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2012年11月13日 (火)

マッチングトランス式アンテナチューナー

<カテゴリ:アンテナチューナー>

マッチングトランスを使ったアンテナチューナーの試作記です。

フェライトコアを使った広帯域バランは主に、不平衡/平衡の変換に使われますが、インピーダンス変換用トランスとしても利用する事ができます。

これを利用してこのブログでも21MHz用短縮デルタループを紹介しています。このときのトランスは、6本の平行ワイヤーを束にして6回巻いたコイルを直列に接続したもので、そのタップ位置を選ぶ事による目標に近いインピーダンスへ変換すると同時に平衡変換しておりました。(カテゴリ:マルチバンドアンテナシステムのアマチュア無線局 再開局参照)

Trans3_2

上の表はコイルが6組のときのインピーダンス変換テーブルで、50Ω不平衡を1.4Ωから1250Ωまでの平衡に変換できることを示しています。

Hentena_2 この考えを一歩進めて、すでに共振しているアンテナエレメントに1/2波長の整数倍の長さの同調フィーダーを取り付け、この根本に、このトランスを取り付けても同じ効果が得られます。キュビカルクワッドの共振周波数を調整するのにスタブを使いますが、このスタブがλ/2になったと思えばいいんです。こうすると、マッチングトランスをマストの上に置かなくても、少なくとも手の届く位置まで降ろしてくることができます。スタブの長さは1/2波長ごとに変化しますので、任意長では駄目ですが、50MHzなら3mの整数倍ですから、処理が楽です。

Img_2980 このアイデアで6mのヘンテナを作り、ベランダの手すり付近につけたマッチングトランスで広帯域の整合を実現しております。実際のスタブの長さはマッチングトランスの誘導性リアクタンスが加味されますので、その分短くしアンテナ側に容量性リアクタンスを含むようにする事により共振させます。 トランスのタップを調整して、SWRを1.0に追い込みますが、タップを切り替えるとリアクタンス成分が変化しますので、共振周波数がずれます。共振周波数がずれたら、同調フィーダーの長さを再度調整します。 このようにかなり面倒な調整が必要ですが、何よりも、全ての作業がベランダで完結するという高所恐怖症持ちにとっては非常に有り難いメリットがあります。

2014年7月追記

整合トランスのロスを測定したら、約半分がトランスでロスしている事がわかりました。現在はコイルとバリコンによるL型アンテナチューナーに変更しています。 詳細は、50MHz用 L型アンテナチューナー を参照下さい。

今までのトランスは多重巻きのコイルの数で分母と分子を構成する分数計算でしたが、スライダックトランスのように、ひとつのコイルに、いくつものタップを出して、このタップ位置でインピーダンス比を変えるオートトランス形式の高周波トランスの可能性を検討しました。

Trans2

オートトランス式12ターン巻きのインピーダンス変換テーブルです。黄色の部分は巻き数が少ない為、ロスが多いと予想し、使わないとしても3.1Ωから800Ωまで変換できます。ただし、このスタイルでは不平衡のままです。平衡変換しようと思えば、対称型のオートトランスにするか、このトランスの後にバランを付けるかで対処できます。

(対称型トランスで作った場合、このチューナー内で発生するロスも2倍になりました。結論的には、不平衡のままでインピーダンス変換した後、フロートバランで平衡に変換する方法がロス最少となりました。)

適当なダミー抵抗とアンテナアナライザーでチェックすると、ほぼ理屈通りのタップでインピーダンス整合ができました。周波数が10MHzを越えると、トランスのインダクタンスが無視できなくなりますが、それは、アンテナチューナー化したとき、アンテナの持つリアクタンスと一緒にキャンセルさせれば問題ありません。

Img_3220 オートトランスによるインピーダンス変換のメドが出ましたので、共振していないアンテナエレメントにキャパシタンスかインダクタンスを付加し、目的周波数に共振させた後、この純抵抗になったアンテナインピーダンスにマッチするようにトランスのタップを切り替えて整合させるタイプのアンテナチューナーを作ってしまいました。

Autotrans2

使用したオートトランスは5ターンのコイルを4組、平行巻きしたもので、それをシリーズに接続し、1ターンごとにタップを出したものです。従い、1ターン目のタップのすぐ隣にあるタップは6ターン目のタップとなっています。全部で19個のタップが有りますが、使っているのは9ターン目から19ターン目までの11個だけです。

コイルは最大32uH、最小0.5uH、12個のタップがあり、これをショーティングタイプのスライドスイッチで可変します。 当初、オープンタイプのスイッチで作成していましたが、ダミーアンテナを用意して、300Wくらいを加えると、コイルのタップとスライダーの間でスパークが起こりましたので、ショーティングに変更しました。100Wくらいなら、オープンスイッチでも実際のアンテナで実用できました。

バリコンは最大1200PF、最小20PFのスライド式ポリバリコンで、計算上の耐圧はAC10KVです。

操作は簡単です。トランスは50Ωに仮設定したまま、バリコンかコイルを調整して、アンテナを共振させます。共振したかどうかはSWR値をディップさせる事で知ることができます。共振したら、トランスのタップを順次切り替えて、SWR最小のポジションを選択します。タップを切り替えると、トランスのインダクタンス分が変動するので、共振周波数がずれますから、バリコンで微調整します。トランスのインピーダンス可変ステップは階段的ですが、SWRはすんなりと1.0付近まで、いとも簡単にスコンと気持ち良く落す事ができます。このチューナーの特徴は、LCタイプのチューナーより、帯域が広いということ。LCで整合回路を構成すると、アンテナの共振以外にインピーダンス整合回路も周波数特性を持ちます。従い、アンテナ自身がもつ帯域より通常狭くなりますが、このタイプは帯域の縮小がほとんどありません。ベランダから突き出した釣竿や、現用アンテナに接続して、100W運用で全く問題なく使えました。

チューナー内部で発生するロスは、7MHz用垂直ダイポールを3.5MHzに同調させた時、πマッチのMTUと同等か、それよりいくらか良いレベルでした。 クラニシのNT-636(Tマッチ)よりはロスが少ないようです。ロスの原因は誘導性リアクタンスの連続可変にバリコンを使っている事です。連続可変のインダクターが実現できれば、Lタイプに近い効率が期待できるかも知れません。 しかし、何回か使っている内に、整合状態でのトランスのタップ位置が、予想されるインピーダンスと大きくかけ離れる場合がありました。 特に、周波数が高くなったり、アンテナが50Ωより低いインピーダンスになった場合です。 このような状態では、計算通りのインピーダンス変換をしていないようです。 このチューナーはATUを作る為の基礎検討の為試作したものでしたが、トランスの特性がネックとなり検討はストップしてしまいました。

マッチングトランスだけのその後の検討結果はインピーダンス変換トランスを参照下さい。

また、連続可変可能なATUの試作と実使用検討は、後日、T型整合回路を使用して実験する事にしました。 こちらを参照下さい。

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