んでいけば、簡単に2λの同軸ケーブルが手にはいる訳です。

ここで、良く陥る問題点があります。同軸ケーブルの長さの定義はカットする人が自ら決めるものですが、アンテナアナライザーにも都合があります。

Caa500brige

CAA-500を例に取ると、435MHz用のNアンテナコネクターの先端からインピーダンスを計測するためのセンサーとなるブリッジ回路までの距離は実測で26.6mmありました。この26.6mmを含めた状態でアンテナアナライザーは0Ωの周波数を表示することになります。

たかが26.6mmと思うでしょうが、435MHzにおいては、約5.8%、周波数で、約25MHz分に相当します。これは、無視できる長さではありません。

実際に同軸を切断する場合、このアナライザー内部にある同軸線路長を切断したい同軸ケーブルに足してやらなければなりません。いくら足すかは、自ら定義した同軸ケーブルの長さ基準によります。早く言えば、Nコネクターの先端を起点にして、2λが欲しいのか?それともNコネクターのセンターを起点とした2λが欲しいのか? あるいは、その他の位置にするのか? ということです。足す長さは、決して一律に26.6mmではないということですね。

また、実際のやり方としては、435MHzで切断した後に、補正値を足すという作業は非常に困難ですので、補正したい寸法分だけ周波数を下げてカットすることになります。仮に補正値が26.6mmなら、26.6mmが周波数でどれだけ影響するかを、求めた短縮率を使って逆算します。(この短縮率の計算時も26.6mmの存在を含める必要があります。) かりに短縮率が0.67ちょうどであった場合、414.715MHzで0Ωを求めたらよいという計算結果が出てきます。

アンテナアナライザーで簡単に同軸の切り出しができるような印象がありますが、UHF帯で切り出したい場合、計算式を熟知していないと、不可能であるという事ですね。

アナライザーの構造により、センサー位置はそれぞれ異なります。他のメーカーのアナライザーでも同じことですので、435MHz当たりで同軸の切り出しを行いたいときは一度分解して正確に寸法を測って置くことをお勧めします。また、この距離をキャンセルする回路がついたモデルもあるようですので、良く中身を確かめる必要がありそうです。なお、キャンセルは、ある1点の周波数だけが可能であり、435MHzちょうどでキャンセルできるように調整してあるようです。従い他の周波数では、正しい長さは得られないでしょう。ただし、このキャンセル回路がついたアナライザーの取説に、この事は一切書かれていませんでした。推測するに、寸法の起点となる位置は付属のダミー抵抗の抵抗の位置なのでしょうが、金属ケースに収納されたダミー抵抗の位置は不明のままです。

なお、145MHzでは、Mコネクター端子を使い、切り出しを行う事になりますが、同じように、コネクター先端からセンサーの位置までは26.6mmです。その場合、26.6mm補正された周波数は約142.27MHzとなりますが、補正するかしないかは、切断する人の主観次第でしょう。

今までの話しはアナライザー側だけでしたが、切断してショート状態にしてある、もう片方の処理はどうするのか? そのままアンテナに直付けするか? それともコネクター加工してからつなぐか? コネクター加工するならコネクターの長さはいくらか? 435MHzで、同軸ケーブルの切り出しをする場合、取説のように簡単には出来ませんね。 ただ、同軸ケーブルを正確に切断しても、それは使い道が有りません。 必要なのは、2か所に給電した時の位相差ですから、一方の同軸ケーブルの長さがゼロであると定義するからこのような結果になってしまうのです。 実際のケーブル切断は、このブリッジまでの距離など気にせずに、例えば、1本の同軸を1.5波長で切断し、もう1本の同軸を1波長で切断すれば、多分両方のコネクタ加工に必要な長さは同じでしょうから、2本の同軸ケーブルの位相差は1/2λをキープしている事になります。 この時重要なのは、2本の同軸ケーブルを作成する時、アンテナアナライザーを変更しない事です。

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2013年4月 3日 (水)

SWR計と高調波

<カテゴリ:SWR計>

SWR計は送信電力の一部を整流して直流に変換し、その直流で電流計を振らせ、電力の大小を表示させますが、この整流回路は「高調波発生器」でもあります。通常、このメーターに使われる電流は非常に小さい為、高調波の発生があっても、それは無視できるレベルのものであり、色々なSWR計の記事でもほとんど触れた事はありませんでした。

しかし、今回、SWR計の回路設計の中で、ふと、この高調波発生器が気になりだし、高調波レベルを調べてみました。すると、感度の悪いメーターを無理に振らせると、送信機の技術基準をオーバーする高調波を発生させる可能性がある事が判りました。

以下、SWRメーターのDC電流と発生する高調波の実験記です。

下の回路が実験回路です。 トロイダルトランスを使ったCM結合器で、メーターを接続すれば、すぐに進行波電力と反射電力を直読できるように調整してあります。
この状態で、反射電力側は無負荷状態にしておき、進行波電力側には電流計と、この電流を可変できる可変抵抗を付けました。



Swrhmc2_2


上記、回路の左側ANT端子には50Ωのダミー抵抗を接続し、右側のTX端子から、10Wの信号を加えます。 50Ωのダミー抵抗の両端から20dB以上のATTを経由してスペアナに接続し、第2高調波のレベルを測ります。 周波数は14MHzと50MHzとしました。

Swrharmonic2


DC電流がゼロ、すなわち、送信機自体が発生する第2高調波レベルは、14MHzで-72dB、50MHzで-62dBでした。この送信機でメーターに流れるDC電流を次第に増加させていくと次の表のような結果が得られました。

Swrhmdt2
R14は1N60にシリーズに入った抵抗です。通常のCM結合器では0Ωに設定されています。14MHzの時は、ベースの高調波も少ない事もあり、2mA取り出しても-60dB以下でしたが、50MHzでは250μA取り出したとき、ちょうど-60dBとなりました。

この状態でR14を500Ωまで大きくすると、14MHzでは、大きな効果は見られませんでしたが、50MHzでは-60dBになるDC電流は500μAまで向上しました。

このトロイダルコアを使ったCM結合器の場合、周波数が高いほど高調波の発生頻度が高くなるようです。 また、その高調波は整流回路のコンデンサに充電するときのピーク電流に関係しているようです。

50MHzに於いて、出力10W時のアンテナへ送り込まれる高調波レベルの限度を-60dBとすると、実験で使った送信機の場合、R14が0Ωのとき、流せる電流は250μAがMAXとなります。送信出力とDC電流の関係は比例関係にあり、出力の電流が2倍になれば、DC電流も2倍までOKとなります。出力を40Wまで上げると、DC電流も500μAまでOKとなると言うことです。 

逆に言えば、フルスケール100μAのメーターを使った場合、R14が0Ωでも、1.6Wのパワーでフルスケールになるように定数設定してもOK。R14が500Ωの場合、0.4Wのパワーで測定できるように定数を選んでもOKと言うことになります。

また、今回、トロイダルトランスは16Tで実験しましたが、これを8Tに変えても結果は同じでした。発生する高調波レベルは、トランスの分流比に関係なく、送信出力とDC電流の条件だけで成立するということです。

このCM結合器は2mで使用すると、パワー表示が20%くらいダウンするのですが、145MHzで、R14を0Ωとして、同じようにテストしてみました。
送信機自身の第2高調波レベルが-65dBあり、このレベルが1dB悪化するレベル(-64dB)になるときのDC電流は5mAでした。

高調波の発生は28MHzとか50MHz付近が一番大きいようです。

SWR計を自作する場合、使用する電流計の感度はなるべく高いものを使用する必要があるようです。特に、50MHz用の場合、200μA以上の感度の悪いメーターは避けることと、ダイオードに直列に数百Ωの抵抗をいれるべきでしょう。

また、QRP用のSWR計で、アナログメーターを直接振らせようとするときは、メーター感度には十分注意が必要です。ブリッジ回路を用いた、アンテナアナライザーと同じ原理でSWRを測定する回路なら、通常の送信時には、この整流回路が切り離されますので、最も安全な方法でしょう。

