高周波直列電力合成(7.2MHz)
<カテゴリ AM送信機(デジタル方式) >
前回の記事のように、10WのE級アンプが出来たので、このアンプを2台用意し、電力合成の実験を行います。 インターネットで電力合成を検索すると、並列電力合成の記事は沢山みつかるのですが、直列合成に関しては、言葉そのものは見つかりますが、その内容を解説した記事を見つける事は出来ませんでした。
特性のそろったE級アンプを2台作成し、その二つの出力を直列に接続して、実験開始です。
パワーアンプ部は、74HC04のFETドライバーと3次LPFを実装させます。 これをカッターとリュウターで削り出した基板に実装し、下記のような2枚の基板が出来上がりました。
上の波形は、2台のAMPを独立した負荷に接続し、両アンプを同相でドライブした時の、負荷抵抗のレベルと位相を見たものです。 下のアンプが少しだけ、位相が進んでいますが、おおまかな動作を見るには支障は無いものと考えます。
ふたつのアンプのそれぞれの性能は以下のようになりました。 ゲートドライバーの74HC04を3回路パラにしたので、効率もかなり改善しました。
左が、Vddを5Vにして、電力合成の結果を見たものです。 上の2行は各AMP単体の5Vでのデータとなります。 合成はLPFの出力を2台シリーズに接続し、10:7のトランスで合計100Ωのインピーダンスを50Ωに変換した後、ダミー抵抗に繋いでいます。
その結果をみていると、少し違和感があります。
まず、個々に測定した出力は、合計して、3.78Wですが、2台を同時駆動して得られた出力は4.84Wと、計算から28%も高くなっています。 しかし、いいかげんなインピーダンス変換トランスでしたので、その誤差かもしれないと、納得して、次のデータを見ます。 この次のデータは、二つの基板に電源を通電したまま、一方のアンプのゲートドライブをONさせたものです。 その時の出力は1Wと0.9W。平均して0.95Wという事は、単独の時の半分のパワーしか有りません。 どうも、片方のアンプだけの場合、負荷抵抗と、動作していないパワーアンプのアンプ側へ出力が分散されるようです。 直列合成の場合、動作停止中のアンプは、負荷抵抗と同じ働きをし、結果的に、ダミー抵抗側へ伝送される電力は1/4になるのかも知れません。
その下のデータはゲートドライブはONしたまま、終段の電源をON/OFFしたものです。 電源の入力端子をオープンにした時と、ショートした時のデータを示します。 この場合も同じように動作していないアンプは負荷抵抗になってしまうのでしょう。 電力合成を直列方式で行う場合は、合成の各電力が一定の場合、その整合もやりようがありますが、複数のアンプがON/OFFを無秩序に繰り返す場合、何か特別な手当てをしているのかも知れません。
二つのアンプ間の位相差が悪さをしているのでは?と、各アンプのLPF出力端より位相差が少ない、LPF前の出力トランスの2次側をいきなり直列に接続し、得たデータが左の表です。 この表で大きく前回と異なるのは、出力が単体の時の半分になってしまい、2台合成時の出力と、単体の時の出力と変わらない事。 それに、ゲートドライバーでON/OFFした時も電源をON/OFFした時でも、出力差は大差なく、2台合成出力の約28%から25%くらいしかない事です。 結局、出力OFF時の出力インピーダンスを解決しない限り、直列合成はあり得ないと思われます。
電力合成時、複数のアンプが任意にON/OFFを繰り返すような場合、出力インピーダンスの変化は避けられず、この出力インピーダンスの影響が、アンプの動作条件に即影響する、E級アンプそのものが不適当ではないかと考え、なにか情報がないか探すと、放送機に於けるD級とE級アンプの比較レポートが見つかりました。 このレポートでは負荷変動についての評価は有りませんが、D級アンプが有利との結論になっています。 レポートの中で、D級アンプは電源電圧に対する出力のリニアリティがE級より劣るとありますが、デジタル方式のAM変調なら、その欠点は全く問題になりません。 また、NHKがレポートしているデジタル方式のAM送信機も、個々のアンプはD級とありました。 ただし、これらの検討している周波数帯は1.6MHz以下の世界であり、目標とする7MHz帯では、やはりE級アンプに軍配が上がりそうです。
そして、直列電力合成に関する文献を見つける事が出来ました。 この記事は2006年に発表されたもので、5MHz時の最大効率が90%程度を示すD級アンプの計算値がグラフデータの中にあります。 現在は7MHzで、90%台を出せるE級アンプを素人でも作る事ができますので、E級アンプの方が効率はよさそうです。 直列電力合成のヒントも判りましたので、E級アンプによる直列電力合成に再トライする事にします。
以下のように二つのAMPを接続し、T21とT22の巻き数比とRLの抵抗値を変えながらデータを取る事にします。 T21,T22の1次側巻き数は13ターン。 使用したフェライトコアは、秋月で入手したTR-20-10-5EDです。
