バリコン式ATU mark 2
新マルチバンドアンテナ用に製作したLDGのKT-100をベースとした、プリセット型ATUを使用して、リレーの接触不良をだましだまし1年間使ってきました。 しかし、この場に及んで、複数のリレーが接触不良を起こし始め7MHzや18MHzが整合しなくなりました。 簡単に整合するのは21MHzだけで、それ以外のバンドは何度も再チューニングが必要となっていました。 また、FT8を運用始めた事により、ATU内のコイルのコアが発熱し、SWRが悪化する現象から、出力を50W以下に落とす必要があるバンドもありました。 このKT-100は12年前に購入したもので、使用されている中華製のリレーなら、こんなもんかと諦めざるを得ません。
この状況から、昔製作して、廃棄処分予定だったバリコン式ATUを引っ張り出し、現在使用中のプリセット型ATUに改造できないか検討を始めました。
まず最初に、コンパイラーがV2.46になったXC8との闘いです。 今までのVC式ATUはXC8のV1.32でコンパイルされていましたので、V2.0から導入された大幅なコンパイラーの仕様変更に対応しなければなりません。 そして、プログラムを詳しく読んでいくと、なぜ、このようなフローにしたのか?と疑問が続出しました。 当時のプログラム開発能力は、やっとエレキーがバグ付きながら動かせる程度のレベルで、今見たら完成度が悪いですね。
今回、mark2化に改造するに当たり、操作は全てシャックに置いたコントローラーから行う事にし、ATU本体のキーもLCDの表示も廃止し、いくつかのデバッグ用LEDのみ付けました。 コントローラーとの通信はUARTを使い4800ボーのスピードで行います。
ATUの配線図 VC_ATUmk2_main_V09.pdfをダウンロード
コントローラー配線図 VC-ATUmk2_contoroller_V09.pdfをダウンロード
以前のATUから改善したポイントは以下です。
・回転角を読み取る可変抵抗は270度回転しますが、バリコンは360度以上回転しても、実際に使用出来る範囲は180度です。 この為、モーターが暴走し、可変抵抗のストッパーに当たっても、モーターが止まらず、ギア飛びをおこしていたので、この部分の制御を一からやり直し、考えられる全ての異常動作が発生しても、可変抵抗器のストッパー超えが起こらないようにしました。(したつもり)
・従来のコイルのタップ位置はMTUの仕様にならい周波数に依存するように選択し、それから外れた時は上下の隣のTAPに移るという動作でしたが、実際のアンテナの場合、インピーダンスが低いときなど、大きくずれますので、まず最初に、SWRが最小となるTAP位置を決めてから、VCでSWRのサーチを開始する事にしました。 しかし、VC角度により、SWR最小のTAP位置は異なり、マイコンでは最適値を探す事はできませんでした。 やむなく、デフォルトのTAP位置を5と仮設定し、SWRが1.2以下にならないときはマニュアルでTAP位置を探す事にします。 この場合、SWR最小のTAPが最適とは限らず、TAPだけ切り替えて、SWRが最低となったTAP位置が7で、SWR最小値は1.6にしかならず、一つづつTAPダウンっしてSWRが1.1以下になったTAP位置は4だった事もあり、自動でディップポイントを探すのは不可能と悟った次第です。
・モーターギアのバックラッシュの為、VCの停止位置と可変抵抗の停止位置がぴったりそろわないという従来からの欠点を補う為に、VCの角度も、マニュアルで動かす事が出来るようにし、SWRが最適になったら、これもマニュアルでEEPROMにデータを記録出来るようにしました。 ハイパスT型のATUの場合、真の整合条件とは異なるVCの角度条件でもSWRのディップポイントが存在し、プログラムがこの条件に陥った場合、SWR最小値が1.5以下にならない事が発生します。 この状態に陥った場合、真のディップポイントなのか、偽のディップポイントなのかマイコンでは判断が付きません。その為、TAP位置を変えて再度ディップ条件を探し、もっと良い整合状態があるのかを確認するという動作が必要になりますので、マニュアル動作はマストです。 この様にSWR最適ポイントを探すのは、マニュアル操作を含めて、かなり時間がかかりますが、一度最適整合を見つけたら、EEPROMに記憶させておきますので、2回目からはプリセットコール一発で最適整合できます。