ブリッジ回路による実際の製作例はトロイダルコイルによるアンテナチューナーの内部ロスを参照下さい。

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2013年1月28日 (月)

YAESU G-800DXAの修理

<カテゴリ:ローテーター>

YAESUのローテーターのコントローラーの修理を頼まれました。 私のFT-450が誘導雷により壊れた同じ日に、落雷の直撃を受けたタワーに設置してあったローテーターとのこと。

電源を入れてもヒューズが飛び全く動作しない状態ですので、雷により、電源を含めた、かなり電力の高い範囲が損傷しているようです。

ローテーターの場合、回路図があれば、なんとかなるのですが、幸い今回は、八重洲無線から正規ルートで回路図を入手できており、回路図とテスターだけで、対応できました。

壊れていたのは、

  • Q1(2SC5198)が全端子ショート。
  • Q1025(2SC2812)全端子オープン。
  • D1031,1032(1SR154-400)ショート。
  • C1049(0.01uF)リーク。・・・ローテーターのポテンションメーターのセンター端子に接続されたコンデンサ。

2SC5198 は秋月に有りましたので、秋月で販売していた2SC3325(2SC2812の代用)と一緒に購入。 1SR154-400は手持ちの1N4002で代用。 C1049も手持ちの1608タイプのチップコンデンサに交換。

G800dxa_0_2


以上で修理完了です。

G800dxa_1
このコントローラーの設計は良くできています。   制御回路と動力回路が完全に分離された基板に乗っていて、電源系統もそれぞれ独立しています。雷の直撃を受けても、制御回路は、ローテーター内臓のポテンションメーターからの入力部分にあるセラッミクコンデンサがリーク(実際はショートに近い)しているだけで、その他の回路は、無傷で残っているのは偶然ではなさそうです。

ローテーターの修理をする為に、配線図が欲しい場合、YAESUのUSAホームページから取説をダウンロードすると、最後のページに付いています。解像度が悪いので、目を凝らしても、よく見えませんが、正規ルートで入手した配線図も、同じように良く見えませんでした。

下記のサービスマニュアルの中に基板部分だけですが、きれいな配線図があります。     全体図はUSAホームページからダウンロードした配線図を参照して下さい。

G-800DXA, G-1000DXAのサービスマニュアルのダウンロード。

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2013年1月23日 (水)

3.5MHz ALC動作異常(RFフィードバック)

<カテゴリ:マルチバンドアンテナシステム>

TS-850Sをメインで使っていた時、3.5MHzで、ALCがかかり過ぎ、フルパワーが出ないという問題がありました。TS-930Sの修理が完了して、運用していると、TS-930Sでも少しその傾向があります。 2モデルとも似たような問題があるのなら、これはトランシーバーが原因ではなく、アンテナ系に原因がありそうです。

大進無線から買った、コモンモード電流計で色々なケーブルのコモンモード電流を測ってみると、大きな電流が流れているケーブルが見つかりました。プリセットMTUをコントロールする8芯ケーブルです。同軸ケーブルの10倍以上のコモンモード電流が検出されました。

すでにコネクター加工済みのケーブルですので、コネクターを外さずにチョークコイルが巻けるようにFT240#43というコアを手配し、対策することにしました。

80mcomon1


このアンテナシステムは、「プリセット式MTU 3」 で紹介の通り、Cの部分に厳重にチョークを挿入し、かつ、各トランシーバーからのアンテナケーブルE,Fにもコモンモードチョークが挿入され、Aの部分にもMTUのキャビネット内ですが、チョークが挿入され、全バンドうまく動作していました。  しかし、BとDの部分にはチョークは入っていない状態でした。

Img_0310
そこで、DとBの位置にチョークを追加し、コモンモード電流を1/20以下にしました。 左の写真はプリセットコントローラーに内臓されている送信機、アンテナの切り替え回路に接続されるケーブル類に追加された、トロイダルコアに巻かれたコモンモードチョークです。

DとBにコモンモードチョークを挿入したことにより、3.5MHzのプリセットMTUの整合がずれました。  コントローラーケーブルが悪さしていた影響が無くなった為でしょうから、MTUを再調整してALCテストを実施してみました。 ところが、全く改善されません。

思考錯誤の結果、Aの部分にFT240コアによるチョークをいれると、ALC動作の異常が無くなりました。 今まで挿入されていたクランプコアによるチョークでは能力不足だったようです。

80mcomon3左の写真がプリセットMTU側に挿入されたコントロールケーブル用コモンモードチョークと同軸ケーブル用コモンモードチョークです。 これで問題点が解消した理由は以下の通りです。

プリセットMTUとリグの間はケーブル長で約22mあります。  3.5MHzの場合、1/4波長の長さに近いですから、プリセットMTU側から流れ出た電流はリグ付近では電圧腹を少し過ぎたあたりでかなり高い電圧がかかっていたようです。この高電圧がトランシーバーへフィードバックしALC用のレベルピックアップ回路を誤動作させていたものでした。

また、この電圧腹の付近には火災報知器の検出器があり、時々、3.5MHzのアンテナの調整を間違うと火災報知器のベルが鳴りだす原因でもありました。

 

コモンモードチョークはMTUの近くに挿入しただけで、ALC動作異常は解消しましたが、現在は、コントローラー側を含めて、両方に挿入してあります。

6m_chorkこのマルチバンドアンテナシステムには、6m用のヘンテナも同居しており、ベランダの手すり付近でバランによる、平衡/不平衡変換とインピーダンス変換の後、そこから、約20mの同軸ケーブルでリグに接続しております。

この6m用の同軸ケーブルはシャック内では、長さに余裕があり、バランに接続するベランダ側では、ギリギリの長さになっていました。 その為、宙吊りのバランに張力がかかり、リード線の被覆が割れてしまい、中の導体があらわになっている状態でしたので、この同軸ケーブルを50cmくらいベランダ側にたぐって、張力を緩和してやりました。

数日後、コンテストに備えて、3.5MHzの試験電波を出したところ、火災報知器のベルが鳴りだしました。 翌日、詳細をチェックすると、この6m用の同軸にも3.5MHzが乗り、ちょうど火災報知器の当たりで電圧腹になった事がわかりました。わずかに、50cm移動しただけでしたが、これが致命傷になったようです。結局、この6mの同軸ケーブルにも、チョークコイルを追加する事になりました。

 

チョークを挿入してから、3.5MHzも7MHzも、近隣の局からの応答率が、さらに悪くなりました。 今まで、地上高8mに水平に展開していたコントロールケーブルや同軸ケーブルがカウンターポイズの役目をして、打ち上げ角を高くしていたと思われます。 国内コンテストの時だけは、臨時の2バンド用のフルサイズ逆Vでトライする事にします。

Comon2m_2

しかしながら、まだ、火災報知器が誤動作する要因が有りました。HFアンテナのすぐそばに2m用のJポールが立っており、このアンテナの同軸ケーブルも22mくらいあります。  たまたま、この同軸をリグから外していたところ、3.5Mhzで30W以上出すと、火災報知器が鳴り出します。同軸ケーブルのGNDをリグにつなぐと、鳴りません。  3.5メガのとき、まだ、打ち上げ角を下げられない要因があるみたいです。この2m用同軸ケーブルにも、FT240によるチョークを追加する事にしました。当初5D2Vの同軸を5ターンしか巻いていませんでしたが、火災報知器の誤動作は解消していました。 しかし、4エリアや5エリアの局の信号が結構強く入感するので、打ち上げ角はあまり改善していないようです。そこで、3D2Vの同軸に変更し12ターン品に変えました。これでしばらく様子見です。

2014年10月

このHFのスカイドアに近接したJポールはスカイドアのエレメントと干渉して、特定の方向にヌルポイントを生じさせる事が判りました。 その為、3.5MHzの打ち上げ角への影響を確認する前に、Jポールのアンテナごと撤去されてしまいました。

 

 

