« 2023年7月 | メイン | 2023年9月 »

2023年8月23日 (水)

ATUの挿入位置とケーブルロス

<カテゴリ:アンテナ>

最近のSSBトランシーバーには、ほとんどATUが内蔵され、リニアアンプ等を接続する場合、なくてはならない装置になっておりますが、このATUとは別に外付けの、アンテナ直下に接続する屋外用ATUも多数商品化されております。 本来のATUは共振状態にないアンテナを共振状態にして、かつインピーダンスマッチングを行う事を目的としており、1本のワイヤーアンテナやループアンテナを多バンドで使用したい時、重宝する事になります。 しかし、トランシーバー内蔵のATUの先に同軸ケーブルを接続し、そのケーブルの先にミスマッチのアンテナを接続してON AIRされている方も一部見られます。

OMさん方がATUはアンテナの給電点に接続するもので、送信機と同軸ケーブルの間につなぐものでは無いと言っても、なかなか信じてもらえないのが実情です。

そこで、送信機-ATU-同軸ケーブル-アンテナと接続した時の送信出力のロスを計算する機会がありましたので、いかに損失が大きいか紹介する事にします。

このデータはTLWというARRL監修のアンテナチューナーの解析アプリで計算しただけのもので、トランシーバー内蔵のATUだけでマッチングを取った時に起こるその他の問題点は加味していません。 また、TLWの中に5D2Vのデータが無かったので、RG規格の似たような同軸ケーブルのデータを使い近似しました。

TLWの紹介資料 tlw.pdfをダウンロード

21mhzap_comp

比較を簡単にするために21MHz用寸足らずのダイポールを地上高10mに上げ、アンテナエレメントの中央に接続したバランと5D2Vの同軸ケーブル経由で送信機に接続した状態で、ATUを送信機の根元にいれた場合とアンテナの給電点に入れた場合の、ケーブルロスとATUのロスを計算比較しました。 また、参考として、アンテナの長さを調整して、ほぼ共振状態にした時のロスも計算してみました。

Cableloss_2

アンテナの長さが5mのデータは、長さが寸足らずの結果です。 送信機出力100Wのとき、アンテナ直下のATUの場合、アンテナに供給される電力は80.3Wほどですが、トランシーバー内蔵ATUの場合、34.3Wしか供給されません。

アンテナの長さが6.8mの場合、ほぼアンテナ単体で共振していますので、ATUの目的は、66Ωの抵抗分を同軸や送信機の50Ωに合わせることのみに利用されます。 アンテナ直下のATUが有利である事は変わりませんが、トランシーバー内蔵のATUの場合でも大きな差は無くなっています。 ただし、この状態は、シングルバンドの時だけの話で、バンドを18MHzや24MHzと兼用した場合、21MHz以外は大きくロスが増える事になります。

この記事ではATUとして説明しましたが、外付けのMTUを送信機のすく横に置き、MTUから同軸ケーブルでアンテナに接続した場合も同じ事が起こります。

次に7MHzで良く使われる5mの釣り竿アンテナを計算してみました。釣り竿アンテナをhoipとして使う場合、条件の設定が難しいので、全長10mの釣り竿(5mの竿を2本用意し、水平に張ったアンテナ)で計算してみました。 この条件なら、5m釣り竿によるアンテナとしては最高の効率が得られますので、5mの釣り竿とカウンターポイズや住宅の鉄筋にアースを取ったアンテナの場合、この数値より良くなる事はないでしょう。

Cableloss7mhz

結果は上のようになりました。ATUがリグ内蔵だけの場合、多分相手は拾ってくれないと思われます。

21mhzap_comp3

どうしても、内臓ATUだけでしかON AIR出来ない場合、はしごフィーダーとバランの組み合わせで対応する事が出来ます。

左の図3のように同軸ケーブルを600Ωのはしごフィーダー(ラダーライン)に変更し、従来、ダイポールの給電部に有ったバランはATUの出力側に移動します。

この時、ラダーラインはなるべく建物や金属と平行して設置するのを避け、壁や窓枠を貫通する場合、金属の支持物を避けてATU(MTUも同じ)の出力端子に接続したバランの平衡出力に接続します。 理想的には壁に2個穴を開け、そこに貫通碍子を通し、ラインを部屋の中に引き込みますが、他にも方法がありますので、調べてみてください。