まず、ふたつのアンプに13:4の巻き数比(Zout=50x(4/13)2乗=4.7Ω)のトランスを接続し、単独に動作させた時のデータです。
次に、このふたつのAMPの出力を直列に接続し、両AMPを動作させ、9.4ΩのRLに接続しますが、そのとき、TC21とL21で直列共振させます。 さらに、片方ずつドライブし取得したデータです。 同様にしてT21,22の2次側の巻き数を3→2と変化させ、RLもそれに応じて変更した時のデータとなります。 各表の一番右側にある電圧比は、両AMP同時駆動時の出力電圧(電力ではありません)を100%とした時、片方だけドライブした時の出力電圧の比です。
これは、50%が理想で、試作回路にバラツキがありますが、おおむね、50%となっています。 T21,22の巻き数比を、AMPの総台数の平方根対1に設定すると、2次側の総インピーダンスが50Ωになり、都合がよさそうです。 AMPは、同一出力のMSB側と、バイナリー出力のLSB側に分かれますが、LSB側は全部合わせても1/3程度のインピーダンスですので、合成する時のインピーダンスの総数はMSB側の全台数+0.33程度になると考えられます。 これは、実際にアンプの割り振りが決まった時点で、詳細を決める必要が有りそうです。
当初、AMPを2台作成し、データを取り、良好なら、プリント基板を起こし、量産する予定でしたが、現状では、今検討中の回路で完成するか確信が持てませんので、さらに2台の基板を追加する事にします。
4台のE級アンプが完成しました。 上が共通の回路図となります。 個々のアンプで、出力のバラツキがありますが、出力段のLPFのインダクターを伸ばしたり、縮めたりして、出力を調整する事が出来ます。 この4台を使い、電力合成の実験を継続する事にします。
左が電力合成回路のブロック図です。
合成トランスT1からT4の巻き数比はMSB側のシュミレーションとLSB側のシュミレーションでは異なります。
MSB側のシュミレーション時は4台のAMPとも合成トランスの巻き数比は8:4で、4台の直列インピーダンスは合計して50Ωになるように設定します。
LSB側のシュミレーションでは、バイナリー出力となるように、8:4、8:2、8:1、16:1とそれぞれ電圧が半分になるように設定します。 この場合、合計のインピーダンスは50Ωになりませんが、シュミレーションですから、問題有りません。
最初の表は、4台のアンプの出力が一定になるように、LPFのコイルを調整し、各々、単独負荷で、測定したデータです。 NO.1と2のアンプは、作成した初期の状態では85%の効率でしたが、今回改めて測定すると、かなり悪くなっています。 原因はまだつかめていません。 しかし、出力レベルは4台とも1.56Wに揃えました。
次の真ん中の表は、MSB側のシュミレーションで、すべて、同じ出力状態で、4台同時ドライブ、3台同時、2台同時、そして1台だけドライブしたときのデータです。計算値と書いた数値が4台同時ドライブの電圧レベルを100%とした時の、計算上の電圧比で、電圧比と書かれた列の数値が実際に得られた電圧比になります。 この結果は、かなり低い値になって、リニアリティが確保できない事を表していますが、トランスの巻き数比は変えられませんが、巻き数は変える事ができますので、実際に製作する時はカットアンドトライする事にします。
一番下の表は、LSB側をシュミレーションしたもので、電圧比は計算値にかなり近い値を示します。 これは、最終的に、個々のアンプの出力レベルを微調する事で改善できます。
この合成トランスの2次側に直列共振回路を入れて、合成トランスが持つ浮遊容量や浮遊インダクタンスをキャンセルさせていますが、この共振回路のQと出力レベルは無関係で有る事を確認できましたので、最終的に送信機にまとめる時、バリコンの耐圧が許容可能な限り大きなQに設定し、スプリアスの抑制にも使う事にします。
下が、この実験中の風景です。
ここまで出来ましたので、次は、基板を8枚にして、AM送信機の予備検討をしようとして、新たに、4枚の基板の手作りを始めました。 そして、先行の1台が出来ましたので、動作テストをすると、パワーは出るのですが、効率が50%台しか出ません。 前回作成のNo.3と4の基板では80%台を出していましたので、 その原因が判りません。 Vddを5Vと12Vと交互に変化させながら、原因を検討していたところ、ゲートドライブなしの状態でIdが1mAとか2mAなど流れるようになってしまいました。 これは、明らかにFETの劣化です。 5台の試作基板で、効率が大幅に異なることと、FETの劣化というトラブルにより、この10Wアンプは安定性と信頼性が疑問になって来ました。
そして、FETを外して単品の導通テストを行うと、約半数のFETがドレン-ソース間のON時の抵抗が増大しており、これが効率を悪くしている原因のようです。 かくして、BS170によるE級アンプは失敗に終わりました。
AMの場合、無変調時でも、10Wアンプはフルパワーを連続して出す必要がありますので、10Wクラスの連続動作可能な高効率アンプを再検討する必要がありそうです。
高効率E級アンプ再トライ へ続く。