アンテナシステム立て替え へ続く


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TS-930 Sメーター振り切れ

<カテゴリ:TS-930>

温度が下がった状態で電源ONすると、Sメーターが振り切れて、受信不能になり、温度が上がってくるといつの間にか直ってしまうという問題の修理事例です。

預かってすぐに、電源ONしたら、問題の症状が再現しましたので、本格的に原因を探す為に、ポイントクーラーと言われる瞬間冷却スプレーを探す事にしました。記憶にあるのは、サンハヤトの「キューレイ」です。結構な値段がしていました。問題が起こると、あっと言う間に使い切ってしまい、かなりコストが高い修理になると認識していました。

Qray1しかし、最近スポーツ用に同じ原理の冷却スプレーがあるとのこと。スポーツ用品を扱うホームセンターで探すと、キューレイより2~3割アップの容量で、価格は1/3くらいで売られています。ただし、問題がひとつ。スポーツ用は冷却スプレーがある程度拡散するようになっており、噴射したとき患部が凍傷にならないようになっています。

電気製品の修理の場合、めざす部品だけを冷やし、その他の部品は常温のままという状態を作って、不良部品をあぶり出すやり方ですから、スプレーが拡散するのは都合が悪い訳です。 

Qray2


何種類かの冷却スプレーの中から、ノズルを追加して取り付けられる物を探し、これに直径3mmのアクリルパイプをねじ込むことにしました。アクリルパイプをドライヤーで温めると簡単に柔らかくなりますので、この柔らかくなったパイプをスプレーに付いている小さなノズルに差し込みます。温度が冷えると、固まってしっかりと固定できます。使わないときは引き抜いて置けば、問題ありません。

Qray3こうやって、かなりエコノミーなポイントクーラーが出来上がりましたので、さっそく不良部品探しを始めました。

トランジスターや電解コンデンサにスッポリとかぶせる事ができる紙の筒を作り、その筒の上部から冷気のスプレーを吹き付けますと、Q133で期待する反応がありました。

Q133を冷却するとSメーターが振り切れます。AGCをOFFにしても振り切れは直りません。 R722をオープンにすると、AGC OFF状態になって症状は出なくなります。

どうも低温でコレクタにリーク電流が流れているようです。手持ちの2SC1815GRに交換しましたら、AGC OFF時はSメーターが振れなくなりましたが、AGC FASTやSLOWの時は振り切れています。

症状が出なくなるまで待ってから、次にQ131を冷却すると、Sメーターが振り切れます。Q131のエミッターにオシロをつなぐと100KHzくらいの信号が見えます。Sメーターが正常時は、何も見えません。どうもQ131が低温で発振しているみたいです。正常状態で、Q131のコレクターにテスターを当てるとSメーターが振り切れます。これで判りました。低温でC529(0.047)が容量ダウンして発振していました。 C529に0.1uFのセラミックコンデンサをパラに追加しました。これでテスターで当たっても発振は起こらなくなり、問題は解決しました。

Ts930agc_3


結論はQ133のリークとC529の温度特性不良だったのですが、しかし、それで直ったと決定するまで半日以上かかってしまいました。理由は急冷スプレーを吹きかけると目当ての部品はすぐに冷えるのですが、その部品と周辺に霜がつき、その霜が溶け出すと基板上の部品間を水分でショートする状態となります。 スプレーをしてから10秒以上経過した後、Sメーター振り切れの症状が発生してしまいます。この霜の溶ける問題と本来の部品不良の区別がつかず、かなりロスタイムがありました。   
もしかしたら、Q133のリークも霜の影響で、ほんとうの原因はC529だけだったかも知れませんね。

冷却スプレーを使うときは、回路のインピーダンスを十分把握した状態で検討しないと、何をやっているのか判らなくなるという事でした。 対策完了してから、昔、同じような問題で悩んだことをやっと思い出しました。

今回は、低温で異常が発生する状況でポイントクーラーを使いましたが、高温で異常が発生する場合も、ポイントクーラーは大いに役立ちます。ドライヤーで異常現象が出るように温めておき、ポイントクーラーで特定の部品を急冷し、異常が解消したら、もう問題は解決です。

ただし、どの付近の部品を急冷するのですか?という問題は残りますが。

2019年10月追記

1エリアのOMさんより、Sメーター振り切れの別の対策案を頂きました。 その対策は、Q133のベースからGND間に1MΩの抵抗を追加するものです。 このアイデアを頂いて、改めて、このQ133の周辺を眺めてみますと、確かにKenwoodのオリジナル設計では、Q133のベースの直流電位は固定されておらず、温度や継時変化で不安定になる回路のようです。 この対策アイデアで、この不安定な症状は確実に安定すると思われます。

貴重なアイデアを連絡頂いたOMさんに感謝致します。

 

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2013年1月 5日 (土)

QRP CWトランシーバー 6

<カテゴリ:KEM-TRX7-LITE>

北京放送の混信の原因が判りました。

アンテナからの信号を2個の同調コイルでフィルターをかけて十分な選択度を確保したはずでしたが、フィルターをかけた後の信号線路をアンテナ切り替えリレーの端子へ接近させた為に、強入力信号に当たる、北京放送の信号がフィルターをバイパスしてICの入力端子へ漏れるという、基板設計のミスが原因でした。 このリレー端子に接近している回路はIC入力部のホット側ではなくGND側なのですが、510Ωの抵抗でGNDより浮いていますので、そこへ静電結合したようです。

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幸い、ICの配置変更の必要はなく、同調コイルL5の出力を裏付け配線で直にICの入力端子へ接続してやると聞こえなくなりました。

Kemrxaf
以下、その具体的対策内容を紹介します。

左の画像に示すように、アンテナ入力ラインに近接して配置されているR14(510Ω)を抜き取り、これをIC3の2番ピンに直付けし、基板の裏側でL5のピンに配線します。今まで配線されていた銅箔パターンはL5の近くでカットし、これをGNDへ結びます。

IC3の1番ピンからL5の2次側コイルに入り、コイルの反対側からR14を経由して、IC3の2番ピンに戻るという入力回路のループが出来ています。 従い、裏付けでR14を配線する場合、このループが作る面積が最少になるように配置し、かつ、配線します。画像にある、R14の傾きや、曲がりくねった抵抗のリード線は、ちゃんと意味が有るのです。

以上の対策で、北京放送は、ほとんど聞こえなくなりました。スピーカーに耳を近づけると、かすかに放送らしき音声信号が聞こえますが、なにを言っているのか判らないくらいまで減衰しました。

約1年後の12月に、この対策済トランシーバーで鹿児島県の「さつま湖」から夕方オンエアーしました。北京放送はすでに始まっていましたが、問題なく各局と交信できました。

同じような問題でお困りでしたら、ぜひ修正対策して下さい。

北京放送よりも強敵が現れました。7275KHzの韓国放送(KBS)です。TS-930のSメーターは完全にオーバースケールで、針は指針ストッパーに当たったきり降りてきません。 また、季節により、北京放送もKBSと同じくらいの強度で入感する時もあります。相手の信号がS9程度ならQRMを受けながらもQSOできますが、これ以上の改善は、この回路構成では無理です。 ハイ。

エレキー回路の追加 へ続く

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2013年1月 4日 (金)

QRP CW トランシーバー 5

<カテゴリ:KEM-TRX7-LITE>

久しぶりに九州鹿児島へ帰りました。 暇つぶしの為、、このQRP CWトランシーバーを持って帰ることにしました。

ホームQTHで架設したアンテナは全長16mのロングワイヤーと10mのカウンターポイズです。

場所が谷の中なので、昔から電波の飛びはよくないところです。昼間は所用でQRVできなかったので、夜になってから交信しようと、ワッチすると、聞き覚えのある放送が狭帯域のフィルターごしに聞こえCWの信号はS9相当なのにQRMで判りません。しかもダイヤルを回してもまったく関係なし。

犯人は北京放送です。

Img_4301k私のホームQTHは南さつま市。昔、ラジオ少年だったころ最初に作った鉱石ラジオで唯一聞こえ たのが北京放送でした。どうも、いまでもその信号強度は維持されているみたいです。

