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2016年2月20日 (土)

リミッターアンプ追加

<カテゴリ AM送信機(PWM方式)

正弦波テストでは、大きな歪は確認できないのですが、音楽ソースで変調すると、曲によって歪が感じられる事が有りました。 その原因を調べていたところ、原因は変調器のLPFに使用されている2個目のフェライトコアによるコイルがRFのフライホイール回路の空芯コイルに近づきすぎ、この空芯コイルとフェライトコアコイルが互いに誘導しあっているものでした。 誘導の程度は正弦波も音楽信号でも同じなのですが、歪レベルが単純に正弦波上では良く見えなかっただけでした。

Eamp_2b_3対策として、この2個目のフェライトコアは廃止しました。 250KHzの減衰量を心配しましたが、左のスペアナ画像のごとく、33MHz付近にあったノイズも無くなって綺麗になりました。

E級アンプの放熱板はファンで冷却する事にし、8Vの電源ラインでモーターを駆動していましたが、変調用音量ボリュームを上げると、このモーターの駆動ノイズが同時に変調され雑音となっていました。 この対策の為、12Vラインから68Ωの抵抗と470uFのデカップリング回路を通して駆動するように変更しました。

最近のSSBトランシーバーは定格出力を1.5倍くらいオーバーしてもリニアリティが確保されており、内臓するコンプレッサーは単に出力が定格を超えないようにしているだけですが、AM送信機の場合、変調度が100%を超えたとたん、スプラッターをまき散らすという原理上の問題がありますので、このオーバー変調はどうしても避けねばなりません。

そこで、マイクに向かってしゃべっている時でも変調度を読み取れるように変調度計を追加しました。 

Mod_meter

Mod_amp

左が今回追加した変調度計、右は、SMT用ユニバーサル基板上に組んだメーター駆動回路で、後日、糸ノコで切り落とし、メーターの後ろ側に貼り付けます。

この変調度計はピークホールド型で、針の振れは遅いですが、オシロで波形観測をしながらチェックすると、指針が80%を超えなければ、おおむね100%以下の変調度が維持できるようです。 このメーターを見ながらしゃべる事にします。

さらに、突発的な過変調に対応する為、録音やカラオケのマイクアンプに使われるリミッターアンプを追加し、過変調の確率を減らす事にしました。 使うICはTA2011のセカンドソースであるSA2011です。ゲインは標準回路の47dBのままですが、アタックタイムを数ミリ秒にする為、6番ピンの抵抗コンデンサを変更しました。 うれしい事に、このICはトランシーバーのマイクアンプでの使用も想定されているようで、内部OP-AMPの差動入力間に20PFのコンデンサが接続されており、AMP-Iの問題は全く有りません。

この回路で、過入力があっても90%以上の変調がかからないようにVR2を調整しています。

また、前回の効率アップ検討時に実施したリンギング対策も下記の絵のように、すっきり配線することで、ほぼ確実に対策できました。 今回は短冊状の銅板を使いましたが、プリント基板の銅箔に幅を持たせて板状の導体で配線するのが一番の対策のような気がします。

E_ampringing

Amtx0303

左は最終状態の送信機で、変調度計を狭いフロントパネルに括り付けました。 そして、その後微調整をして、電源電圧28.2Vで18Wの出力が得られ、効率はE級アンプ部分で82%くらいになっています。

配線図 AMTX_15.pdfをダウンロード

ファンの振動をスタンドマイクが拾い、うるさいですから、シャーシの下にスポンジたわしを敷いています。

TSSに申請してから、約1か月後の3月中旬に、総通から設備追加の許可が降りました。 土日の休日しかON AIRできませんが、テスト運用しております。

さらにパワーアップにトライします。

パワーアップ(E級プッシュプルパワーアンプ) に続く。

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2016年2月11日 (木)

LPF改善

<カテゴリ AM送信機(PWM方式)

トロイダルコアで作った7次LPFはその挿入損失が大きく、E級アンプの効率アップの効果が全く生かされていませんでした。

そこで、最初に作った空芯コイルによるLPFを改造して、7次LPFを作り直す事にしました。

最初のLPFも空芯コイルでしたが、各コイル間のシールドがされていなく、これが、目標とした特性が得られなかった原因と考え、仕切り板のある構造にします。

New_lpf_schema

基本定数はトロイダルコアタイプと同じですが、空芯コイルに換え、各コイル間には仕切りを入れコイルどうしの干渉をなくし、かつ次のコイルへの接続は100Pの貫通コンデンサ経由で行うという方式にしました。 厚さ0.3mmの銅板でシールド枠を作り、はんだ付けして組み立てますが、強度確保の為、底辺にアルミの角アングルを当て補強してあります。

