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2014年7月26日 (土)

バリコン式ATUの自作 1

LDGや東京ハイパワーのATUを使ってみましたが、その整合可能範囲はMTUのNT-636と比較した場合、比較にならない程狭いものでした。 この為、現在はバンド専用にプリセットされたMTUを使用していますが、雨で整合状態がずれた時など、手元のNT-636に切り替えていました。  しかし、手元のMTUは長い同調フィーダーを使用する関係で、打ち上げ角が高くなったり、外来ノイズを目いっぱい拾ったりで、どうしてもと言う時以外は使用していませんでした。

最近時間が取れるようになりましたので、NT-636並みの整合能力があるATUを目指して、ATUを試作する事にしました。 (ATUの自作ではなくバリコンの自作の場合、こちらを参照下さい)

Atu_ts930

アンテナチューナーの方式をNT-636と同じとすると、バリコン2個、コイル1個を使用したハイパスT型となりますが、ちょうど、物置に、TS-930Sから取り外したATUが有り、このATUの中に、モータードライブのMax250PFのバリコンが2個ついています。このATUからバリコンのみ抜き取り、コイル切り替えをリレーで行えば、NT-636とほぼ同等のATUができそうです。 ただし、バリコンの角度を電気的に知る方法は有りません。バリコンの回転角をギアを使い、可変抵抗器へ連結し、その分電圧を読むことで、バリコンの角度を得る事ができます。 バリコン駆動のシャフト径は3mmで、これに合うギアや可変抵抗器が通販されている事が判り、ギアボックスを自作したら実現しそうですが、かなり難易度の高い工作が必要です。 よって、もともと、TS-930Sはバリコンの角度センサーなしで動作していましたので、まず最初は可変抵抗器なしで実験する事にしました。

ATUはCM結合器、周波数カウンター、モータードライブのバリコン、コイルのタップ切り替え回路を持ったT型アンテナチューナーで構成されますが、これらを制御する回路はマイコンに頼る必要があります。 マイコンの開発は、開発用のボードを作り、これが構想通りうまく動作するように、まずソフトを開発する事になります。 ソフトが完成したらハードを実用サイズに作り直します。

Atupcb

そこで、蛇の目基板にマイコンを実装し、基本動作に必要なソフトを開発する事にしました。

使うマイコンはPIC16F1939です。 ATUとしては測定した周波数や、SWR値をユーザーが知る必要はないのですが、マイコン開発となると、話は別で、測定した周波数やSWRが見えるようにLCDディスプレーを追加します。

LCDはAQM0802Aという品名で秋月で320円で売っている8文字2行表示のものです。必要に応じて、内部データをLCDに表示させデバッグに使います。 このLCDのピンピッチが1.5mmと特殊で実装に難儀しました。後で判ったのですが、このLCD用のピッチ変換基板が同時に売られているようです。

Atulcd_2

I2Cシリアルラインを使った、このLCD用のPICソフトはインターネット上に公開されています。 このソフトを16F1939用に書き換えて使いますが、なかなか表示がでません。  LCDへ渡すデータがコマンドかデータかの識別コードを最初に送りますが、この識別コードが間違っていると判るまで数日かかりました。   コマンドの時は0x00、データの時は0x40を送ると正しく表示します。

 左の画像は周波数カウンターの結果を表示させたものです。カウンター精度は+/-10KHzくらいでも実用になるのですが、このマイコンは30MHzくらいの外部入力でもカウントしてくれるので、プリスケーラーなしで1mSecのゲート時間にすれば、1KHz単位のカウンターが簡単に実現できます。

TIMER1の16bitでカウント動作をさせ、TIMER0で1mSecのゲート時間を作ります。FOSCが10MHzですから、内部の動作クロックはFOSCの1/4となり、ゲート時間の最少分解能は0.4uSecとなります。 30MHzの入力の場合、カウントは12KHzごとになりますので、全割込み禁止にした上でNOP命令を使いゲート時間を正確に1mSecにしようとしますが、  +/-4KHzまでが限度でした。 これ以上は、10MHzの水晶発振器の発振周波数をトリーマーで微調整し、29MHzで誤差+/-1KHz以下に追い込みます。 ただし、そこまでやるのにまた数日要しました。

Ldgcmc

CM結合器はメーターが壊れて使えなくなったSWR計に使われていたCM結合器を改造して使う事にしました。ATUの中に内臓されたCM結合器はかなりいい加減なものが多く、基板に寝かしたトロイダルコアの中心に1本の裸線を通し、これでSWRの監視を行っているのが普通です。左の画像はLDGのATUの中に内臓されているCM結合器です。 