・このバリコン式ATUのオリジナルは、3.5MHzから28MHzがカバー範囲でしたが、1.8MHz用の約40mのロングワイヤーに対応する為1.8MHzまで拡大します。 50MHzは現在のループアンテナが対応出来ておらず、1年間の交信実績もゼロでしたので、このATUでは対応しません。
・ATUをスル―し、SWR計と周波数カウンターだけが機能するモードを設けます。
・リレー式ATUの時有った、使用周波数とアンテナの種類の間違いを防止する機能。 例えば14MHz以上はループアンテナ、1.8MHzを除く10MHz以下は垂直ダイポール、1.8MHzと3.5MHzは、ロングワイヤー、特に3.5MHzは垂直ダイポール(DX用)とロングワイヤー(国内用)のように使い分けるという条件を無視した組み合わせでの使用により、アンテナの性能が発揮されない問題の解決。 手動によるアンテナの選択機能は付いていますが、実際の運用では使用しないようにします。
最終的には、プリセットされた整合条件になるように、VC角度とTAP位置を設定しますが、VC角度はギアのバックラッシュが角度表示で1から2くらいありますので、これによる不整合の度合いが、実際のアンテナで許容できるかという事になりますので、アンテナに接続しないと、使い物になるかどうかは判らない事になってしまいました。
上の画像はバラックのコントロール回路で、最終デバッグ中のバリコン式ATUです。
ANTの負荷条件は純抵抗ですが、以下のように整合できました。
上の表は、左から順にアンテナのインピーダンスが50Ω、15Ω、500Ωの時のATUの整合条件を示しています。 全てリアクタンスゼロの条件ですが、VCの角度範囲が約10から190まで有効ですので、リレー式のATUの整合範囲以上をカバーしています。
約1か月のデバッグで、ほぼソフトが完成しましたので、今上げているATUを降ろし、リレー式ATUを取り除き、バリコン式ATUに入れ換えました。 また、コントローラーも中身をそっくり入れ替えて、まずは、机上でのテストです。 とりあえず、50Ωの負荷をつないで、21MHzでの整合テストを行うと、正常に働きましたので、この状態で、デバッグを続ける事にします。
ATUの背が高くなったので、今までのBOXに収納出来るか心配でしたが、約2mmの隙間を確保して、蓋を閉める事ができました。 今まであったLやCの微調整用リレーのみは残っていますが、配線とLやCは取り外してすっきりしました。
上は、コントローラーと接続し、デバッグ中のVC式ATUです。
50Ωの負荷抵抗ですが、1.8MHzから28MHzまで、整合条件を確認し、かつ100WのCW送信でも問題が無い事を確認できました。 ただし、ほとんどのバンドが1.10以下のSWRに収束しましたが、18MHzのみ1.3以下に落ちませんでした。 原因は、SWRを1.5以下に追い込んだ後のモーターON時間が短く、ギアのバックラッシュ分しかモーターを回していない為、いつまでたっても収束しない状態でしたので、18MHz専用のモーターON時間を設定し、従来の2倍の時間に設定し解決しました。 後は、仮の高さのアンテナに実装して整合テストと25mの通信ケーブルとUARTの相性を確認するだけになのですが、連日39度を超える暑さの中で、しばらくは机上でのデバッグを続けます。
さらに1週間デバッグを続け、大きなバグも見つかり修正しました。 次の日曜日、相変わらず39度の暑さが続きそうですが、昼前に、ゲリラ豪雨。 雨が止んだ直後の外気温は27度。 これはしめたと、VC式ATUを仮の高さに降ろしてあるマストに括り付け、高さはそのままで、チューニングテストを行う事ができました。 心配していた25mのコントロールケーブルと4800ボーのUART通信は全く問題なく行える事を確認できました。 そして、7MHzから28MHzまで最大SWR1.6で整合できました。 この日はフィルドデーコンテストが行われているのですが、あいにくの磁気嵐の際中で7MHzは雷のノイズだらけで聞こえるSSB局は1~2局だけ。 21MHzでも8エリアのCW局が1局だけ聞こえますが、SSBは皆無。 ゲリラ豪雨が雷を伴いながら連続して迫ってくるので、テストはここまで。 アンテナの同軸ケーブルをリグから外して、様子見です。