結局、時間の取れる夜間帯はこの北京放送に邪魔されて1局もQSOできずでした。 唯一夕方、まだ北京放送の電波が聞こえない時間帯に5局ほどQSOできただけでした。

アンテナチューナーが悪さしているのか、受信機初段の同調回路の能力不足なのか? AM放送の混信排除能力は著しく悪いみたいです。 

広島に戻ってから、夜間に再確認した結果、同じように北京放送が聞こえます。アンテナチューナーを取り外しても、全く変化無しです。 TS-930をゼネカバ受信機にして詳しく調べると、MWの放送ではなく、7325KHzのれっきとした短波放送でした。 CWバンドと320KHzくらいしか離れていないのも一因とは思いますが、鹿児島ほどでは無いにせよ、じゃまである事は変わり有りません。

鹿児島では、夜間でも7メガの国内信号は聞こえます。7エリアや8エリアが主です。 しかし、広島では、夜間の国内交信はスキップの為、ほとんどチャンスがありませんので、とりあえず実害はありませんが、いつか対策しようと思います。

QRP CWトランシーバー 6 へ続く

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QRP CW トランシーバー 4

<カテゴリ:KEM-TRX7-LITE>

QRP CWトランシーバーが完成して、既存のアンテナやベランダに臨時に展開した釣竿アンテナでQSOの実績も増え実用域になりましたので、移動運用にトライしました。運用日はとても移動運用びよりとは言えない、北風のかなり強い1月でした。

アンテナを架設して、チューニング操作を開始すると、最初はOKでしたが、数分もするとロータリーエンコーダーをどっちに回しても周波数はダウンばかり。そのうちバンドの下限を超えてしまい、アップ出来ません。受信も送信も出来るのに、周波数が設定できないという状態で、結局その日は1局も交信できずじまいでした。

原因を確認する為、家に帰ってから屋内と屋外の温度差を利用して温度試験です。どうやら低温になると、アップが出来なくなるようです。その低温は7度くらい。15度以上になると正常になります。エンコーダーの端子電圧をオシロでモニターすると、かなり摺動ノイズが発生しており、低温になるとそれがひどくなるというものでした。通常、チャタリングはスイッチの切り替わった直後に振動状態で発生する、断続信号で、マイコンのソフトで基本対策を行い、それをさらにカバーするためにエンコーダー端子にコンデンサを追加し、波形をなまらせるという対策を行いますが、このエンコーダーの摺動ノイズはパルスのLレベルの範囲全体で出ています。

Kemre3

コンデンサでなまらしたら、エンコーダーとしての機能までなくなってしまうほどのノイズです。秋月で販売しているエンコーダーと同じものだそうですので、ALPS製のエンコーダーに交換することにしました。交換したら一応7度くらいでは誤動作しなくなりましたが、しかし、ALPS製は、すばやい回転には応答しますが、ワンステップのアップとかダウンを行うと、動作ミスが多発します。たぶん、マイコンのタイミングが合っていないのでしょう。 KEMのBBSで問いかけしましたら、秋月のエンコーダーの中にあるグリスをふき取れば良くなる可能性があるとアドバイスがありましたので、エンコーダーのカバーにあるツメを起こし、内部を開け、綿棒でグリスをふき取りましたら、動作力が軽くなったと同時にアップダウンが正常になりました。 しかし、数か月すると、また誤動作の頻度が高くなってきます。再度、ケースを開け、今度は接点復活剤で清掃しました。その効果は絶大ですが、いつまでモツ事やら。

半年以上経過した12月に、移動運用に出かけました。外気温は10度くらい。  太陽が当たっている間は良かったのですが、日蔭になってしばらくすると、今度はUPばかり。ロータリーエンコーダーをどっちに回してもUPばかりです。    帰ってから詳しく調べるとエンコーダーの一方の出力波形にかなり激しい摺動ノイズが出ていました。 こういうノイズはチャタリングとは言わず、ソフトで回避する方法は有りません。 最初にチェックした時よりノイズの幅は小さいですが、高さは同じくらいです。 エンコーダーの摺動面には、もうグリスはありません。やむなく、コンデンサを追加して波形をなまらす事にしました。

Kemren2Kemren1

左が、対策前、右がエンコーダーのA,B端子とGND間に0.47uFのコンデンサを追加したものです。 上昇の時しかコンデンサの効果は有りませんが、ノイズのパルスの高さがかなり抑えられました。これで、ゆっくり、あるいは高速でエンコーダーを回すと、時々動作しない事はありますが、アップダウンが逆になる事はなくなりました。

Renc

このエンコーダーの端子はマイコンの中で、抵抗によりプルアップされているようですが、プルアップ抵抗の値が小さすぎます。(このマイコンの内部プルアップ抵抗は1.5KΩ) マイコン内でのプルアップをやめ、外付けの10KΩくらいでプルアップした方が対策はしやすいのですが、プログラムの書き換えが必要になり対応できません。

左の回路図は、パナソニックが自社のエンコーダーをテストする時の回路ですが、この回路のコンデンサを0.01から0.047に変更した上で、ロタリーエンコーダーのA端子入力を外部割込みに指定してやると、アルプス製はほとんど問題なく動作します。 秋月の中国製はグリスをふき取らない限り改善しません。

完全な動作を望むなら、フォトインタラプターによる光学式エンコーダーにするしかありません。 この0.47μFを追加した状態でも誤動作が頻発するようになったら、パナソニックの回路の後にCMOSのバッファを入れてその出力をPICの入力端子に接続するつもりです。

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QRP CW トランシーバー 3

<カテゴリ:KEM-TRX7-LITE>

Kemhaichi
内部の収納物が決まり、操作つまみや表示器などのサイズが確定したら、それを収納できる既成のケースを用意し、その中や側面に電気的に問題の無い形で物を配置し、かつ操作性を考えてコントロールつまみなどの位置を決めますが、この検討の為に、私は昔からエクセルを使ってきました。エクセルの図形処理はかなりラフなものですが、イメージを図示化するには、非常に簡単な作業でそこそこのシュミレーションが可能です。

今回もそれぞれの基板や部品のサイズを測り、エクセルの中でそれを並べて最適位置を決めました。

このイメージをベースにJW CADで図面化し、その図面を実寸大で印刷したあと、ケースに貼り付け、ケースの加工を行います。この手法で、ほぼエクセルでシュミレーションした通りの部品配置が可能になります。

Kemcs1 Kemcs2

最終的に配線を完了させると、結構様になったケース入り完成品が出来上がりました。

Kemcs4_2 Kemcs6_2

Kemcs5_2

もの作りの一番楽しい時期です。

完成度が上がってくると、気になる部分も出てきます。CWのモニター音が途中でブツッと途切れます。一瞬、キー操作を誤ったと思うのですが、出ているキャリアは問題ありません。モニター音だけのバグみたいです。良く観察すると、10秒間に1回、現在の設定内容をEEPROMに退避させていますが、これに同期して出ているようです。メールでバグ報告はしておきましたが、修正版はまだ未確認です。

QRP CW トランシーバー 4 へ続く

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QRP CW トランシーバー 2

<カテゴリ:KEM-TRX7-LITE>

5WのパワーアンプをKEMのトランシーバーでドライブできるように配線し終え、キャリアーを連続送信しても最大で2Wくらいしか出力がありません。KEMの0.5Wパワーアンプの出力インピーダンスは50Ωのはずですから、TS-930からのドライブのときと同じと考えましたが、考察に抜けがありました。前回の実験では、50Ωのダミー抵抗があって、その両端から5Wパワーアンプへ供給していましたが、今回はダミー抵抗が有りません。

それに気づいて50Ωの抵抗で信号ラインをダンプしてやると、6Wの出力が出るようになりました。 ただし、6Wでは大きすぎますので、5Wになるよう100Ωに定数変更し、かつ0.5Wに切り替えられるように、リレーを使い5Wパワーアンプをスルーできる様にしました。

ダミー抵抗をつないで、連続キャリア送信テストも完了し、つぎにCWでの送信テストをやっているうちに、モニターで聞いているTS-930の受信音に気になる音が出ます。CWのキーイングが終わった直後、バサバサと言った感じのノイズがほんの少しの時間ですが聞こえます。