今回は手持ちの銅板で製作しましたが、原理的には、銅より鉄の方がシールド材としては優れていますので、次回製作が必要になりましたら、ブリキで製作するつもりです。

New_lpf_1_2

New_lpf

このLPFに50Ωの負荷をつなぎ、アンテナアナライザーで測定したSWRカーブが左の状態です。 7.199MHzのときSWR1.14となっており、この時の挿入損失が約0.45dBでした。 トロイダルコイルタイプの時は約1dBのロスでしたので、約0.55dBの改善です。

また、14MHzの減衰量をアンテナアナライザーとオシロスコープで確認したところ、30dB以上はあるようです。 

前回の検討で、FETシングルの時の最大DC入力は、23Wと出ていましたので、この新しいLPFの場合でもDC入力23Wくらいを目安として、コイルやコンデンサのカットアンドトライを行い、トランスの巻き数比も1:2にした結果、LPF outで15Wくらいの出力を確保する事が出来ました。 この時のE級アンプの推定効率は80%くらいになりました。

そして、効率の良いE級アンプと言えども、電源電圧を上げて、電流を押さえるようなハイインピーダンス回路にしないと、高効率は得られないという事が良く理解できました。 電源電圧はまだ上げる事はできますが、熱損失が目いっぱいですので、今回はこの辺で手を打つ事にします。

Am_tx0211

上の表は電源電圧を14Vにして、フライホイール回路の再設計を行ったときの出力データです。一番上は、効率最大の条件にしたもので、LPF outで約12Wの出力です。 熱損失的には、もう少し余裕がありますので、効率はダウンしますが、ギリギリまで出力アップしたのが真ん中のデータです。14V電源で16W出ています。 そして、この状態のままで、変調器をつなぎ、変調器に28.2Vを加えた時のデータが一番下です。かろうじて80%の効率を確保しました。

Vd0211

Mod0211

左上がVdの波形、右上は電源電圧28.2Vで1KHzの変調をかけた状態です。これより変調レベルを1dB上げると、1KHzの上下がクリップ始めます。従い最大変調度は90%くらいです。波形歪は音楽を変調して聞いてみても、ほとんど感じられません。

そして、配線を最短にやり直し、エージングを1時間した結果

無変調時のDC入力23.06W、LPF out 17.2W RFアンプ効率74.5%が最終値となりました。

Lpf_mod3a

上は変調段の後のLPF計算結果です。実際の回路では、L1=200uH、L2=130uH、C2=4.4uFとなっています。 このLPFはオーディオ信号で鳴きます。かなり歪んだ音です。マイクをつなぎハウリングは起こりませんので、現状のままです。 (その後、L2とフライホイール回路のコイルとの結合が問題となり、L2は廃止しました。)

計算URLは下に再掲します。

http://gate.ruru.ne.jp/rfdn/Tools/BlpfForm.asp#p1

E級アンプの検討開始時、VK1SVの設計シートを紹介し、うまく行かなかったと書きました。 しかし、うまく行かなかったのは私のやり方が悪かった為で、 今回は、かなり当てに出来るデータが得られました。

http://people.physics.anu.edu.au/~dxt103/calculators/class-e.php

そのURLを再掲しますが、ここの計算で重要なのは、トランスの1次:2次の巻数比でした。 巻数比は計算上では、小数点付で表示されますが、ここは1か2か3の整数しか無いという事です。色々なパラメーターを調整し、巻数比が整数になるようにしなければならないという事です。 今回、再計算するに当たり、電源電圧14Vと固定して、その他のパラメーターを設定しますが、VoとかL1は固定されますので、主にPOWERを選択して、トランスの巻き数比を2.0xくらいにします。この状態で得られた、L2をそのまま採用し、C1とC2を調整すると、計算で得られた容量の60~70%くらいで最適となりました。 L2は必ず、LCメーターで計測されたインダクターか、アンテナアナライザーを使い、既知のコンデンサとの直列共振周波数を求め、これから算出されたインダクタンスが目標値の最少誤差になるよう調整して置くのがキモです。

また、計算シートにあるようにQ=5からスタートしたらいいのですが、巻数比を3.0にすると、誤差が大きくなりますので、Q=3くらいまで落とした方が良いみたいです。 ただし、巻数比が大きくなるに従い、効率はどんどん下がっていきますので、巻数比2.0が最適なようでした。

