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2019年8月 4日 (日)

ダイレクトコンバージョン式SDRチューナー

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RTL-SDRチューナーを改造して、フリーSDRソフトであるHDSDRを使用したVHF帯の受信機は実現しました。 このチューナーでHFを聞くにはアップコンバーターを追加したり、RTL-SDRチューナーをダイレクトコンバージョンチューナーに改造する必要があります。 ただし、コンバーターの追加や改造をやっても、このチューナーは受信オンリーで送信する事が出来ません。 そこで、RTL-SDRは卒業して、送信可能なトランシーバーのベースを一から作る事にしました。

直交復調を行う上で、位相が90度ずれたIキャリアとQキャリアを作るところから始めます。

7100khziqosc

左の波形は、7100KHzのIキャリア(上)とQキャリア(下)をデジタルオシロで見た状態です。 (後日、これは逆である事がわかりました。 上がQで、下がIでした。) 

これを作り出す為には14.2MHzの方形波を用意し、この方形波をフリップフロップで1/2分周する訳ですが、14MHzの方形波の立ち上がりで、次のフリップフロップをドライブしたのが上の波形で、方形波の立下りでフリップフロップをドライブしたのが下の波形になります。 ただし、一般に使用されるFF(フリッププロップ)の74HC74は入力の立ち上がりでしか、1/2分周動作はしませんので、14MHzの位相が180度異なる信号を使い、いずれも方形波の立ち上がりでFFを動作させます。 このように考えると、7MHzで90度位相差を有する、二つのキャリアを作る為には14MHzのキャリアがあれば良い事になりますが、この場合、14MHzの方形波は完全な50%デューティである事が要求されます。波形整形で50%デューティの方形波を作るのは至難の業です。 そこで、28MHzのキャリアをFFで1/2分周した14MHzキャリアを作ってやります。 FFで1/2分周した方形波は確実に50%のデューティを確保する事ができます。 そして、FFの出力はQと/Q(Qの反転出力)が即得られます。 これが、90度位相差のI,Q信号を作る為には、欲しいキャリアの4倍の周波数が必要な理由です。

インターネットで紹介されているSDRチューナー用のキャリアはSi570などのDDSをUSBを介してPCからコントロールする例が多いのですが、今回は、以前作成したAD9833によるDDSと逓倍ICで作成した28MHzの信号を使います。

Sdr_dc_tunner_2

上のJPGの配線図がみにくい場合はSDR_DC01.pdfをダウンロード

IC11の3番ピンに28.4MHzを加えたDDSの周波数が左下。、12番ピンの出力を周波数カウンターで見たのが右下です。

Dds28400khz

7100khzcounter

このチューナーはノーマルスイッチング周波数、数MHzのMC14066BというONセミコンのアナログスイッチで直交復調を行っているだけで、入力側の高周波増幅やBPFはなく、また、復調で得られたI及びQ信号も簡単なLCによるLPFを通った後、増幅もフィルターもなしでPCのサウンドカードへ出力されます。 通常、このアナログスイッチは74HC4066など、もう少し高周波的に余裕のあるICを使いますが、ちゃんと復調しているかは不明です。

Directconvertionpcb

Directconvertionpcbback

左上がその基板のチップ装着面。右上がその裏側です。 アンテナ入力からマッチングトランスまでの間に今後BPFとRFアンプを追加するスペースを確保し、直交復調器からPCのMIC端子へ出力するコネクター間には、ポストアンプや送信モード時の直交変調回路を置くスペースを確保してあります。

マッチングトランスは手元に有った#43材のフェライトコアに0.26φのUEWを1次:3ターン、2次21ターン巻いた物です。

このチューナーから出力されたI,Q信号をデジタル処理してSSBやCWが聞けるようにするのはHDSDRのソフトを使います。 HDSDRのソフトをダイレクトコンバージョンに設定する為に、ExtIO_Si570.dllのファイルをダミーで読み込ませています。 受信周波数は0Hzにしたまま、ソフトの入力をサウンドカードのアナログ入力、すなわちMIC端子に設定する事もできます。 受信周波数は、AD9833のキャリアで、LOを決定し、TUNE周波数はHDSDRのカーソルを動かして操作ができます。  入力および出力の帯域幅を色々調整した結果、LSBの受信が出来るようになりました。下の画像が7MHzのSSB信号を受信している時のスナップです。