600Ωのラダーラインは市販されていなく、自作するしかありません。昔は割りばしをテンプラにして、防水対策しましたが、今では、プラスチックの棒がホームセンターで手にはいりますし、導線をプラスチック棒に縛るのも、ロックタイを使えば簡単にできます。

下のデータは自由空間に置かれた600Ωのラダーラインを使い21MHzで計算したものです。

Cableloss3

600Ωのラダーラインの場合、ケーブルロスが0.8dBですが、市販の450Ωのラダーラインの場合、ケーブルロスは1.03dBとなります。 また、市販のUHF TV用200Ωリボンフィーダーの場合、残念ながらデータが有りませんが、推定で2dB以内に収まるかも知れません。

リボンフィーダーの場合、昔のUHFテレビを考えると、その取扱いが簡単ですから、同軸ケーブルよりロスがかなり少なく、利用価値はあると考えられます。

ラダーラインを使った場合、ATUやMTUがそのインピーダンスをカバー出来る限り、マルチバンドで使えます。

TLWのソフトは「Arrl Antenna Book」という本の中に付録として挟まっているCD-ROMの中に収録されており、アマゾンでも買う事が出来ます。 

TLWで計算していると、ATUやMTUは使わなくて済むなら、それが一番だと判りますが、結局ATUやMTU頼みになってしまいますね。

そのATUのソフトを一から書いて自作した記事はこちらにあります。

    

INDEXに戻る

2023年8月 6日 (日)

160mバンド 200W対応

<マルチバンドアンテナシステム2>ATU ループアンテナ 電界強度計算

新マルチバンドアンテナシステムが順調に運用できるようになりましたが、コンディションは最悪で、DX局はFT8しか聞こえないという日々が続いています。 この状況で唯一夜中に交信が楽しめるのは160mのみとなっていましたが、あいにく、ATUの基本性能がMAX150Wに制限されていることから、せっかくの200Wリニアアンプの出番は有りませんでした。 (前々回の記事)

ちょうど、台風6号が向きを変えて当地へ近づきつつあり、上げたばかりのアンテナを壊されないように降ろす事にしました。 そのついでに、ATUを200W対応に改造しようともくろみます。

改造方法は、ATUの中にあるコイルに流れる電流を減らして、その反対に電圧は上がりますが、コイルのコアが発熱するのを抑えようとするものです。 この電流を減らす方法は、現在使われているスカイドアアンテナ用の9対4のインピーダンス変換トランスを160mバンドのアンテナでも使う様にする事で実現できます。 このトランスは不平衡/不平衡変換トランス(UNUN)ですので、160mバンド用のスローパーモドキでも問題有りません。 

Newunun230816

5r5p

左上が巻き数比3:2のUNUNの挿入場所を変更した改造後のATUの内部です。 右上は、今までTUNEの微調の為に付けていました2.5PFのコンデンサを5.5PFに変更したものです。 このコンデンサの容量はATUの内部コンデンサの最小容量の半分でなければなりませんが、この最小容量を5PFと勘違いしていたものでした。 改めて現物を見ると、ATUの最小容量は10PFでした。 そこで22PFのコンデンサを4個直列に繋ぎ、12KV5.5PFを作り交換しました。 今まで、このコンデンサのON/OFFでの差がそれなりの効果を示さないと思っていましたので、これで多少は改善する事を期待する事にします。

台風6号が西へそれ通過した後、今度は台風7号が初期の予想に反して、西寄りに進んでくるため、改造の終わったATUを乗せたアンテナを上げられない状態が続いていましたが、10日過ぎて、やっと上げる事ができました。 そして、1.8MHzのSSB 200Wによる20分間のQSOも終始SWR1.02という状態で成功しました。

