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2013年11月10日 (日)

バランによるロス

<カテゴリ:アンテナチューナー>

MMANAのシュミレーションによる給電部のインピーダンスや共振周波数が、アンテナアナライザで測定した給電部のインピーダンスや共振周波数と、かなり差がありましたが、MMANAの癖やアンテナの周囲の影響だろうと、諦めていました。 しかし、最近、3.5MHzの効率の改善を行うべく、トランスだけの整合回路を実験したところ、使われているバランが、期待している状態になっていない事に気付きました。

今まで使用していたバランは、コアのギャップに紙を挟み、コアの磁気飽和を防止するようにしたクランプコアを使っていました。 そして、ハイバンドでノイズカット能力が確認できるなど、それなりに機能していました。平衡線をコアに巻いたフロートバランの場合、片側のラインだけを見ると、大きなインダクタンスにより不平衡電流を阻止しますが、バランの中を流れる平衡電流に対しては、インダクタンスは往復でキャンセルされ、実質ゼロになるのが理想です。 しかし、実際はこの平衡電流に対しても、インダクタンスを有し、実測で0.56uHくらいになっていました。      給電線に0.56uHのインダクタンスが存在しても、ローディングコイルが挿入されたのと同じ効果ですから、MTUを使う整合システムでは、これを含めて整合させますので、問題になる事は、ほとんどありません。 

しかし、3.5MHzで、バランのインダクタンスを加味したシュミレーション結果は、共振周波数もインピーダンスも全く一致しないのに、バラン無しの時の共振周波数のMMANAシュミレーション結果と実測結果はかなり一致している事が判りました。    原因は平衡線間の静電容量かも知れないと、この容量を測ってみました。Balan2_3

すると、58PFの容量が検出されました。そして、左上の回路のごとく、バランとアンテナとの間に、この58PFを挿入して、MMANAでシュミレーションすると、一致とはいかないまでも、かなり近い共振周波数を得る事ができました。 なお、インピーダンスはMMANAに注釈がある通り、シュミレーション値よりかなり高い実測値でした。 また、この静電容量有り無しによるゲイン差から、静電容量がある方が約16%もロスしている事が判りました。 

線間容量が増えた原因は、バランスを重視する為、平衡するワイヤーを互いによじった事が一番影響しているようです。

バランの線間容量が増えると、低い周波数での影響は小さいですが、高い周波数になると、これが、Qの低いローパス型のアンテナチューナーを形成し、みかけのインピーダンスを小さくしてしまいます。インピーダンスが小さくなると、これに整合するように調整されたアンテナチューナーのロスが増え、バランによるロス以上にアンテナチューナーのロスが増えてしまいます。また、バランの自己共振周波数を下げてしまいますので、共振周波数より高い周波数では、バランの効果は期待できません。今までのバランの共振周波数は約28MHzでしたので、28MHzの調整がシュミレーション通りにいかない原因にもなっていました。

通常のバランでは、ワイヤーを互いによじった方が良いと解説されていますが、純抵抗になった共振状態のアンテナに使う場合、広帯域性を確保するために必要でも、今回のような同調フィーダーを使用したアンテナチューナーに使う時は、弊害が大きいようです。

実際に困るのは、ロスが増加する事以上にシュミレーションと実際の共振周波数やインピーダンスが大幅にずれてしまい、調整の方向性を時々見失う事です。

Newbln

線間容量を減らすには、線どうしをよじらないことと、線間の距離を大きくする必要から、絶縁材の厚い電線を使いますので、クランプコアには巻く事が出来ず、フェライトバーに巻くことにしました。    フェライトバーは入手の都合で100mmの長さのものにし、電線はUHF用メガネフィーダーの外皮を裂いて、中の芯線を取り出し、利用しました。

このバランの往復線路上のインダクタンスは約0.9uHで、クランプコアよりバランスは悪くなっていますが、線間容量は約28.5PFまで改善しました。これを3.5MHzで使った時のロスは8%くらいですので、クランプコアより8%は改善できた事になります。 このバランの自己共振周波数は31MHz付近になりましたので、とりあえず、10mバンドまでは使えるでしょう。

3.5MHzで8%くらいのロスなら、28MHzではもっと大きいのでは?とMMANAとTLWでシュミレーションしてみました。所が、以外と影響は少ない結果がでました。

Balanloss10m 「チューナー出力」で示す数値は100%の入力に対してチューナーから出力される割合です。92%とある場合、100W入力した時、チューナー出力は92Wしかなく、8Wロスしたという意味になります。

「バラン無しを100%とした時」の数値はチューナー出力にゲインの差を加味した数値です。

ロスの値はチューナーに使われているコイルのQで大きく変わります。私のチューナーで使われているコイルのQは100くらいですから、バランの有り無しで約6%くらいしか変わりません。 実際にバラン有り無しで、28MHzをワッチすると、Sの差はほとんどありませんが、ノイズはSふたつほど、バラン無しの方が多くなります。

同調フィーダーにバランを使ったとき、共振周波数が大きくずれたり、パワーがロスしているような気配を感じたら、一度バランの線間容量を疑ってみる価値はありそうです。

先輩諸氏が、フェライトバーに平行線を巻いて、バランを作成していますが、磁気飽和だけの問題ではなく、線間容量の増大という問題も同時に解決する手段でもあるんですね。 今回は、メガネフィーダーの芯線を取り出して、巻線しましたが、色々とアドバイスをして頂いたOMから、メガネフィーダーの黒色の外被ごと巻き込んで好結果を得たという話を伺った事を思い出しました。

この問題の提起となった、トランスにより整合させた3.5MHz用アンテナは、どういう訳か、パイマッチのMTUより受信時のSが落ちてしまいました。 その後の調査で、アンテナ整合回路によって、アンテナの打ち上げ角が変わるという問題である事が判りました。 

 

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