送信出力の波形をオシロでモニターすると、CWの7MHzのキャリアが途切れたあと、信号がゼロにならず、一瞬かなり低い周波数の信号が残って、すぐにゼロになります。不信に思いスペアナを接続してみましたら、7MHzのキャリアが途切れたとたん、基本波が約1MHzくらいの不要輻射が発生していました。しかもかなり汚い波形らしく高調波が10MHz付近まで見えます。

良く調べると、これは0.5Wアンプの異常発振でした。CWのキャリアーが無くなってもセミブレークインの為に、0.3秒間くらい送信状態を維持します。この0.3秒間の間に1MHz付近で異常発振しているものでした。KEMの説明書の中に、必ずダミー抵抗をつなぐか、実際のアンテナをつないでくださいというコメントがあります。要は、無負荷や設計された以上の軽い負荷をつなぐと発振しますよ、ということです。今回、5Wのアンプを接続しましたので、発振しやすくなったのでしょう。とりあえず、オリジナルの0.5Wパワーアンプのコレクタ側チョークコイルにダンプ抵抗を入れてゲインを下げ発振を阻止しました。

発振対策として、ダンプ抵抗はあまりにも芸が無いので、負帰還をかけたり、アッテネーター回路の定数を変えたりして、発振対策を行い、うまくいってましたが、温度が下がると異常発振が再発してしまいました。面倒なので、チョークコイルのQダンプを継続する事に。 この方法なら温度変化があっても安定して動作します。

また、受信状態でも、5Wのパワーアンプは生きている訳ですが、時々、受信状態のとき発振し、受信音がビートだらけになります。対策として、コレクタからベースへ、CRによる負帰還をかけています。

最終的な出力は

  • VCC 12V     5W     /      0.5W
  • VCC 10V     4W     /      0.4W
  • VCC   8V     3.2W  /      0.26W
  • VCC   7V     2.4W  /      0.2W
  • VCC   6V     1.6W  /      0.12W

QRPモードもQRPPモードもパワーアンプ以外は5Vの安定化電源ですから、パワーはダウンしますが、6Vまで使う事ができます。

ここで、電池によるパワーの差をレポートします。

12V DC電源では5W出ています。

8個で、800円の単3アルカリ電池を買ってきて、テストしました。受信状態での電圧は12.8Vあります。 送信すると、11.8Vになりましたが、かろうじて5W出ていました。しばらくCQなどを出して、10分経過したら11Vまで電圧が下がり4.5Wくらいしか出ません。

次に、6個で105円という単3アルカリ電池を買ってきました。受信時の電圧は13.2Vです。これはすごい! しかし、送信したら、10.2Vになりました。 え? とVVVを10回くらい送信したら9.6Vになりました。約10分後には9Vになりました。100円ショップの電池では、例え新品でも5Wは出ませんでした。

2015年2月:最近は12Vのリチウムイオン電池を使っています。電動釣竿用の電池なので、数回の移動運用でも、電池の心配をする事がなくなりました。

 

バラック状態での検討がほぼ完了しましたので、次はマニュアルアンテナチューナーを実装します。回路はL型です。コイルは連続可変できませんので、12接点のロータリーSWを用意し、トロイダルコアに18ターン巻いたコイルから12個のタップを出し、これをSWでショートすることにしました。バリコンは250PFくらいのポリバリコンです。SWRの検出は抵抗ブリッジ方式として、ブリッジの不平衡電流のみをバッテリーチェッカー用の小さなメーターで見る方式としました。  アンテナチューナーは3mくらいから20mくらいまでのロングワイヤーに無理なく整合させることができます。

Kemmtu1a_2 Kemmtu2_2

トロイダルコアに巻き込んだコイルのQが全く使いものにならないくらい低い事がわかりました。 現在は、空芯コイルに変更しています。詳しくは、「QRP用アンテナチューナーの内部ロス改善」を参照して下さい。

オリジナルの回路はイヤホーン出力しかありません。これをスピーカーでも聞けるようにオーディオパワーアンプを追加することにしました。材料は粗大ごみ入れに捨ててあったPC用のスピーカーシステム。パワーアンプもスピーカーも付いていますので、スピーカーとアンプ基板を取り出し、いとも簡単にオーディオアンプが出来上がりました。

Kemaudio1_2  この状態でCWの送信を5Wで行うと、モニター音はキークリックだらけです。音量ボリュームを絞っても出ています。パワーアンプの入力部にシリーズに1KΩとICの+/-入力間に1000PFを追加する事にしました。 最初、アキシャル抵抗とラジアルコンデンサで対応したのですが、効果は有るものの、十分では有りません。 チップ抵抗とチップコンデンサに変更し、かつICのピンのすぐそばに配置したら、音量ボリュームを絞ると聞こえなくなりました。 音量ボリュームを上げたときの対策として、送信時には受信音声系をトランジスタでミューティングすることにしました。 また、トーンボリュームや音量ボリュームの配線をすべてシールド線で行った結果、クリック音は発生しなくなりました。  また、CWのモニター音のクリック音も、全く気にならないくらいに改善しました。

とかく、キークリック音のあるCWは聞いていて疲れますので、これで安心です。

Kem5wmod1_2 借用していたタケダ理研のアナログ式スペアナを返却し、代わりにアドバンテストのデジタル式スペアナを借用したついでに、高調波を調べてみると、今まで-60dB以下はノイズに埋もれて見えませんでしたが、デジタル式のこのスペアナは-70dBまで見る事ができます。そして第4次高調波以上が予想以上に多い事に気付きました。原因を調べると、トランジスタのベース電流が歪んで、その影響が0.5Wのアンプのタンク回路まで及び、ここで高次のリンギングが発生しているものでした。

色々と検討した結果、ベース回路に同調回路を置き、かつインピーダンス変換できるトランス式に変更すると、2次、3次は-63dBくらい、4次は-68dBくらいですが、5次以上の高調波は-70dB以下に収まりました。(回路図修正済み)

5W QRPトランシーバーの回路図をダウンロード

TSS保障認定用送信機系統図をダウンロード

一応、トランシーバーとして必要な回路部材がそろいましたので、これを移動運用にも耐えるようにケースへ収納することにします。

QRP CW トランシーバー 3 へ続く

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QRP CW トランシーバー 1

<カテゴリ:KEM-TRX7-LITE>

車で行けないような山でも、リュックサックに詰め込んで運べる乾電池で動作するQRPトランシーバーを探していましたら、「貴田電子設計」という会社がQRPPのキットを販売している情報を入手し、さっそく注文して組み立て開始しました。(2010年の製品で現在は見当たりません)

Kemmain キットの商品名は「KEM-TRX7-LITE」というもので0.5Wの出力の7MHzオンリーのCWトランシーバーです。このキットは良く出来ていまして、説明書通り作ったら、すぐにQRPPの交信が出来てしまうほど、完成度の高いものです。バラックのままで、しばらく交信を楽しんでおりましたが、さすがに0.5Wでは、コンディションの影響も大きく、ストレスが溜まります。そこで、せめてQRPと言える最大出力である5WまでQROすることにしました。

たかが、7MHzの5Wアンプと軽く考えていましたが、(昔、水平出力管による10Wのアンプで苦労したころに比べたら雲泥の差があります。) オリジナルの設計に加味されていない変更を行うと、なかなか思うようにいかず、オリジナルの設計内容まで対応が必要になり、かなり難儀しました。 

目標の仕様を設定します。

  • 出力は5Wと0.5Wの切り替え方式。
  • 電源は単3アルカリ電池 8本使用の12V。
  • 手動アンテナチューナー内蔵。
  • 受信音はスピーカー/イヤホーン両用。
  • 移動に使っても十分な強度が保てるケース入り。

Kempa11_2まずは、パワーアンプの検討から。電池仕様ですから、効率の良いC級アンプと決めて、回路例を探している内にE級アンプという、もっと効率の良いアンプがある事がわかりました。C級が65%くらいの効率なのに対してE級は85%くらいはいけるみたい。乾電池で動作させる場合、この効率が即連続運用可能時間につながりますので、内容も良く調べずにE級アンプに決定。インターネットでE級アンプを検索すると、私が設計するには十分過ぎる技術情報が得られました。E級アンプのカナメは負荷となるLCのフィルターですので、最初、このLを色々な資料がほとんど採用しているトロイダルコアで作ることにしました。

