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2013年6月 6日 (木)

トロイダルコイルとチューナーの内部ロス

<カテゴリ:アンテナチューナー>

カテゴリ KEM-TRX7-LITE のQRP CW トランシーバー 2で紹介の通り、QRP CWトランシーバーの中にL型アンテナチューナーを内蔵させ、移動先で架設した釣竿アンテナに簡単に整合できるため、重宝していました。 このQRPトランシーバーを、HOMEの7メガ垂直ダイポールで運用した時と、移動先の釣竿アンテナで運用した時の飛びの感覚に、大きな差があり、これはアンテナの差なのだろうと、諦めていました。 しかし、HOMEで使う時は、内臓のチューナーはスルー状態ですが、移動運用の時には内臓チューナーのコイルが目いっぱい使われるという差がある事に気付きました。

ロスの少ないアンテナチューナーを目指して、コイルのQを測る治具と、結果を自動計算するエクセルファイルを作ったついでに、このQRPトランシーバーに内臓しているコイルのQを測って見る事にしました。

Kemantc0_4 Kemantc1_3

左がQRPトランシバー内臓のコイル。右はメーカー製アンテナチューナーに内臓されていたコイル。

トランシーバーからコイルを取り出し、測定治具につなぐと、測定用に用意したTS-930の周波数カバー範囲を超えてしまい、-3dBになる周波数が測れません。治具がおかしいのではと、メーカー製チューナーに内臓されていたステアタイトボビンのコイルを測定してみると、ちゃんと200くらいのQが得られます。送信機の代わりに、アンテナアナライザーをつなぎ、周波数を広範囲に可変してみたところ、Qは約2くらいという結果が得られました。アナライザーの出力が小さいので、誤差が大きいですが、何度測りなおしても、Q=3以下しかない事は確かです。 コアの色が青色でしたので、てっきり10MHzくらいまで使えるカーボニルコアと思ったのですが、違ったようです。

短縮型の釣竿アンテナで、思っていた以上に電波が飛ばないのは、どうも、このトロイダルコアに巻いたコイルのQが原因みたいです。 TLWと言うアンテナチューナーシュミレーターはQの設定を自由に変えられますので、いままでの状態でのチューナー内ロスを計算させてみました。すると、Q=15以上でないと計算できない、とコメントがでて、計算できません。アンテナチューナーに使われるコイルのQが3以下なんてことは、想定外なんですね。

TLWの紹介資料 tlw.pdfをダウンロード

移動で良く使う釣竿アンテナのインピーダンスはMMANAのシュミレーションで11.36-J91.41Ωとなっていましたので、TLWでQ=15で計算してみると、内部損失が41.8%と表示されました。実際のQは3以下ですから、推定すると、90%以上がロスしている事になります。

QRPの5Wで送信したのに、実はQRPPの0.5Wでしたという笑い話です。そして、アンテナチューナーを内蔵させてから、0.5W出力で一度も交信できていないという事も判りました。

Kemantc3 ここまで判ると、もう、このトロイダルコアタイプのコイルなど使えません。空芯コイルに作り替えることにしました。何回か試作してQ=114のコイルが出来上がりましたので、これにタップを設けて、ビルトインさせました。このコイルの場合、釣竿アンテナの時のロスは8.6%となりますが、電池のヘタリなどを考えると誤差内になりました。

写真の空芯コイルは直径0.6mmのUEW線を直径25mmのPPシートで作ったボビンに26回巻いたもので、10個のタップを出してあります。最大インダクタンスは約15uHです。ボビンや巻線がばらけないように、セロテープで固めました。

また、移動用アンテナの形態がほぼ固定され、インピーダンスに必ずプラスのリアクタンスが含まれるようにしましたので、チューナーの回路も一部変更し、使いやすくしました。 バリコンを回した時のSWR計の動きが、かなりクリチカルになりましたので、Qが向上した事が実感できます。

Kemanttuner1

外付けチューナーならQ=200のコイルも使用できるでしょうが、それに変更してもロスの改善は5%以下ですから、持ち運びがすっきりするビルトインタイプに軍配は上がります。

この改良型チューナーをテストする為に近くの「仁賀ダム LA20」の駐車場に移動してCQを出してみました。南北に400mくらいの山があり、かなり狭いくぼ地ですが、結構沢山の局からコールをいただきました。トロイダルコイルの状態で同じ場所に2回も移動し、交信局数0であったときより大幅改善です。

一般的にアンテナチューナーに使われるコイルのQは100以上あり、そのうえで、ロスが多いの少ないのと論じているわけですから、Q=3以下など論外でした。トロイダルコアを使ったコイルを採用する時は、真っ先にコイルのQを確認する事から始めることをお勧めします。

Q測定治具の回路図と自動計算式の付いたエクセルファイルを用意しましたので、気になる方はダウンロードして試してください。 なお、7メガでQ=60くらい以下を測定しようとすると、ハムバンドを超える周波数可変が必要です。最近のハムバンド以外は送信禁止のトランシーバーでは、測定できません。 逆に言えば、最近のトランシーバーで、測定できないようなコイルは使ったらダメという事でしょう。

Q測定用エクセルファイルをダウンロード

RF電圧計やオシロが使える場合、送信機の出力は測定できる範囲で小さくした方が誤差が少なくなります。 倍電圧整流回路の場合、送信機の出力を大きくした方が誤差は少なくなります。 コイルや送信機、オシロなどの位置を変えるだけで測定値が変わります。この測定回路の場合、一番大きな数値が実際のQに近いと考えられます。


アンテナチューナーのコイル切り替え時、ショーティングタイプのコイルはQの低下が起こる事が判りましたので、このQRP用アンテナチューナーもオープンタイプに変更しました。変更は簡単で、コイルの一方のワイヤーをニッパでカットするだけです。 この変更の後、599 FBのレポートが多くなりました。

以下に変更後のチューナー回路図を示します。

Kemanttuner2 

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