2024年8月
夏休みの初日にアンテナマストを最長に伸ばし、やっと正規の高さに上げる事ができました。 その日の晩に、1.8MHzから29.7MHzまで全バンドの整合を取り直し、EEPROMに記憶させました。3.5MHz以下のバンドでSWR1.8以下にならない現象がありましたが、FTDX101Dの内蔵SWRメーターではSWR1.2くらいになっています。
ここ3日間くらいは、SNが連日250を超えていますが、DXの入感はさっぱりです。 しばらくはATUのテストだけが続きそうです。
8月のお盆休みを利用して、再度チューニングテストをやってみました。 先日、整合OKでEEPROMに記憶したプリセットデータを呼び出しても、SWRが3を超える場面がかなりの頻度で出ます。 同じ日に記憶したデータなら、これを呼び出しても、ちゃんと整合状態が再現するのですが、数日前のデータの場合、不整合になる事が発生します。 原因を調査中です。
調査した結果、VC2に連動した可変抵抗器のギアが軸との間でスリップしているようです。 昼間、ATUのBOX内が多分50℃くらいになり、若干の熱膨張でスリップが発生し、バリコンは回るけど、可変抵抗器が回らないというのが原因のようです。可変抵抗器の軸を約0.3mm Dカットし、完全な周り止めを追加しました。 また、プリセットコールをON状態で周波数を切り替えた時、ターゲットのバリコン位置をオーバーランして、整合が崩れる問題は、VC2を制御するソフトのバグでした。 バグの原因は、VC2のモーターをONした後、現在のVC角をUARTで送信している内にオーバーランしてしまうもので、タイミングによりオーバーランの量も変わっていました。 対策は、プリセットデータを呼び出してVCをプリセットする時に限り、VC回転中はUART送信を禁止し、VCの回転が停止してからVC角をUART送信するようにしました。 また、回転方向によるVC角のズレを少しでも改善する為に、必ず2回連続して、VC角度を設定するようにし、2回目では、モーターの速度が上昇しきれないうちに指定角度で停止する事により停止角度の精度が上がるようにしました。
また、SWRが下がってくると、モーターのON時間を短くして、SWR最小ポイントを飛び越えないように細工していますが、温度により、この時のモーター回転量が大きく変化し、室温27度で最適に絞りこみが出来るように時間を設定した場合、夏の昼間はBOX内が50度を超えるような熱さになり、短時間のモーターONでもSWRディップポイントを飛び越えてしまい、SWRが収束するまで数倍の時間がかかっています。 室内でのシュミレーションは抵抗負荷による結果で、実際のアンテナの場合、リアクタンスを含みますので、VCの角度がもっとクリチカルになるのも影響しているようです。 この対策として、コントローラーから、モーターON時間を変更出来るようにしました。 キー操作やエンコーダー操作では変更できませんが、コントローラーのプログラムを書き換えると変更が可能になります。 いちいちATU BOXを降ろす必要がなくなりますので、夏と冬でON時間を変更することが簡単になります。
2024年9月
8月末に台風10号が広島を通過する事になり、事前にアンテナをたたんだ為、しばらくATUの検討が出来ていませんでしたが、9月の上旬最後の日に、今回仕込んだモーターON時間の変更確認を行う事ができました。 1.8MHzから28MHzまで最短でSWRが収束するON timeを設定し終わった結果、どのバンドも初期設定の半分以下に落ち着きました。 この確認は夜8時過ぎにおこないましたので、昼間の暑いときとは条件が異なるかも知れませんが、この状態で様子見です。
バンドを切り替えた時、リレー式の場合、受信ノイズが即大きくなりますが、このバリコン式の場合、3秒くらい遅れて急にノイズが大きくなり整合した事が判ります。
VC_ATU_mk2_main_v1r00.cをダウンロード
VC_ATU-mk2_controller_v1r01.cをダウンロード
T型アンテナチューナーの欠点であるコイルのタップ位置により偽のSWRディップポイントが発生する事を解消する為、コイルのタップが無いZ-MatchアンテナチューナーのATU化にトライします。