このようにして、最大効率のC1,C2を求めた後、空芯コイルで作ったL2のピッチを微調整します。 C1,C2が計算通りにならない主な理由はQをいくらにするかという事のようです。 通常、動作状態のQを予想するのは難しく、ここで労力を使うより、計算値よりずれる事を受け入れる方が楽です。

ファイナルの電源をOFFにして、変調器のLPFを検討しようと、ハンダゴテを使い部品交換をしていましたら、誤ってFKI10531のソースとGNDをショートしてしまいました。電源OFFにしてあるので安心してましたが、FKI10531がショート状態で壊れてしまい、手持ちのFETを全部使い果たしてしまいました。  

Amtx_0211vomp

この原因は電源ラインに挿入した2200uFの電解コンデンサが放電せずに残っており、ソースとGNDをショートしたとき、電解コンデンサの放電電流が流れ、FETを電流破壊したものでした。 対策として、この2200uFの両端に5.6KΩの抵抗をパラに入れ電源OFF時はすぐに放電するようにします。

左がこれまでの対策を全て盛り込んで、完成したPWM変調方式AM送信機です。

ファンの音が少し気になりますが、FETが壊れるよりはましですので、我慢する事にします。

Wout_bpf0212

Bpf_add0212

Amtx_wbpf

左上は、この送信機でフルパワー出力時の高調波レベルです。Qをかなり高くした、7次LPFでも第2高調波を十分に減衰させる事は出来ていません。 右は、この出力の後に、TS-930Sに内臓していた7MHz用BPFを取り付けたものです。 33MHz付近でPWMアンプのフィルターから放射されたノイズがBPFに誘導しています。 左の写真がBPFを取り付けてエージングをしている様子です。 クラニシのパワーメーターは17.5W付近を指しています。 さすがにKENWOOD設計のBPFだけあって、挿入ロスはほとんどありません。

AUX端子からの音質は問題ないのですが、TS-850Sにヘッドフォーンを付け、マイクに向かってしゃべってみると、高域が抜けた、了解度が悪い音質になっていました。 原因は、常用しているマイクの出力インピーダンスが50KΩであり、これを10KΩのボリュームで受けた為、高域が落ちてしまったものでした。ボリュームを50KΩに換えればOKなのですが、あいにくスイッチ付の可変抵抗器が有りません。やむなく、OP-AMPを追加し、50KΩで受けるように変更しました。 

配線図 AMTX_13.pdfをダウンロード (IC6の in,outが逆です。)

この状態でTSSに申請しましたが、音楽を変調した信号により、フルパワーでダミーロードをドライブし、そのおこぼれを、TS850Sで聞いていると、曲によって歪が気になる事があります。 しばらくは、正弦波ではなく、音楽信号による歪改善が必要なようです。  実際にON AIRするのはいつになる事やら。

TSSに提出した送信機系統図2nd_TX_AM_BlockDia.pdfをダウンロード

リミッターアンプ追加 へ続く。

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2016年2月 6日 (土)

放熱設計

<カテゴリ AM送信機(PWM方式)

こいう事を巷では「どろ縄」と言います。

28Vの電源に1分くらいつないだらFETが壊れてしまいました。しかも、E級アンプと変調用のD級アンプ、ふたつともです。 この対策を考えていましたら、パワーアンプで最初にやらねばならない放熱設計が完全に抜けていました。 FETシングルで何ワット出力できるか? パラレルでは何ワット?という以前の問題でした。

そして、改めて放熱設計を検討する事にしました。

Heatsink3 

 上の表は、放熱設計の基本を表にしたものです。 各熱抵抗はFETの品種ごとに決まった値になります。 また、使用する放熱板やFETを放熱板に固定する方法で決定される数値です。 これらの数値から、今回の送信機では、FETに許容出来る最大損失が10Wであると計算されました。 

次に実際の使用環境を考察します。  この送信機はAM送信機ですので、無変調時の定格出力と100%変調時の最大出力を考慮必要です。最大出力は無変調時の1.5倍となりますので、定格出力状態で論議するときの最大許容損失も、10Wの1/1.5の6.7Wになります。 この6.7Wを超えたら、このFETが壊れるわけですから、ディレーティングという考え方を行い、最大許容値の70%を通常状態と設定します。この通常状態での許容損失は4.7Wとなりました。

E級アンプの効率を仮に80%と仮定すると、4.7Wの許容損失になる時のDC入力は23.3Wとなります。 ここから4.7Wの損失を引き算して、アンプの出力は最大で18.7Wとなります。 この18.7WにはLPFの挿入損失は含まれていませんので、現在のLPF挿入損失-1dBを考慮すると、LPF出力部での最大出力は14.8Wと計算されます。

