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2014年9月17日 (水)

半田鏝(ハンダゴテ)のアース

同じ回路を同じプリント基板上に組み立て、色々と問題点の検討をしているとき、ある特定の人がショッチュウ半導体を壊していました。電源を入れたまま部品交換するな!と言ってあったのですが、それでもFETが壊れた、ICが壊れたとトラブルは発生し続けていました。

Solderiron

原因は、ハンダゴテの先端の半田を溶かす部分を接地した為でした。  感電の危険を防止する為に、日本でも接地端子のある3ピンのコンセントを用意した環境が存在します。そして、ハンダゴテのコテ先もこの接地端子に接続できるようにした、安全性100%とうたわれたハンダゴテも存在します。

しかしながら、3ピンの独立したアース端子が付いたコンセントやテーブルタップを用意しているのは、工場や、プロフェッショナルな作業を行う場所で、一般の家庭や、事務所などでは、2ピンのコンセントがほとんどです。 このような環境では、この手の接地したハンダゴテや機器はかえって感電を招く事になります。 感電には至らないけど、数十ボルトのAC電圧が加わり、トランジスターやICを壊してしまいます。 なぜそうなるのか以下説明します。

世の中にある機器や試作検討中の電子回路を含めて、そのGND側がすべて大地に接地されているのなら、全く問題ありませんが、日本の電気器具は接地を強制しません。 代わりに、商用電源の2本の電線のうち、片方のみが大地に接地されています。 この接地された端子はコンセントの受け口の横幅が少し広くなっていますが、機器についているプラグは極性が有りません。 よって、機器の内部では、ホット側、GND側と言った識別はありません。一般的に、絶縁トランスで絶縁された機器はこのホット、GNDの区別は不要で、2次側と1次側の間は数十メグオームの絶縁抵抗で隔てられており、感電の危険は有りません。

ところが、雷対策や、ノイズ対策で、この1次側と機器のシャーシの間にコンデンサを接続したり、数メグΩの抵抗を入れたりしています。コンデンサは高周波用ですので、50Hzや60Hzの商用電源では無視できるほどのおおきなインピーダンスであり、また抵抗も感電を感じるような電流は流せませんので、無害です。

しかし、高いインピーダンスであるにせよ、そこには大きな電位差が発生します。仮に、ホット側とGND側からシャーシに0.01μFのコンデンサがつながっている場合、シャーシは大地に対して50VのAC電圧を持っている事になります。

実際にどのくらいの電位差があるかは、2台の品種の異なる機器のケース間の電位差をテスターで測ればすぐに判ります。 ごく普通の機器では10Vから20Vくらいの交流電圧が存在します。ところが、工業用の計測器や電源装置は、ほとんどの機器が3線式の電源コードを使い、シャーシは必ず大地に接地するように設計されておりますが、一般家庭や簡易の作業台の場合、アース端子はどこにも接続せずに使っているのが現状です。これらの機器は前述の1次側とシャーシ間に結構小さいインピーダンスをもつコンデンサが接続されている事が多く、例えばDC電源とオシロスコープのGNDどうしを手で触ったら感電したという事もよく発生します。

DC電源のGNDを接地していない場合、GNDの電位は宙に浮いている状態になります。しかし、大抵の電源はそのノイズ対策の為、1次側とシャーシの間にのノイズフィルターという名でコンデンサが接続されています。そこへ、接地されたこて先をもつハンダゴテを当てると、前述の電圧分の電位差が回路素子に加わり、例え通電してなくても、回路素子を壊してしまうという事態になる訳です。 最近のスイッチング電源などは要注意です。

電子回路を検討する場合、ハンダゴテのこて先は完全に絶縁状態にして、回路素子にこて先を当てても電位差が生じないようにします。 ハンダゴテも電源も接地したらいいではないかと言われるかも知れませんが、それは貴方が管理している機器だけの事で、「ちょっとハンダゴテ貸して」と借りた途端、大事な試作回路を壊してしまうのです。

電源プラグが3ピンで機器をGNDへ接続する事が義務付けられている国では、測定器、DC電源を含め、ハンダゴテのGND線(緑と黄色のらせん模様)をニッパで切っていました。 感電のリスクより、検討する回路が壊れるのが怖かったのです。 また、このGNDラインがつながったままの場合、測定系にループが出来て、正確にデータが取れないという問題の対策としてもGNDラインのカットは必要でした。 この国の中にある工場で、問題のあるプリント基板を検討しようとして、ハンダゴテを借り、64ピンのマイコンの足を再ハンダしようとした途端スパークが起こりマイコンが壊れたのは言うまでもありません。結局、ほとんど設備のない場所で64QFPのマイコン交換は丸1日かかってしまいました。

ちゃんと設計された工業用DC電源はGND端子をケースにつなぐか宙に浮かすか選択できるようになっています。実は、宙に浮かして安心していても前述のフィルター名目のコンデンサはつながっています。 また、PCはほとんどスイチング電源ですから、PCのGNDは大抵20Vくらいの電位差がありますので、例え微弱電流しか流れないにしても、耐圧以上の電圧が一瞬加わる事により、半導体を壊してしまうのです。 トランジスターやICを壊して、ロスを発生させる前に、アナログテスターでハンダゴテやDC電源やその他の機器のGND間のAC電圧を測定して置くことですね。そして、AC電圧が小さくなるように各機器のプラグの極性を変える事です。  最近のデジタルテスターは入力インピーダンスが高くて、のきなみ高電圧を表示します。 20KΩ/Vようなアナログテスターの方がこの判定はより正確です。

ハンダごてのこて先への電圧リークは論外です。こて先と接地間で電位差が生じるようなハンダごては、こて先を接地する前に、即廃棄する事をお勧めします。

最近の事例としては、GNDラインが接地されていないPCを、USBケーブルでVNAにつなぎ、VNAのテスト端子をアンテナにつないだら、高価なVNAが壊れたという悲劇が有りました。

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