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2018年2月 5日 (月)

DDS VFOの実験(AD9833) 3

<カテゴリー:DDS

中国製基板によるAD9833ユニットの動作は問題ないのですが、その発振信号の純度というものは、とても短波帯の送信機に使えるものでは有りませんでした。 この信号純度というのは、なにも高級なスペアナでそのレベルを判定するような計測数値でなく、SSB受信機で、この信号のビート音を聴感で聞いたとき、だれでも、きれいか汚いか即座に判別できるものです。

最近、この中国製AD9833のユニットが、送料込で650円まで値下がりしていますので、基板を改善して通信用送信機で実用になるDDSに仕上げる事ができないか実験する事にしました。  以下、信号純度確保の始末記です。

中国製の基板からICを取り外し、秋月のMSOP変換基板に載せ替えて見ました。

Ad9833_2

Ad9833_7100khz_new

左上がオリジナルの中国製基板による7100KHzの信号。 右上はICは同じもので、秋月の変換基板に移し替えた時の7100KHz信号です。 ピークレベルに違いはありますが、明らかに右側のスペクトルのスプリアスは小さくなっています。 この右側の音をTS930で聞いてみますと、S9以下の場合、ビート音に違和感はありません。 しかし、ビート周波数を200Hz以下にすると、ハム音の濁りは残り、+40dBくらいまでS/Nが向上しますとビート音の濁りが若干気になります。

そして、7200KHz以上で聞こえるAM放送局のキャリアによるビート音にはかないません。

Gndrayout_3

左の文章は、AD9833のデータシートに書かれた「グラウンドとレイアウト」という文章の一部です。 信号純度を保つ為のノウハウが記述されており、これを可能な限り忠実に再現すれば、アナデバが意図した性能が得られるはずです。 

この記述をベースにオリジナルの中国製基板を見てみます。

Ad9833_2

左下の写真はオリジナルの基板からAD9833を取り外した状態です。写真の写りがあまり良くないので、銅箔パターンを青色でなぞってあります。この基板の最大の問題点は、DGNDとAGNDをスルーホールで接続して、なおかつ、3番ピンのCAP端子からのパスコンのGNDをAGND側に落としてあるという事でしょう。 ここは、黄色のラインで示すように、4番ピンへ最短で接続すべきです。 また、 ピン番号6,7,8のデジタル信号ラインはICの底面を通過してはいませんが、ICの底面はAGNDで覆えという要求は全く無視されています。 もちろん、AGNDはこのユニットの先にアンプやフィルター回路が入る為、それらの回路を含めてDGNDと結合しなければなりませんので、少なくともこのDDSユニット内では接続していはいけません。 先のアナデバの最後の文章の意味は、IC装着面はGND面だけにして、ハンダ面すなわちIC装着面の裏側に信号ラインを配置しなさいと言う意味になります。

Msop10_pcb_2

左は秋月で販売しているMSOP 10Pの変換基板です。 ICの底面に信号ラインの配置が無く、底面は裏側のGND面にスルーホールでつながれています。 当然各ピンは独立していますので、AGNDをこのGND面に接続してやればアナデバが要求する条件はほぼクリアーできそうです。

問題があるとすれば、0.5mmピッチの端子を2.54mmピッチの端子へ拡大する為のストリップラインが長い事です。 実はこれが、時々信号が出なくなる原因のひとつになっていました。

アナデバの推奨回路に10μFと0.1μFのコンデンサをパラ付した例が書かれていますが、この10μFはタンタルコンデンサを想定しています。タンタルコンデンサはかなり高い周波数までインピーダンスを低くく抑える事ができますが、やはり限界があり、その限界は0.1μFのセラミックコンデンサでカバーさせている訳です。

近年、セラミックコンデンサの技術レベルは非常に向上し、100μFのセラミックコンデンサが実現できるようになりました。 MLCCと言われる積層セラミックコンデンサで、0.1とか0.47とか無意識に使っています。 当然、同じ容量値ならタンタルコンデンサよりMLCCの方が性能がよく、10uFの要求容量にMLCCを充当すれば、0.1uFのコンデンサは不要になります。 しかし、いい事づくめでは有りません。 MLCCはDCがバイアスされると容量が大きく減少する性質があり、5V DCにて公称容量が約半分になってしまいます。 それでも、高周波域のインピーダンスは同じ公称容量のタンタルコンデンサよりは優秀です。