FETが90%変調状態で1分くらいで壊れた時、LPFを通過した後の無変調出力が21Wくらいでしたから、FETが壊れても不思議ではありません。

これから、回路を再設計するに際し、測定誤差もありますので、一旦、目標最大出力はLPF挿入前で18Wと置きます。  18W以上が欲しければ、FETパラレルドライブにして、放熱板も2倍の放熱量を確保できるサイズにしなければならないという事です。 FETパラレルドライブの出力アップ構想も許容放熱量の制限から不可となりました。

なお、ここでシングルFETで最大18Wというのは、フルモールドパックのFETと、秋月の小さな放熱板での話で、ドレインが直接フィンに接続された絶縁が必要なTO-220や、ファンの付いた放熱器を採用する事により、この2倍くらいの出力まで上げられる事は補足して置きます。

これらの条件を実際の回路に当てはめようとすると、そう単純にはいきません。 まず、LPF挿入前の出力というのが測定できません。 電力計が熱電対型の真の実効値を検出するタイプなら問題ありませんが、クラニシの電力計やCM結合器を使った通過型電力計の場合、LPFを通る前の大きな歪のある信号の電力を計る事は不可能です。 これらの電力計は正弦波の片方のみをダイオードで整流して、その直流電圧から電力を換算していますので、歪が生じたとたん、指示された電力値は誤差が大きくなります。ひどい時は入力されたDC電力よりも測定された高周波電力が大きいというウソのデータも出てきます。 従い、LPF単体の挿入損失を正弦波の信号源を使い、実測で求めておき、LPF出力端で測定した電力からLPF無しの出力を計算で割り出しています。

E級アンプを再設計するに当たり、一度熱暴走で壊している負い目がありますので、最初は14Vの電源で10Wくらいを目指して、回路設計を行い、おそるおそるFETや放熱板を手で触りながら、パワーを上げるかどうかを判断することになります。

そんな訳で、フライホイール回路のコイルを0.61uHとして、この状態で最大効率が得られるように各定数を調整した結果以下のようになりました。

Amtx_comp_out1_2

上の段は、変調器なしでRFユニットに直接DC14Vを加えた時のもので、LPF通過後、9.1Wの出力となり推定出力は11.5W、76.4%の効率となりました。 RFアンプ効率というのは、LPFのロスを含んだ全体の効率です。

下段は、変調器を接続し、電源電圧も28.2Vに上げた時のデータとなります。 変調器とRFユニットの間にあるLPFのインピーダンスが影響していると思われますが、単体の時より効率が上がり、LPFなしの推定効率は80%くらいで、まずまずです。

Amtx_vdvg

Amtx_rfout 

左の画像の下の波形がVg、上の波形がVdです。 オシロの縦の目盛は20V/divです。 右側の画像はLPFを通った7MHzのキャリ波形です。

この状態で、PCから音楽ソースを入力し、1時間くらいのエージングテストを行いました。   RFファイナルの放熱板はかなり熱を持ちます。1秒以上触り続ける事は出来ません。多分50度を超えていると思われます。また、28Vから12Vを作る3端子レギュレーターも負けずに熱くなっています。 変調器のFETは100x120mmのアルミ板にビス止めしてありますが、ほとんど温度は感じられません。

E級アンプの放熱板に定格12Vのファンを8Vで駆動して風を当ててみました。すると放熱板の温度はずっと指を当てていられる状態まで下がり、出力も以下のようになりました。

Amtx_fantukiout

 

効率83.5%はマユツバものですが、ファンで強制空冷するとかなり効果がある事はわかりました。ファンを恒久的に取り付ける方法を考える事にします。

一方、1時間もエージングすると、7MHzのLPFのコアがかなり熱くなります。これは、なるべく早く改善する必要があるようです。

今回の変更でE級アンプのインピーダンスは14Ωくらいになりましたので、従来、7.2Ωで計算されていた変調器のLPFのままでは、変調の周波数特性が変わり高域が、かなり出るようになりました。スイッチングの250KHzも減衰量が減ったと思われます。 この変調段のLPFは周波数特性のみに影響すると思っていましたが、インピーダンスが大幅に違うと、オーディオの波形が歪む事を発見しました。 E級アンプの負荷インピーダンスが10倍を超え始めると次第に歪を目視できるようになります。 従い、きれいな変調を維持する為には、常にこのフィルターのインピーダンスはE級アンプに合わせておく必要がありそうです。 

最新回路図 AMTX_11.pdfをダウンロード (IC6の in,outが逆です。)

LPF改善 に続く。

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