改造したATUの配線図 NB-ATU_main8.pdfをダウンロード

15年間使ってきたTS-930Sの故障が連続する事から、売り払って、新たにFTDX-101Dを導入しました。 せっかく、新規導入したのに、DXはまださっぱりです。 FTDX101Dの入荷待ちの間に、移動運用用50WのFT-991の21MHz CWモードで、この新マルチバンドアンテナを使い、DXCC NEWエンティティ(4U1)をゲットしたのですが、この新しいリグではまだです。 サイクル25のピークに期待する事にします。

 

このFTDX-101Dを使えるように総通へリグの取り換え申請をしましたが、今年の4月以降、固定運用の局は電界強度の計算書を一緒に提出する必要がありました。 (リンクした「総務省電波利用ホームページ」の中の参考3,4,5をダウンロード。実際に提出したのは参考5のエクセルと自宅周辺半径50mの平面図、アンテナと周辺建物の位置関係を示す南北方向及び東西方向のpdf図面)

自宅のアンテナ位置を中心に半径50mの地図と、自宅の境界地点に於けるアンテナワイヤーからの最短距離が判る図面を添付し、総通からダウンロードした参考5のエクセルに必要事項を記入していくと、許容値以内なら〇印が、NGならX印が自動的に付くもので、もちろん全バンド〇でなければなりません。 この記入に当たって、アンテナのゲインをMMANAを使い、リアルグランド条件で算出し、同時に得られる給電点インピーダンス(R+JX)を使い、ATUの内部ロスをTLW(ARRL)で計算し、提出しましたら、ノーコメントで審査終了になりました。 メーカー製のビームアンテナなら、ゲインが公表されていますので、簡単に記入できますが、ワイヤーアンテナアの場合、標準寸法のダイポール以外、ゲインが判りませんので、MMANAで計算させた数値を使うのが一番良いようです。 MMANAで出力されるゲインの単位はdBiですから、そのままエクセルに記入できます。 また、ATUやMTUを使う場合、この内部ロスを加味して、同軸の減衰量に加算してやれば、〇になる確率が上がります。 例えば、1.8MHzの場合、ATUの内部ロスが3.3dBくらいになりますので、200Wの送信機で空中線やカウンターポイズとの距離が2mしか無いときでも結果は〇になりました。

さらに、リアルグランドで計算した場合、大地反射波を考慮済みのゲインですので、エクセルの中にある、大地反射波の有無の項目は無しにしておけばOKです。(大地反射波を考慮するとした場合、電界強度が自動的に2倍に設定されますので、これを避ける必要が有ります)

これらの条件をエクセルの表の下側の注釈の欄に追記して提出しました。 この変更は「届け」の処理ですが、審査終了まで1週間かかっていました。 多分、総通も内部で検証作業をしたのだと思われます。

エクセルには同軸ケーブルのロスを記入する箇所がありますが、同軸ケーブルメーカーが発表するロスのデータはハムバンドをカバーしていませんので、実際のハムバンドでいくらのロスになるかは推測するしかありませんでした。 そこで、フジクラが公表している1,10,30,200MHzのデータを使い周波数補間法で各ハムバンドに於ける1m当たりの減衰量を推定しました。 誤差は+/-5%くらいに収まっていると思っています。 ベランダアンテナの固定局の場合、同軸ケーブルをサイズダウンしたらOKになるかも知れません。

私の申請時はこのデータが無かったので、同軸ケーブルロスはゼロ、ATUのロスのみ記入して提出しました。 また、この規定の中に出てくる「一般の人」は免許人や家族以外の人と解釈して資料を提出しましたが、コメントはありませんでした。  また、背の高さが2mの人とアンテナの距離を求めますが、アンテナの位置は給電点ではなく、アンテナエレメントやカウンターポイズのワイヤーと一番近い距離になります。 私のアンテナでは、垂直ダイポールの先端が地上高1mとなていますが、この位置は、隣家と自宅の境界となる石垣の上にあり、隣家の土地から3.2mの高さにあります。

TLWの紹介資料 tlw.pdfをダウンロード

TLWのソフトは「Arrl Antenna Book」という本の中に付録として挟まっているCD-ROMの中に収録されており、アマゾンでも買う事が出来ます。

Coaxlatt

Newrig230816

ATUに致命的なバグが発見されました。 ここで対策を紹介しています。

 

INDEXに戻る