SWR計に使うようなりっぱなCM結合器をATUで使うことはもったいないのですが、ほかに使い道が無いので、これを利用する事にしました。 ちなみに、この壊れたSWRメーターのメーター部分はすでにCメーターに流用しましたので、SWR計としての再利用はあり得ません。

SWRは1.05などのように小数点以下2桁くらいまでを読む必要がありますので、マイコンのデータ様式をfloat(浮動小数点数型)にし、プログラムをそのように書きましたが、コンパイルエラーになります。よくよく調べるとマイクロチップが無償で提供している HI-TECH C のコンパイラーの中には、floatデータをASCII文字に変換する機能は同梱されていない事がわかりました。 

また、PICでfloatデータを使うと、大量のメモリーを消費し、RAM領域の不足が心配されるし、スピードもかなり遅くなるようです。 SWRの計算はCM結合器で検出したDC電圧をADコンバーターでデジタル化した後、下記のように計算されますが、

Atuswr0

分母で割る前に分子を100倍しておけば、SWR1.05はSWR105として表せますので、すべて整数計算で小数点以下2桁までの計算ができます。 (後日、プロの方にお伺いしましたら、当たり前の処置でその方はすでに1000倍したデータで記述していました。) ただし、long int型のデータを使っていても、大きなSWR値になるとオーバーフローしますので、計算する前にVfwdとVrefをチェックし、SWR値が90を超えるようなら計算せずに一律SWR=90と定義してしまうなどの小細工は必要です。

Atucmc 壊れたSWR計から取り外したCM結合器。 アンテナへつながるストリップラインをカッターでカットし、その間にT型チューナーをつなぎました。

TS-930S用ATUからバリコンとギアボックスのみを取り出し、実装しました。

Atuvc1

コイルはメーカー製アンテナチューナーについていたもので、外径30mmのボビンに1mmの銅線を1mmピッチで25ターン巻いて有ります。これを2個直列接続し、10個のタップをそれぞれ5000V耐圧のリレーに接続します。リレーの接点も2回路を直列に接続し、耐圧を確保します。 開発完了し、小型のケースに収納する場合は、VU40くらいの塩ビパイプに1mmの銅線を巻いて1個のコイルで済ませる予定ですが、開発ボードは、自作の手間を省きました。

Atucoil

Atupcb1

マイコン基板の銅箔面には、全部のチップ部品が実装されています。 CM結合器からのDC電圧を直接マイコンに加えると、誘導雷があった時、マイコンのi/oが壊れる可能性が高い為、ゲイン0dBのOP-AMPによるバッファーを介して、マイコンのAD入力に加えます。

このOP-AMPはグランドセンスタイプになりますが、一般に使われるLM358相当品の場合、出力電圧の最大値は電源電圧より1.5Vくらい低くなります。VCCが5Vですから、マイコンのAD入力には最大で3.5Vしか加わらなく、Dレンジが狭くなってしまいます。これを防ぐ為に、OP-AMPだけVCCを 6.5Vで動作させた事が過去ありましたが、今回は、ちょうど手元に、最大出力電圧がVCCより20mVくらいしかダウンしないというOP-AMP MCP6402が有りましたので、これを実装する事にしました。しかし、このOP-AMPのピンピッチは1.27mmで蛇の目基板と合いません。やむなく、廃棄予定の基板から1.27mmピッチのICパターンを切り取り、その部分にOP-AMPの回路を実装しました。  

モータードライブは秋月で見つけた東芝のTA7291PというICを使用します。このICはメカコン用に必要なすべての動作モードに対応していて、外付け部品が非常に少なくなっています。ディスクリートで作るよりかなり安くできます。マイコンのi/oをon/offして動作テストだけはOKです。

ソフト開発が進むにつれ、ハードの変更は付き物ですから、基板にもかなりの空き領域を確保しました。

全体構造は以下のようになりました。 これは評価ボードですので、完成したあかつきには、もう少し小さく作る必要がありそうです。

Atutestbord

見た目は出来上がったように見えますが、マイコンはLCD表示ができるくらいで何もアクションしません。 本来必要なマイコン動作仕様書は無く、整合状態に追い込む為のアルゴリズムも存在しません。全部、いちから試しては、やり直しの繰り返しになりそうです。 

一応全体の回路図を添付しておきます。VC式ATU配線図をダウンロード

いつ完成することやら。

バリコン式ATUの自作 2 に続く

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