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2013年4月26日 (金)

CAA-500による同軸ケーブルの切り出し

<カテゴリ:アンテナアナライザー>

アンテナアナライザーのもうひとつの機能として、1/2λの整数倍の同軸ケーブルを切り出す利用法があります。メーカーの違うアナライザーを2機種お持ちの方から、1本の同軸ケーブルを、430MHz付近で、0Ωを指す周波数をそれぞれ測定したら、機種によって周波数が違うという相談がありましたので、この記事の公開となりました。

同軸ケーブルは短縮率という係数があり、自由空間での波長(物理長)と同軸ケーブルのような伝送線路による波長(電気長)は異なります。一般に物理長より電気長は短くなり、この短くなる程度を短縮率と言い、良く使われる5D2Vなどは、約0.67くらいの数値を示します。

アンテナをスタックで使用したいとき、複数のアンテナに最適に給電する為に、1/2λの整数倍の長さの同軸ケーブルが必要となり、長さを正確にカットする為に、アンテナアナライザーが活用される訳です。

仮に435MHzで2λの長さの同軸ケーブルが欲しい場合、まず、計算で概略のケーブル長を求めます。

435MHzの1波長の物理長は約68.9655cmです。これに公表されている短縮率0.67をかけると、約46.21cmが1波長の電気長となり、欲しいケーブルの長さは2波長ですから、これの2倍の約92.41cmが目標とする長さです。しかし、0.67とい短縮率は公称値で実際のところは、判りません。また一番重要な部分ですが、同軸ケーブルのどこからどこまでを2波長の長さにするか?という問題は、実際に切ろうとしている、本人しかその定義は知らないという事です。

これを簡単に実現する為には、上記で求めた92.41cmより少し長めに同軸を切断しておき、一方の端をショートし、もう一方の端にコネクターを付けて、アンテナアナライザーに接続し、インピーダンスメーターが0Ωを指す周波数を探します。少し、長めに切断してありますから、435MHzより、低い周波数で0Ωをさすはずです。この時、実際の同軸ケーブルの長さを測ると、その同軸ケーブルの短縮率が計算できます。

この状態で、周波数を435MHzにしておき、インピーダンスが0Ωになるまで、同軸ケーブルをすこしづつ、切り刻んでいけば、簡単に2λの同軸ケーブルが手にはいる訳です。

ここで、良く陥る問題点があります。同軸ケーブルの長さの定義はカットする人が自ら決めるものですが、アンテナアナライザーにも都合があります。

Caa500brige

CAA-500を例に取ると、435MHz用のNアンテナコネクターの先端からインピーダンスを計測するためのセンサーとなるブリッジ回路までの距離は実測で26.6mmありました。この26.6mmを含めた状態でアンテナアナライザーは0Ωの周波数を表示することになります。

たかが26.6mmと思うでしょうが、435MHzにおいては、約5.8%、周波数で、約25MHz分に相当します。これは、無視できる長さではありません。

実際に同軸を切断する場合、このアナライザー内部にある同軸線路長を切断したい同軸ケーブルに足してやらなければなりません。いくら足すかは、自ら定義した同軸ケーブルの長さ基準によります。早く言えば、Nコネクターの先端を起点にして、2λが欲しいのか?それともNコネクターのセンターを起点とした2λが欲しいのか? あるいは、その他の位置にするのか? ということです。足す長さは、決して一律に26.6mmではないということですね。

また、実際のやり方としては、435MHzで切断した後に、補正値を足すという作業は非常に困難ですので、補正したい寸法分だけ周波数を下げてカットすることになります。仮に補正値が26.6mmなら、26.6mmが周波数でどれだけ影響するかを、求めた短縮率を使って逆算します。(この短縮率の計算時も26.6mmの存在を含める必要があります。) かりに短縮率が0.67ちょうどであった場合、414.715MHzで0Ωを求めたらよいという計算結果が出てきます。

アンテナアナライザーで簡単に同軸の切り出しができるような印象がありますが、UHF帯で切り出したい場合、計算式を熟知していないと、不可能であるという事ですね。

アナライザーの構造により、センサー位置はそれぞれ異なります。他のメーカーのアナライザーでも同じことですので、435MHz当たりで同軸の切り出しを行いたいときは一度分解して正確に寸法を測って置くことをお勧めします。また、この距離をキャンセルする回路がついたモデルもあるようですので、良く中身を確かめる必要がありそうです。なお、キャンセルは、ある1点の周波数だけが可能であり、435MHzちょうどでキャンセルできるように調整してあるようです。従い他の周波数では、正しい長さは得られないでしょう。ただし、このキャンセル回路がついたアナライザーの取説に、この事は一切書かれていませんでした。推測するに、寸法の起点となる位置は付属のダミー抵抗の抵抗の位置なのでしょうが、金属ケースに収納されたダミー抵抗の位置は不明のままです。

なお、145MHzでは、Mコネクター端子を使い、切り出しを行う事になりますが、同じように、コネクター先端からセンサーの位置までは26.6mmです。その場合、26.6mm補正された周波数は約142.27MHzとなりますが、補正するかしないかは、切断する人の主観次第でしょう。

