Z-Match(Zマッチ)アンテナチューナー
リレーを使わないオートアンテナチューナーを模索しておりましたら、バンド切り替えなしで1.8MHzから28MHzまでカバーできるアンテナチューナーの存在を知りました。 バンドSWが無いのなら、少なくともメカニカルSWが不要ということで、バリコンをモーターで回転させるだけで、HFを全てカバーするオートアンテナチューナーが実現できます。 「Z-Match」と呼ばれるこのチューナーについての実験記です。
「Z-Match」をGoogleで検索すると、いっぱい出てきました。
・1組のコイルで1.8MHzから28MHzまで、バンドSW無しでカバー。
・バリコンに2連タイプが必要になるけど、耐圧は半分で良い。
・構造が簡単で再現性が良い。
など、世界中のハムが実際に製作して使っているレポートが存在します。さすがに、1.8MHzはローディングコイルを追加する構造がほとんどでしたが、ここはリレーを1個追加してやれば済むことで、AH-4みたいなリレー式ATUでは実現出来ない、無段階調整が可能なATUの可能性を秘めています。 そんなに良いチューナーなら、すぐにでも作ってみようと実験を始めました。
左がZマッチチューナーの基本回路です。1次コイルと2次コイルで構成される極普通の高周波コイルの1次側に500PFくらいの2連バリコンと300PFくらいのシングルバリコンを接続し、シングルバリコンから送信信号を送り2次コイルにアンテナをつなげばOKというしろものです。1次コイルの巻き数も、10数ターンと、逆に簡単すぎて驚く構造です。
本当に、ちゃんと整合するのか?作ってみることにしました。いい加減に作ったのにちゃんと1.8から28メガまで整合します。2連バリコンが曲者かもと、これをシングルバリコンに交換してみてもちゃんと動作します。2次コイルと1次コイルの結合構造が難しそうなので、2次コイルでなく、1次コイルにタップを立ててそこからアンテナに接続しても問題なし。
実験中のZマッチアンテナチューナー
一応、動作確認は終えたので、かなりきつい負荷条件で、チューナー内にどれだけロスが発生するか調べてみました。送信機から1Wくらいの出力を加え、抵抗とリアクタンスを直列に接続したダミーアンテナをチューナーに接続しSWRが1.0になる様に調整します。次にチューナーの入力(50Ω)端でのRF電圧をオシロで測ります。また、ダミーアンテナの抵抗部分の両端電圧を測り、それぞれ電力計算したのち入力電力とダミー抵抗電力の差がチューナー内部でロスした電力とします。その結果を次の表(ロス比較 1)に示します。Zマッチのデータは実測値です。その他はシュミレーターによる計算値です。シュミレーターの計算と実際の数値はほぼ一致している事は別の検討で確認済みです。 Zマッチはチューナー内のロスが非常に大きい事が判りました。7MHzでもインピダンスが4.7Ωのアンテナの場合、45%がチューナーの中で消費されています。1.8MHzで4.7-j800の負荷の場合、実際の測定では、4.7Ω両端のRF電圧を見る事ができませんでした。さらにこの状態で、ダミーアンテナを取り去っても、SWRは1.0を示したままでした。これは、50Ωで捕らえた送信電力をきれいにチューナーの中で消費し、空中へは一切放射しません。反射電力も一切返しませんというダミー抵抗と同じです。 別の見かたをすれば、どのような負荷に対しても、見かけ上、整合できたように調整できると言うことですから、SWR計が1.0を指しているのに、電波は一切放射されないという事が起こりかねません。
色々と実験の結果、7MHz以上のバンドで使う場合、Tマッチ同様、使いやすさを天秤にかけたらコンパクトで簡単に使えるチューナーと思いますが、今回は160mや80mバンドがターゲットでしたので、採用は諦めました。
以下のZ-Matchのデータは、1次側14ターン、2次側4ターンのコイルで1次、2次間は絶縁状態で測定したもので、1.8MHzの場合、ローディングコイルを挿入しましたがインダクタンスがいくらだったのかデータが有りません。
上の表の「ロス比較 2」は私が良く使う、クラニシのNT-636を実測した時のロス値です。クラニシ以外の数値はシュミレーションした値です。NT-636はTマッチ式ですから、シュミレーションで設定したコイルのQ=100より、NT-636のコイルのQは良いみたいです。 3.5MHzで2.5-j529というアンテナは接地抵抗が良好な 全長7mの垂直ホイップに相当します。カバーするインピーダンスの広いアンテナチューナーは総じてロスが多いのですね。πマッチは整合しませんでしたが、パイマッチの一方のバリコンを取り去るとLマッチになりますので、パイマッチ回路が持つ、浮遊容量を減らす必要がありそうです。
しかしながら、このようにデータを取り始めると、アンテナチューナーは使わずに済むものならそれに越した事は無いという事が良くわかります。また、例え、使うにしても、Lマッチで使う連続可変インダクタが欲しくなります。
2024年8月追記
その後、160mのアンテナをいくつか実験しましたが、この比較表で確認したアンテナのインピーダンスの抵抗分は全てMMANAでの計算値であり、実際のアンテナではありえない数値である事が判りました。 1.8MHzで実際に実測したアンテナインピーダンスの抵抗値の最小値は12.5Ωでした。 原因はローディングコイルによる高周波抵抗の増加と、接地抵抗はゼロにはならない事のようです。 この抵抗値は他のOMもWEB上で15Ω以下になる事はないと述べていますので、実際のアンテナでは比較表のような結果にはならない事を追記して置きます。
Z-Matchのアンテナチューナーのもう一つの課題が高耐圧の2連バリコンの入手ですが、最近、3Dプリンターの市場が広がり、これに使われる、ステッピングモーターやタイミングベルト、タイミングプーリーが簡単に入手出来るようになりました。 これらを利用して、2個のバリコンをタイミングベルトをかけて同期して動かす事ができそうです。 このヒントをベースにコメットのMTUに使われていた高耐圧のバリコンを4個入手し、連続可変のインダクターが不要のこのZ-MatchアンテナチューナーのATU化に再度挑戦すべくトライ中です。