7mhzssb

TS930にてS9+40dBの信号ですが、HDSDRではS9+25dBくらいをSメーターは指しています。 この時のLOの周波数(AD9833の1/4の周波数)は7100KHzでした。 さすがに+40dBのLSBの復調音はちゃんと聞けるもので、当然了解度も5ですが、TS930にてS9+10dBくらいのLSBの了解度は4くらいです。 無信号時のSはTS930ではS7くらい。 このHDSDRではS9ですから、トランシーバーとして、実用するには7MHzのBPFや復調後に20-30dBくらいのポストアンプを入れる必要がありそうです。 

8月9日

そこで、復調後のI,Q信号をオシロで見てみたところ、これがホワイトノイズのみで、さっぱり信号としては認識できません。 レベルが小さすぎます。 ここは、ポストアンプが必要です。 現在のPCのサンプリング周波数は48KHz程度で、ポストアンプの帯域は20KHz程度でも良いのですが、 将来、192KHzのサウンドカードを使う事を考えるとフラットの範囲が100KHzくらいは必要です。

Mcp6402_freq_responce

Opa1678_freqresponce

ポストアンプは片電源5Vで動作するオペアンプが必要になります。 左上がft(利得帯域幅積(GB積))1MHzのMCP6402の負帰還なしゲイン周波数特性です。 100KHzまでフラットにするにはゲイン20dBが限界です。 一方右上のグラフはftが20MHzのOPA1678の特性で、同じく100KHzまでフラットに出来るゲインは42dBくらいを確保できます。 従い、ポストアンプは秋月で扱っているOPA1678にし、ゲインは40dBとする事にしました。 

また、しばらく受信を続けていると、その内、復調不能になります。 7MHzのキャリアが変動するのか?とオシロでチェックしました。 すると、DDSの周波数を変更した途端、周波数が大幅にずれます。ひどい時は50MHzくらいになる事があります。 どうもDDSが安定して信号を発生しないようです。 これはSDRとは関係ない問題ですので、DDSを再検討必要です。 

Dds_sdr

原因はDDSの後段に接続されたPLLのアンロックでした。 対策の詳細はこちらにあります。 DDSのソフト変更をしたついでにSDR用のモードを追加しました。 左が、追加したDDSのSDRモードで、実際の発振周波数は28.4MHzですが、表示はその1/4の7.1MHzを表示しています。 HDSDRのLOの周波数を7.1MHzにセットすると、受信周波数をカーソルで直接読み取る事ができます。

さらにチェックすると、アナログSWの入出力でDCレベルが違います。 5Vの1/2のDCバイアスがかかっており、これを7MHzでスイッチングしていますので、少しは電圧降下があると、思われますが、IとQでそのDC電圧が異なります。 これは、14066のアナログSWがまともにスイッチングしていないのではと、改めてデータシートを見ると、正確なスイッチング周波数の値は判りませんが、製品バラツキのセンター付近でも5MHzくらいがベストで、最悪2MHzくらいが限界ではないかと思われるようなスイッチング波形が表示されています。 海外のKITでこのICとして使われているのは高速マルチプレクサと言われるバススイッチが大半で、少なくとも4066レベルを使っている回路はありませんでした。  対策として、このアナログSWを高速タイプに変更します。 選んだ高速アナログSWはSN74LVC2G66というデータシート上でのスイッチング周波数が195MHzのTiのICですが、RSの海外在庫との事で、納期が1週間くらいかかりそうです。 MOQ=10で1個40円弱ですが、送料が450円ですから、1個85円くらいになりました。 

このICが手に入るまでの間に、ポストアンプとRFアンプを追加して様子を見る事にします。

Rf_amp_coil

Rf_amp_postamp

左上がアンテナ入力段に追加した7MHzの同調コイルです。最初、複同調回路にしたのですが、マッチングが悪く20dBも減衰しますので単同調にしてあります。右上は追加したデュアルゲートFETによるRFアンプと40dBゲインのポストアンプです。 

RFアンプとポストアンプを追加した配線図SDR_DC03.pdfをダウンロード

この配線図はアナログSWを高速タイプに変えてありますが、まだICを入手していないので、14066のままです。 また、ミラー信号が表示されます。

8月13日

HDSDRをインストールしたノートPCのサウンドカードの詳細を調べていましたら、現在の録音モードのサンプリング周波数は44.1KHzに設定されていました。 そして、96KHzに設定変更する事が出来る事が判りました。 再生時のサンプリング周波数は最大で192KHzまで設定できますが、録音と同じく96KHzに設定しました。 その結果、バンドスコープの幅が±48KHzのほぼ90KHzまで拡大したのが、下のウォーターフォールのショットです。