Ad9833mod2akiduki

左の基板は秋月の変換基板(左側)にAD9833と3個のバイパスコンデンサ、アナログ出力ピンにハイカットの15PFを付けたものです。右側の基板は中国製AD9833基板の25MHz発振ユニット部分のみを切り取り発振回路を動作させその出力をAD9833に供給している状態です。

この状態で7100KHzを出力した場合のスペクトルが最初に掲載したスペアナ画像です。

ここまでの記述では、いかにもうまく行っているように見えますが、 実は、周波数を可変すると時々信号が出なくなったり、設定以外の周波数になったりしていました。 最初、この制御に使ったPIC16F886のソフトが悪いのではないか? ICを載せ替えた時、ICを壊してしまったのではないか?と色々検討しましたが、原因が判りません。 約2週間検討の結果、25MHzのOSC基板のGNDとAD9833のDGNDが遠すぎるという事と、 OSC出力にノイズ(ジッタ)が誘導し、ICの内部クロックが安定しないというのが原因でした。 この状態での信号純度は決して満足できるものではありませんが、 受信する方が我慢すれば送信でも使えるレベルになりました。

Ad9833mod3

中国製のオリジナル基板のままで、改善は出来ないものか、オリジナルの基板に戻し、3番ピンからAGNDに落ちる10uFのGNDを銅箔テープでDGNDへ移してみたのが左の基板です。

オリジナル基板より若干信号純度は改善しましたが、とても送信機に使える状態ではありませんでした。

このAD9833は外付け部品が少なく、DDSを簡単に構成できますが、送信機に使う場合、必ず、その信号にビートをかけて、低周波にした時の濁りを確かめてから使う事にします。

信号純度は基板のGND処理でも大きく変動しますが、一番の要素は基準発振器25MHzの純度になります。 それに気付いて、25MHzの基本波をTS-930で聞いてみました。 結果は、このDDSが発生する7MHzの信号の濁りと同じでした。 そこで、この25MHzの基準発振器を色々変えて見る事にしました。

Original

74hc74

Trbe

上の3枚のスペクトルは左から、中国製基板に付けられていた25MHz発振器、真ん中は秋月から購入した50MHz TCXOを74LS74で1/2分周した25MHz、一番右は25MHzのクリスタルと2SC1712YでピアースBE回路で作った発振器からの25MHzです。 スプリアスの程度は右が一番良くて左に行くほど順に悪くなっていますが、一番右は温度補償と継時変化の保障が一切されていないという重欠点がありますので、スプリアスが良いからトランジスタによる発振回路を採用するという選択肢はありません。

ところで、このDDSユニットに付属している25MHzの発振器はTCXOではなく、SPXOではないかと思われます。 TCXOあるいはSPXO発振器の信号純度はバイポーラ回路よりCMOSが悪いと言われていますが、結局それは電源のノイズにより変化すると言う事が遅まきながら理解できましたので、中国製の基板に付いていた発振器(これはCMOSです)の電源をマイコンやDDSから独立させてみる事にしました。

7mhz

左は、そのように回路を改造した時の7MHzのスペクトルです。

従来のスペクトルよりかなり良くなっており、実際にSSBモードでビート音を聞いた感じでは、放送局のキャリアには負けますが、汚いと言われないレベルまで改善しました。 これなら、CW送信機やSSB送信機でも、もちろんAM送信機でも使用可能と思われます。

これまでの配線図DDS_VFO180223.pdfをダウンロード

Spiio

時々、信号が出なくなる原因が、8bit SPI信号を2回送って16bitデータを構成する方法かも知れないと、PIC内臓のSPI機能は使用せず、i/oを直接たたいて、SPI信号を作っていますが、時々信号が出ない現象は改善されませんでした。

原因は前述のごとく、OSC回路のGND引き回しでしたので、SPIの問題ではありませんでしたが、せっかくこのソフトを作りましたので、この部分はこのままで残す事にします。

ここまでの状態のPICマイコンのソフトは以下の通りです。

DDS_VFO_unit.cをダウンロード

このソフトの中には、24接点のエンコーダーから96パルスの変化を得る定番のソフトと、24パルスで10KHzスパンで変化するソフトが入っています。 ただし、10KHzスパンの動作は時々誤動作します。 原因はチャタリングと摺動ノイズみたいです。 この部分は、最終的に、この回路をVFOに仕上げるときまでに改善する事とし、現状のままです。

DDS VFOの製作 (AD9833) へ続く。

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