Kem5wpa ところが、参考資料として提示されているインダクタンスやキャパシタンスになるように設定してもパワーはなかなか出ません。効率も50%以下。指定された型名のコアを使っていない事が原因なのでしょうが、うまくいきません。ジタバタしている内に、コアを使わなくても空芯コイルで実現できることがわかりました。MMANAでコイルの直径や巻き数を求め、エナメル線をPPシートを丸めたボビンに巻き込み、瞬間接着剤で固めてしまいます。Lが大きかったら解き、小さかったら作りなおして、調整すると、6Wの出力が出るようになりました。 無理すると7Wくらいでます。効率は能書き通りにはいかず6W出力で70%くらいです。 コレクターの電流波形は、E級アンプの技術資料に出てくる通りの波形をしていますので、曲りなりにもE級アンプとして動作しているのでしょう。 スペアナで高調波を調べたら-60dBくらいのノイズフロアーに隠れて見えません。 多分LCの組み合わせを最良にもっていけば80%くらいの効率も可能かも知れませんが、とりあえずこれで良しとしました。

スペアナを交換したら、-60dB以下のレベルも見れるようになりましたので、5Wアンプの入力部分を設計変更しました。添付配線図やアンプの画像は変更後の回路に差し替えてあります。

これまでの検討はTS-930SをTUNEモードにしてダミー抵抗に0.5Wくらいの出力を消費させ、これを信号源として使っていました。 いよいよ、KEMのトランシーバーへ組み込み作業です。

QRP CW トランシーバー 2 へ続く

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2012年12月24日 (月)

M型同軸コネクター

<カテゴリ:アンテナチューナー>

インチネジとメートルネジの違いによるトラブル例です。

Img_0140事の発端は、秋月で安いMコネクターのプラグが売られており、これを大量に買ったのが始まりです。左の写真がそうですが、安さにつられて、私同様、大量に買った方もいるかもしれませんね。このコネクター、締めても締めても、接触不良が発生し困っていましたら、同じようなトラブルで困った人がインターネット上に原因を紹介していました。 これは、インチネジと呼ばれるネジ山で作られている米国向けのプラグだそうです。このコネクターの受け側になる通常MRと言われるメス側は、日本国内では、メートルネジでネジ山が切られていますので、ネジのピッチが異なります。このピッチがずれた状態では、いくつかのネジ山まではねじ込まれても、それ以上は締まらないという事になり、接触不良を起こす元になっています。

安物買いの銭失いの典型でもありますが、救いの手がありました。

Img_0142アンテナチューナーや、SWRメーターを作って世界中に輸出しているメーカーは皆知っていることらしいのですが、インチ、メートルネジ兼用のメス型コネクターがあるとのこと。  左側の写真にある2種類のMRコネクターはいずれもメートルネジですが、左側のコネクターが先端から根本までいっぱいにネジ山を切ってあるのに対して、右側のコネクターのネジ山は5つしかなく、先端部分もネジ山の無い部分が2mm以上あります。このおかげで、右側のコネクターに、インチネジのプラグがねじ込まれても、ずれたピッチが詰まってしまう前に、ネジ山を通り越してしまい、最後まできっちり締まるというものでした。 実際に試してみましたが、問題なしでした。

自作のアンテナチューナーやSWR計のコネクターを、順次、このインチ、メートル兼用コネクタに交換していこうと思います。

ただし、一つだけ問題があります。この兼用コネクターがインターネット上でもなかなか見つからないことです。見つかったら、このブログでも紹介したいと思います。

見つかりました。

コスモ電子という会社で品番は「92795」 M-Rコネクターという品名です。クラニシ製品(アンテナアナライザー)用純正部品と書いてありました。「コスモ電子 92795」で検索すれば見つかります。

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2012年12月18日 (火)

SWRメーターの自作

<カテゴリ:SWR計>

40年以上前に購入したオスカーブロック製のSWRメーターは、いまだに健在でしたが、パワー表示に周波数依存性があり、パワーを計測する時は、換算表を頼りに、ATTを調整してから読むという不便さがありました。トロイダルコアを使ったCM結合器なら、原理的にフラットであるという事から、このCM結合器を作り変えることにしました。

基本回路は、トロイダルコア活用百科に出てくる回路通りです。 この回路による自作事例は、インターネット上に数多く存在しますので、具体的な製作例はそれらを参照いただくとして、このブログでは、個々の定数の決め方について、実験結果を紹介します。

Swrcm2

トロイダルコアを使ったCM結合器の上限周波数

同軸伝送路の中心導体から電圧成分をピックアップする為に、通常、数ピコのコンデンサをつなぎ取り出しますが、この容量はいくらが適正か?ということです。 
SWRメーターを同軸伝送路に挿入しますと、必ず、その伝送路のSWRは悪化します。 SWRを測るために挿入した計測器が線路のSWRを乱すとはけしからんと思われるでしょうが、それは、どんなに精巧に作られたSWRメーターでも避けられない問題です。
従い、良いSWR計とは、挿入したことによりSWRを悪化させる程度が小さいSWR計になります。 
悪いSWR計とは、SWR計無しの伝送路のSWRが1.03のとき、SWR計を挿入した途端、SWRが1.4に跳ね上がったにも関わらず、自分のSWRメーターの指示は1.0と表示するSWR計です。

実験の結果、高い周波数で影響を与える最大の要因は、このピックアップ用コンデンサの容量でした。そして、SWRの悪化が我慢できるのは、その最高測定周波数時のリアクタンスが500Ω以上の場合でした。54MHzまでカバーしようと思えば、C1とC3の合成容量は5.8PF以下が望ましいということです。逆に小さすぎると、後述のごとく最低周波数に影響がでます。

良く、回路例で10PFのコンデンサでピックアップしてあるのを見かけますが、30MHzまでなら10PFでもOKである事がわかります。1.8MHzで誤差を少なくしたいなら、ここの容量はぎりぎりまで大きくした方が良いでしょう。 

もうひとつの制限事項は、トロイダルコアに巻き込まれた、ワイヤーの線長と、測定高周波の波長の関係です。分流比を狂わせる原因となります。この問題はARRLのアンテナハンドブックの中に記述がありますが、一体、どれくらいから駄目なのかは、書かれていませんでした。
これを実験で確かめた結果、ワイヤーの長さは、波長の1/16くらいが限界のようです。仮にコイルの線長が0.3mだったとすると、波長が4.8mの周波数、すなわち62.5MHz以上の周波数では、無視できないほどの大きな誤差が生じるということでした。54MHzまでカバーしようとすると、34cmくらいが限界です。実際に作ったトランスは10Tで25cmでした。 ただし、この誤差はパワー表示の周波数特性のみで、SWR値にはあまり影響しません。

ここで、疑問が出た方もいらっしゃると思います。なぜなら、市販のSWR/POWERメーターでトロイダルコアを使って200MHzまでOKという製品がありますから。

Rw211a_2これらの製品は、理論的に不可能な電力の計測を全体の浮遊容量や、浮遊インダクタを考慮した基板設計と、トランスの設計を細かく調整してバランスをとり、実用可能なレベルになるように設計されています。この極限の周波数は230MHzくらいです。
アマチュアが1台作るのとは、開発費のかけ方が違います。多分数十万円から100万円以上かけて開発したものが商品として売られているのでしょう。 アマチュアでも、運がよければ1台の試作で2mまでOKのSWR/POWER計が出来るかも知れませんが。

ただし、メーカー設計でも最初に述べたピックアップ用コンデンサによる悪影響を取り除く事は出来ません。 200MHzを超える周波数で動作するSWR計を作る場合、トロイダルコア自身による線路のSWR悪化は避けられません。 従い、CM結合器はストリップライン式にして、バンドSW(例えば、430MHz用、1200MHz用に切り替えられるバンドスイッチ)を設けて、線路のSWRの乱れを最少にする方がベターでしょう。