今までの話しはアナライザー側だけでしたが、切断してショート状態にしてある、もう片方の処理はどうするのか? そのままアンテナに直付けするか? それともコネクター加工してからつなぐか? コネクター加工するならコネクターの長さはいくらか? 435MHzで、同軸ケーブルの切り出しをする場合、取説のように簡単には出来ませんね。 ただ、同軸ケーブルを正確に切断しても、それは使い道が有りません。 必要なのは、2か所に給電した時の位相差ですから、一方の同軸ケーブルの長さがゼロであると定義するからこのような結果になってしまうのです。 実際のケーブル切断は、このブリッジまでの距離など気にせずに、例えば、1本の同軸を1.5波長で切断し、もう1本の同軸を1波長で切断すれば、多分両方のコネクタ加工に必要な長さは同じでしょうから、2本の同軸ケーブルの位相差は1/2λをキープしている事になります。 この時重要なのは、2本の同軸ケーブルを作成する時、アンテナアナライザーを変更しない事です。

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2013年4月 3日 (水)

SWR計と高調波

<カテゴリ:SWR計>

SWR計は送信電力の一部を整流して直流に変換し、その直流で電流計を振らせ、電力の大小を表示させますが、この整流回路は「高調波発生器」でもあります。通常、このメーターに使われる電流は非常に小さい為、高調波の発生があっても、それは無視できるレベルのものであり、色々なSWR計の記事でもほとんど触れた事はありませんでした。

しかし、今回、SWR計の回路設計の中で、ふと、この高調波発生器が気になりだし、高調波レベルを調べてみました。すると、感度の悪いメーターを無理に振らせると、送信機の技術基準をオーバーする高調波を発生させる可能性がある事が判りました。

以下、SWRメーターのDC電流と発生する高調波の実験記です。

下の回路が実験回路です。 トロイダルトランスを使ったCM結合器で、メーターを接続すれば、すぐに進行波電力と反射電力を直読できるように調整してあります。
この状態で、反射電力側は無負荷状態にしておき、進行波電力側には電流計と、この電流を可変できる可変抵抗を付けました。



Swrhmc2_2


上記、回路の左側ANT端子には50Ωのダミー抵抗を接続し、右側のTX端子から、10Wの信号を加えます。 50Ωのダミー抵抗の両端から20dB以上のATTを経由してスペアナに接続し、第2高調波のレベルを測ります。 周波数は14MHzと50MHzとしました。

Swrharmonic2


DC電流がゼロ、すなわち、送信機自体が発生する第2高調波レベルは、14MHzで-72dB、50MHzで-62dBでした。この送信機でメーターに流れるDC電流を次第に増加させていくと次の表のような結果が得られました。

Swrhmdt2
R14は1N60にシリーズに入った抵抗です。通常のCM結合器では0Ωに設定されています。14MHzの時は、ベースの高調波も少ない事もあり、2mA取り出しても-60dB以下でしたが、50MHzでは250μA取り出したとき、ちょうど-60dBとなりました。

この状態でR14を500Ωまで大きくすると、14MHzでは、大きな効果は見られませんでしたが、50MHzでは-60dBになるDC電流は500μAまで向上しました。

このトロイダルコアを使ったCM結合器の場合、周波数が高いほど高調波の発生頻度が高くなるようです。 また、その高調波は整流回路のコンデンサに充電するときのピーク電流に関係しているようです。

50MHzに於いて、出力10W時のアンテナへ送り込まれる高調波レベルの限度を-60dBとすると、実験で使った送信機の場合、R14が0Ωのとき、流せる電流は250μAがMAXとなります。送信出力とDC電流の関係は比例関係にあり、出力の電流が2倍になれば、DC電流も2倍までOKとなります。出力を40Wまで上げると、DC電流も500μAまでOKとなると言うことです。 

逆に言えば、フルスケール100μAのメーターを使った場合、R14が0Ωでも、1.6Wのパワーでフルスケールになるように定数設定してもOK。R14が500Ωの場合、0.4Wのパワーで測定できるように定数を選んでもOKと言うことになります。

また、今回、トロイダルトランスは16Tで実験しましたが、これを8Tに変えても結果は同じでした。発生する高調波レベルは、トランスの分流比に関係なく、送信出力とDC電流の条件だけで成立するということです。

このCM結合器は2mで使用すると、パワー表示が20%くらいダウンするのですが、145MHzで、R14を0Ωとして、同じようにテストしてみました。
送信機自身の第2高調波レベルが-65dBあり、このレベルが1dB悪化するレベル(-64dB)になるときのDC電流は5mAでした。

高調波の発生は28MHzとか50MHz付近が一番大きいようです。

SWR計を自作する場合、使用する電流計の感度はなるべく高いものを使用する必要があるようです。特に、50MHz用の場合、200μA以上の感度の悪いメーターは避けることと、ダイオードに直列に数百Ωの抵抗をいれるべきでしょう。

また、QRP用のSWR計で、アナログメーターを直接振らせようとするときは、メーター感度には十分注意が必要です。ブリッジ回路を用いた、アンテナアナライザーと同じ原理でSWRを測定する回路なら、通常の送信時には、この整流回路が切り離されますので、最も安全な方法でしょう。

ブリッジ回路による実際の製作例はトロイダルコイルによるアンテナチューナーの内部ロスを参照下さい。

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