7mhz_mirrar

LOの周波数を7.13MHzとして、7086KHzから7174KHzくらいまで表示し、実際に受信出来ています。 しかし、この画面では7130KHzを中心としたミラー信号も同時に表示されており、ミラー信号に同調させると、LSBでは復調できませんが、USBモードなら復調できます。 直交復調がまともに働いておればミラー信号は出てこないはずですが、IとQの信号のバランスが崩れているようです。 

8月15日

高速アナログSWは到着しましたが、変換基板を間違って手配してしまい、今度は変換基板到着待ちになりました。

その間に、海外KITの回路例を調べていました。 Softrockの回路では、直交復調以降のOPアンプの回路構成が、私の回路と違う事が判りました。 私のOPアンプ動作は非反転増幅で、OPアンプは高インピーダンスで受けていますが、このKITは反転増幅回路で低インピーダンスで受けています。また、OPアンプの前にLCのフィルターも無く、OPアンプの負帰還抵抗にパラに入れたコンデンサ1個でLPFを構成しています。  何が違うのか、このKITの回路のように変更して見ました。 すると、ミラー信号がほぼ消えて7MHzの90KHzの帯域で表示されるウォーターフォールは全てUSBになりました。 クロックのIとQが逆になっているようです。 これを入れ替えたら、全てLSBになりました。

7mhz_notmirrar_2

なぜ、OPアンプが反転増幅でなければならないのかは判りませんが、ミラー表示の問題は解決してしまいました。 修正した回路図は以下です。 まだ、高速アナログSWは実装されていません。

SDR_DC04.pdfをダウンロード

8月20日

やっと、0.5mmピッチの変換基板が届きました。 さっそく、拡大鏡を駆使してICの半田付けです。

Iqmix2g66

Iqmixdemo

左上が、VSSOP(8)と言われるパッケージをDIPに変換した基板です。 右上は、その裏側です。  高速アナログSWに交換した結果は、あまり変わらなかったというのが、率直な感想ですが、SWの出力側に接続されたC4とC5がミラー信号に大きく関係している事が判りました。 14066の場合、0.01uFの容量でしたが、ICを2G66に変更した後は、そのままでは、ミラー信号が弱く出てくるので、このC4、C5いずれも廃止しています。 これから、TX回路を組み込んだりすると、ICの周囲の状況や線処理が変化しますので、回路が完成した時点で再度、最適容量を探る事にします。

 

送信モードをこのチューナーの配線図に追加しようとしたら、送信受信の切り替え回路が必要であり、その回路で、直交検波回路に供給する7MHzのクロックを送信時OFFする必要がある事に気付きました。 このクロックOFF機能は、受信時には直交変調回路のクロックもOFFする必要があります。 このON/OFF回路が必要な為、海外KITはFST3253のようなSWingが可能なバススィッチを採用しているという事を遅まきながら判った次第です。 しかし、私の回路は、すでに2G66というスイッチ無しのICで配線されていますので、74HC74と2G66の間に別のスイッチングICを挿入する必要があります。 そこで、手持ちの74LS08(ANDゲート)を追加する事にしました。

Sdr_trx0_rx

上の回路がクロックをON/OFFする為にANDゲートを追加した回路の受信部だけの抜粋です。

74ls08out

そして、ANDゲート通した後の2G66に加えられるクロックの波形が左の波形です。 74LS08の応答特性の関係で上下非対称、かつリンギングがかなり少なくなった、丸みを帯びた波形です。

この状態で7MHzを受信した場合、従来からノイズレベルが10dBくらい下がった以外、ミラー信号が強くなる訳でもなく、正常に受信出来ています。 ただし、送信時も同じ波形で変調をする事になりますので、要注意です。 受信時でも、強入力があると、ミラー信号が現れますが、 ANDゲートを追加する前も有りました。

以下は、このAND回路を追加した後の7MHzスペクトルです。

7mhz0824_2

次はいよいよ送信回路の検討です。 この送信回路の検討の過程で、アナログ回路の精度の問題(使用抵抗の誤差)に遭遇し、2G66による直交ミキサーで実用になるのか不安になり、回路構成をSoftrockに変更する事になりました。

ダイレクトコンバージョン式SDR(送信機能セットアップ) へ続く。

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