Cmcschema 上は、ストリップラインを利用した430MHz用のCM結合器です。ストリップラインを基板上に作成するのは手間ですが、両面生基板をカッターで削り出して試作した時の物です。 この基板上に実装する抵抗、コンデンサやダイオードは全てチップ部品で作るというところが成功へのキーワードになります。リード線付のいわゆるアキシャルやラジアル部品で構成すると、必ず失敗します。 100Ωと220Ωの抵抗は基板のパターンカットが終わった後、REF方向の検波DC電圧が最少になるように値を設定します。 ストリップラインの幅は2.7mmで厚さ1.6mmのガラスエポキシ基板上に描きました。 ストリップラインの長さは任意で良いのですが、感度に関係します。この寸法で、300MHzくらいでも問題なく動作しました。1200MHzでもOKでしょう。

SWR計の下限周波数

下限周波数に一番影響するのが、トリーマーを含めた、C結のGND側容量(TC1+C5)と電流取り出し用にシリーズに入った抵抗R3です。シリーズ抵抗はその中を流れる電流で電流計を振らせますので、感度の低いメーターの場合、大きく出来ないという制限があります。この抵抗を小さくしていくと、トリーマーを含めたC結による分電圧比が影響を受けます。
実験の結果、C結のGND側分圧コンデンサのリアクタンスの5倍以下のインピーダンスの場合、トリーマーを調整してもSWR1.05以下が得られませんでした。目安としては10倍くらい欲しいですね。 逆に5倍以下のリアクタンスで、1.9MHzのSWRが1.0になったら、それはダイオードの性能が悪い証拠になります。

メーター感度や、分流比の問題から抵抗を大きく出来ない場合、チョークコイルを挿入してインピーダンスを大きくします。ただし、チョークコイルには自己共振周波数というのがあります。 自己共振周波数より高い周波数では、次第にインピーダンスが低下してきますので、前述の条件に合うようにシリーズ抵抗でカバーします。この検討は厳密にやる必要はなく、メーカーが公開しているチョークコイルの周波数対インピーダンス特性データから机上検討で決定したものでOKでした。

トロイダルトランスの分流比

事例としては10:1の巻き数比が多く紹介されています。2次側のダミー抵抗R1,R2を50Ωにしたら、このCM結合器は1/50の電力を消費することになります。(10:1のトランスの場合、電流が1/10になりますので、ダミー抵抗での消費電力はそれぞれ、1/100となり、2本ありますので、全体では1/50となります。) 100W入れたら、2WがSWRメーターの為にロスするということです。 メーカー製SWR計で時々、抵抗から煙が出たと聞きますが、大抵の場合、この抵抗に1/4Wか1/2Wくらいの抵抗しか使っておらず、100Wや200Wで連続送信テストをしたら、SWR計が壊れたというのが実態のようです。
ロスを少なくするには、二つの方法があります。ひとつは分流比を大きくすることです。20Tにするとロス電力は1/200になりますが、前述のごとく巻き線の線長が長くなり、高い周波数の計測が難しくなります。 巻き数比を大きくしたい場合、トロイダルコアのサイズを小さくするのが一番効果的です。 ただし、小さすぎると、コアが磁気飽和する以前に、巻線したコアの内側の穴にファラーデーシールドした同軸ケーブルが通らないという問題が出てきますが。

ロス電力を小さくする、もうひとつの方法は、ダミー抵抗を小さくする方法です。 抵抗を半分にすると、ロスも半分になります。

ロスを小さくすると、 低電力時の抵抗両端のRF電圧が小さくなり、 ダイオードの非直線性により10W以下の電力時、検出される直流電圧はさらに小さくなり、SWRの指示誤差が大きくなります。1Wでも誤差の少ない測定を実現しようとすると、この抵抗両端の電圧を大きくする必要があり、高出力時に、検出用ダイオードの逆耐圧をオーバーしてしまいます。
最近のショットキーダイオードの逆耐電圧は低いのが多いので、この問題はすぐに表面化します。今回の実験中でも1WでまともにSWRが表示できるように定数を設定したところ、50W以上は誤差だらけというダイオードもありました。 測定可能な最低電力と最大電力から、最適な抵抗値を決めますが、その値は、ダイオードのVfと逆耐電圧との兼ね合いになります。
ダイオードは、HF+6m帯くらいをカバーするものなら、昔ながらの1N60が最適でした。

いずれにしても、10W以下でも使えるようにするなら、最高表示電力を必要最小限に抑えるべきでしょう。最大通過電力が1KWを超えるようなSWR計では、例えレンジを30Wにしても、10W以下のSWRは誤差だらけです。 特にクロスメーター式のものは、目盛の補正ができませんので、もっと誤差が大きくなります。 ただ、この誤差は必ず良い数値が表示される方向にずれますので、考えようによっては都合が良いかもしれませんね。 

SWR計の通過電力は決して、大は小を兼ねる事はありません。 最大通過電力3KWのクロスメーター式SWR計でFT-817につながれたアンテナのSWRは、レンジを30Wにしても測れません。


 

C結のGND側容量

トリーマーと固定コンデンサの合計容量はトランスの分流比とダミー抵抗の値で決定されます。浮遊容量を無視すると、このGND側コンデンサの容量Cgは、分流比をN、 ダミー抵抗をR, C1,C3の合成容量をChとすると

Cg は概略 Ch x N x (50/R) となり、

例の回路では、4PF x 10 x (50/51)ですから 約40PFです。

40PFの1.8MHzのリアクタンスは約2.2KΩですから、R3,R4は22Kもあれば十分ということになります。 しかし、さすがにオスカーブロック製のSWRメーターに使用されていたメーター感度でも1Wでフルスケールは得られず、後日、10KΩに変更しました。 シリーズに入れた470uHのチョークコイルを1.8mHに変更すれば22kΩくらいのインピーダンスになりますが、あいにく手持ちがありませんでしたので、470uHを4個シリーズに接続して、効果の確認だけは行い、また、1個に戻しました。

このようにして作られた回路で、トリーマーを調整してFWDとREFのバランスを調整しますが、正しい調整は必ず、最低周波数でREFが最小になるようにトリーマーを調整することです。
実際に作ると、1.8MHzでのREF最小と50MHzのREF最小のトリーマー位置は異なります。ここは、1.8MHzの最小位置が理論的なバランス位置です。50MHzでトリーマーの位置が異なるのは、回路の浮遊容量やインダクタンスが影響してバランスをくずしているものです。従い、この高い周波数でバランスを崩す要因を探し出し、それを矯正するのが正しい調整方法となります。 しかし、それは、とても大変は作業で、場合によっては、CM結合器を丸ごと作り変える必要まで生じます。 
どうせ、アマチュアが使用するものと、割り切れば、自分で納得できる周波数でバランス調整し、その他の周波数は我慢するという考えが、一番利にかなっていると思います。

下の画像は、実験に使用したCM結合器です。 バラック配線された、かなりいい加減な基板ですが、純抵抗負荷の場合、ローデ・シュワルツで確認できるSWR値に対して、針の幅くらいの誤差しかありません。

1.8MHzでREF最少になるようトリーマーを調整した後、50MHzで、REF最少になるよう、トロイダルコアの位置や傾き、さらに抵抗、コンデンサの向きや傾き、コア中心を貫通する同軸ケープルの位置や、配線経路を細かく調整しました。 バラック構造だから調整できましたが、同じ物を、もう1個作れと言われても、多分できないでしょうね。

Swrm3

28.5MHzで50Ωダミー抵抗へ出力し、ローデ・シュワルツの通過型電力計で39.6W、SWR1.03と表示されるときのパワーメーターとSWRメーター振れです。  実際のSWR値より低く出ています。これが誤差ですが、SWR1.0でないところがまだ救いです。  私たちが通常扱う同軸ケーブルを含めたアンテナ系でSWR1.0という数値はあり得ない数値です。もし、SWRメーターがSWR1.0を指したら、それは内部のダイオードの特性を含めたSWR計の性能があまいと考えねばなりません。

Swrm1

私の自作のSWR計も、市販の数万円程度のSWR計も、純抵抗だけで校正されていますので、リアクタンスを含んだ実際のアンテナの場合、SWRメーターの値が1.0以外を指していたら、「SWR1.0ではありません」という事だけは正しいですが、指示されたSWR値は正しい値かどうかは解りません。  SWRとリアクタンスの関係で触れたように、リアクタンスが含まれるとメーター指示は低いSWR値を指示する傾向があるようです。実際値より良い値が指示される訳ですから、健康にはよさそうです。

SWR計がSWR1.5とか2と指示したら、SWR1.0ではないという事と、2より1.5の方が、まだましであるという事だけは正しいと思わないと、長生きできないかもしれませんね。 

ところで、自作のSWRメーターの校正ですが、SWRは100Ωの抵抗をSWR計のアンテナ端子に直接接続し、1.8MHzとか3.5MHzのような低い周波数で5Wくらいを出力し、SWR2.0になるように調整したらOKです。28MHzや50MHzでSWR2.0を調整すると、100Ω自身のSWRが不明ですので、意味がありません。 また、パワーの調整は中心周波数、例えば14とか21MHzで50Ωダミー抵抗に出力しますが、出力値はトランシーバー内臓のパワーメーターで校正を行えば問題なしです。 ローデシュワルツのパワー計でチェックしたとき、昔のTS-930SやTS-850S及び最新のFT-450、FT-991のパワーメーターの指示は誤差5%以内に収まっていました。

ここでご留意いただきたいのは、リグ内臓のパワーメーターは正確でありますが、最近のモデルについている、出力設定をデジタル表示で可変できる出力表示は誤差だらけとい事です。 100W機でも50W機でも最低5Wくらいまでは1Wきざみで可変できるようになっていますが、仮に5Wと設定しても3.5MHzでは5Wの出力が出ても、28MHzでは2Wしか出ないという事を知っておくべきです。 ただし、この場合でも内臓出力計は2Wと正しく表示します。

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2012年12月 6日 (木)

TS-930S 電源レギュレーター破損

<カテゴリ:TS-930>

話題は、私が再開局した4年前に遡ります。 壊れたTS-930Sを貰い受け、動作チェックを始めました。 受信は出来るようだけど、AMが全く音なし。送信モードには切り替わるけど、POWERメーターは全く振れない。ICもほとんど振れない。VCに切り替えたら、メーター振り切れ。あわてて送信中止。 受信状態で+Bラインをチェックすると、28Vの電源が安定化されていなく38Vくらいになっていました。 今のチェックでファイナルが壊れていないかな? とにかく、ファイナルへ電源を供給する赤と黒のワイヤーにつながれたギボシ端子を抜くことにしました。

(電源修理完了後、改めてファイナルをチェックしたところ、トランジスタはすべて生きてました。ただし、出力は出ませんでしたけど。)

電源OFF状態でこの安定化電源用のQ1とQ2をテスターで導通テスト。コレクタ・エミッタ間が通通でした。2石ともNGです。このトランジスタの品番は2N5885。スペックを調べると

  • IC max 20A
  • VCEO max 60V
  • hFE 20-100
  • PC max 200W

Ts930ps この程度のスペックなら、いくらでも代替があると、その他の補修部品を含めて広島市内にある量販店系列のパーツ屋に部品探しに出かけました。 トランジスタ売り場には、CQ出版社のトランジスタデータブックが紐でつるしてあります。部品棚にある現物の形状からPC=200Wくらいのトランジスタを見つけては、データブックでスペックを確認していましたら「サンケン」の2SC2922という馬鹿でかいトランジスタが見つかりました。IC maxが17Aですが、その他の規格はすべてOK。TS-930Sのファイナルの最大電流は12A以下であり、その他の電流を入れても15A以下。これを2個パラに使えば余裕がいっぱい。しかし、値段が1個1500円。他を探しましたが、使えそうなトランジスタはこれしかありません。結局これを2個買いました。今、このトランジスタを通販で買うと840円ですから、かなり高い買い物でした。

代替のトランジスタの形状は全く無視です。既存の壊れたトランジスタを放熱板から取り除き、代替のトランジスタが貼り付けられるように放熱板に新たにタップを切ります。タップは製品開発の過程で、追加するのは当たり前で、昔使ったタップが、工具箱の中に、ごろごろ転がっています。電動ドリルで下穴をあけ、3ミリのタップを切っていくと途中で動かなくなりました。駄目だア、と逆回転させたとたん、タップが折れてしまいました。しかも、アルミの表面から0.数ミリの高さで折れてしまい、抜く事も出来ません。

やむなく、折れたタップはそのままにして、このタップを避けながら、また別の位置に穴を開け、タップを切ります。今回は下穴の直径を2.8ミリにしました。最初は2.7ミリの下穴でしたので0.1ミリアップです。タップが折れてから2.7ミリの下穴は1ミリ厚の鉄板用だったと後悔。

レギュレーターのトランジスタの交換というのは、タップ切りがうまく出来るかだけが難題であり、それ以外は楽勝です。回路図通り配線したら簡単に安定化電源は復帰しました。しかし、まだ問題が。 電圧を28Vに調整しようと、半固定抵抗を回すと、この半固定抵抗がバラバラに壊れてしまいました。半固定抵抗を、又買いに行かねばなりません。しかし、面倒なので180Ωの抵抗を3本シリーズに接続し、その接続部分からタップを出し、固定抵抗にしてしまいました。調整はできませんが、電圧は28.2Vとなり問題なしです。

930pwrtr_2  930pwrsvr_2

シリコングリスたっぷりのサンケントランジスタ(左)  180Ω3本で代用した半固定抵抗(右)

2SC2922のデータシートをダウンロード

同じように、タップを切り直してでも、トランジスタを交換しようと、お思いでしたら、トランジスタの外形がプラスチックモールドで、絶縁シートや特殊なワッシャを必要としない物を選べば楽勝ですよ。 2SC2922のコレクタは、絶縁されていなかったような。・・・・ 忘れました。

別件の用事で、Digi-Keyを覗いたら、2N5885Gが356円で売られていました。3000円+交通費もかけて買い、タップを折りながら苦労したのは何だったん! これぞ、ほんとのタップ折り損のくたびれ儲け。  ただし、Digi-Keyの送料は一律2000円です。ご参考まで。

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2012年12月 2日 (日)

TS-930 MODEスイッチ破損

<カテゴリ:TS-930>

メイン機として使用していました、TS-930Sのモードが突然切り替わらなくなりました。 モードSWはロータリーノブですが、スイッチ部分はスライドSWになっており、ロータリーノブを回転させると、それを水平移動に変換し、薄いステンレスの板でスライドSWまで伝達する構造です。 このステンレスの板が折れてしまい、シャフトの回転がスライドSWへ伝わらないというのが故障の全容でした。

Ts930modesw アマチュアが修理する場合、一番困るのが、こういう電気機構部品といいますか、メカニカルな部品の故障です。しかも、今回は30年前くらいに流行したロータリーSWをプリント基板に実装できると、設計者の間で人気が出たリモートシャフトと呼ばれるスイッチです。商品を開発する上で、非常に便利で、デザイナーがデザインしたパネル配置と電気屋が設計する基板とのマッチングがフリーに出来、アルプス電気や松下電子部品(現パナソニック)が商品化したものです。 TS-930には松下電子部品製が使われていました。 ところが時代が過ぎ、どんなに安い家電製品にもマイコンが搭載されるようになると、回路の切替はIC化され、メカニカルSWの出る幕はなくなっていき、いつの間にか廃番部品となり、市場から姿を消しました。

KENWOODにメールでKENWOODのサービスパーツナンバーで在庫を問い合わせしましたが、予想通り在庫なし。近くのハムショップにジャンク品の問い合わせをしましたが、これも無し。 ヤフオクでこのSWが売りに出されるのを3ヶ月間待ちましたが、さすがにモードSWのみの出品はなく、やむなく、完成品をゲットすることに。もちろん、故障品です。

やっと、MODEスイッチのリモートシャフトのみを交換して、TS-930Sは、またメインに返り咲きました。

同じようなトラブルに遭遇されたとき、安全にリモートシャフトをスライドSWから取り外す方法を紹介します。むやみに引っ張ってロック用のツメが壊れたら、おしまいです。壊さないようにうまく取り外して下さい。

Ts930mode1sw

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